目は口ほどに、心はもっと。

糸吉 紬

拝啓

あなたが今日、死にました。

人の心は晴れやかな時が異常事態で、曇り果てて、もやもやと、くすぶっているのが本来の心の在り方だと、私は生まれた時から知っていたのに。世界中の人がそれを知らないなんて、今日知ったのです。そのことに、優越を興奮を孤独を感じて、私はつい思うままに走り出しました。そうして、疲れたらビー玉の入ったラムネを買いました。

カランコロン、コロン、カララ

ビンのくびれに嵌ったそれが、欲しくて欲しくて。たまらなかったものですから、つい。

ブン。パリンッガシャん

ころころころ、ころん

浅葱色のビンが砕けて、雲間から射す太陽に照らされて、ああ、なんとも、これは


本当は私は、ビー玉などは欲しくはなくて、綺麗なものが見たいだけだったのでしょうか?わからないのです。あなたと居た時、ビー玉を綺麗だと思ったことなんて、

一度もないのです。

いつも側にいた、一等綺麗なあなたが、いません。ですから、綺麗だと思うものが増えました。あなたに、見せたいと思うものが。

雲が流れる青空を、

走ればびゅうびゅうと耳の横で鳴る風を、

手に入らないから美しいビー玉を、

ビー玉よりずっと美しかったビンの破片を、

庭の草花は露を弾いて、

陽は沈んで、

空は朱色と真朱まそおと藤紫で、

次第に夜の黒が一面に溶け出して、

月は……私は目が悪いので、一回り、大きく見えますね。

夜空には星。これも少し、大きく見える。

あなたはどこでしょうか。ああ、まだ、こちらに光は届きませんよね。

私はあと何光年生きれば、あなたの光を、この身に。


あなたの光を受けた私は、おそらく、この世で最も綺麗なので、

あなたにも見てほしいものですね。


今日、在るべきように在れない私の心を、

どうか、許して

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