第二章 冒険者ギルドと神々の遺産(アーティファクト)

第零話「プロローグ」

 そこは暗い場所だった。


 暗く、まるですべてのよどみが澱のように堆積した場所……。


 人が足を決して踏み入れるべきでない場所……。


 そこに、ひとりの男が立っていた。


 灰色のロ-ブを頭からすっぽりと被り、見る者もいないその場所ですら、すべてからその身を隠すように……。


 男の手には1本の錫杖が握られている。


 禍々しいオーラを放ちながら、それでいて、その器物の本来の持つ神々しさを感じさせるように。


 そして男は、やおら手に持った錫杖を地面へと突き立てた。


「とりあえず、これでちゃんと機能するはずなんだけどな。まぁ、ここまで入ってこられる人間はいないと思うけど、念のために保険はかけとくか」


 男はそう言うと、いくつかの作業を行い、満足げに辺りを見渡した。


「さて、どうなるかね。あとは、騒ぎが始まってからのお楽しみって事かな。しかし、あいつ、人使いが荒すぎだろーがよぉ」


 そう呟いた男の姿は、次の瞬間にはその場から消え失せていた。


 先ほど男が突き立てた錫杖も、いつの間にかどこにも見つけることは出来なかった。


 澱んだ空気が漂う空間には、先ほどと同じ静寂が戻っていた。


 いや、先ほどまでと違うことが一つだけ……。


 どこからともなく禍々しいオーラが溶け出し、その澱んだ空気と一体になって辺りに漂っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る