二人のしるし
君の鍵つきアカウントに侵入した僕は嬉しさで胸が震えた。美しい君は、この澱んだ世界をずっと恨んでいたんだね。
僕と同じだ。
君の怨嗟の籠もった呟きたちを、僕の心に落とし込むためにゆっくりじっくり咀嚼してスクリーンショットを撮り頭にも刻んでいく。
そして僕は、しるしを見つけた。
君の生白い手首が露出した写真!
カラフルなシュシュでいつも封じられている手首、それをめくるとやっぱり刃の通った小さな痕がいくつもあった。
生唾を飲み込む。定規で計ったように均一の間隔で切られていること、引っ掻いて腫れた桃色の美しさのこと、
芸術的だった。
僕はその写真をそのままスマホのロック画面に設定した。毎回君の手首を撫でて解除するのはとても興奮したよ。
「なん、で、この写真を、アンタが……」
僕が目を離した隙にスマホを覗き見していた君が震えている。
覗き見が趣味だってことも、似てるんだね。
とても嬉しくてお互い様でこれからも似た者同士うまくやれるね。
僕の腕時計の下にも同じ傷があるんだ。これを見たら君も、きっと安心するはずだ。
さあ、君の華奢で綺麗な手首を取らせて?
二、三歩にじり寄る。
君は、僕の様子を不安げに伺いながら窓辺に寄りかかって……ついに、僕にその手首を見せたかと思うと植木鉢を振りかざした。
気がついたら、腕時計を更に囲う形で鉄の腕輪が嵌められていた。目の前には君はいなくて数人の警官。
君は僕の秘密を知らなかったのだから、すれ違いでこうなってしまったのも仕方なかった。
こうして僕の傷跡(しるし)は厳重にしまわれ君から遠ざかってしまった。
でも、この傷跡がある限り君と僕は呼ばれ合うはずだ。君との邂逅をいつまでも夢見ているよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます