襲撃


 晴れた空の下、トップ・ザ・ヒーロースクール。広い体育館には総勢百に及ぶ少年少女が居並んでいる。


「ようく来た! 未来のヒーロー候補諸君! 私がカビラーン・マイシュだ!」


 黒髪をオールバックにしてジャージの襟を立てて来ている男。カビラーンは熱血指導で有名で、好き嫌いの別れる男だ。


「知っての通り、我が校からは多くのヒーローが世に羽ばたき、人々を助けている! 君たちにも是非、そうなって欲しいものだ!だが……」


 言葉を切ると突然服を脱ぎだしたカビラーン。女子生徒が目を覆い、男子生徒は怪訝な目を向ける。

 脇から一人の生徒が現れた。カビラーンの一回りは大きい二メートルに迫る巨体と、それに見合った筋肉の塊は手に大きなハンマーを持っている。


「ヒーローになるために必要なことは沢山ある! その一つを今教えよう!」


 これから何が起こるか、大方は予想がついている。


「さあ、来なさい!」


 ハンマーを振りかぶり、横にスイングするとカビラーンに衝突し轟音を響かせた。生徒たちは耳を覆うが、カビラーンは一切たじろぐこと無く、なんとハンマーが砕け散った。


「強靭! 心の強さがヒーローには必要だ!」


 全員が、「それは今関係なかったのでは?」と思いながらも口には出さにいる。

 その時後の入り口から若い教師が走り込んできた。


「大変です、カビラーン先生!」

「ぬうん、どうしたヨワーキー先生! 何時も言っているが、教師がその様子では生徒も心配しよう!」


「す、済みません! でも、本当に大変なんです」

「なんだと言うのだ!」


「イービルの襲撃です!」

「なんと!」


 驚いてみせたカビラーン。しかしあまりに大袈裟なリアクションで、まるで大事に思っている様子はない。


「ほ、本当なんですよ!?」

「うむうむ。わかっているとも。だが心配には及ばん、今日は最上級生が本校で訓練中である!」


 新入生たちから歓声が上がる。近年はまだ卵のヒーローがその実力を競う大会などもあり、巷で人気を博しているのだ。この校の生徒にもそれはいて、上位入賞の常連だ。特に『モドゥリーニ・スターニー』は容姿も端麗で、既に一流警備会社に内定が決まっているとの話だ。


「残念、スターニー君は今研修中だ!」

「「えー!」」


 主に女子生徒からブーイングが巻き起こる。


「……と、言うことだ!ヨワーキー先生、今すぐ彼らに――」

「その生徒たちが、倒されてしまったんです!」


 沈黙が会場を包み、次第にざわめきが大きくなる。それをかき消すように一際大きな声をカビラーンがあげた。


「なにいいいいいぃぃぃ!」

「どうしましょう!」


 カビラーンが息を吐くと、顔を上げる。その顔は今までの熱血教師のそれではなく『ヒーロー』のものだった。


「私が向かう! ヨワーキー先生はここを頼みます!」

「ええ!? か、構いませんが、大丈夫ですか」


「任せよ、私も引退したとは言えヒーローの端くれだ」


 そう言いながら体育館を去っていく。

 ヨワーキーは壇上に登り生徒に話しかける。


「え、えーと。生徒の皆さんは、安全が確保されるまでここで待機です……」






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 カビラーンは外に出て、言われた現場へと向かう。途中で同僚のミルクルと出会った。


「ミルクル先生、貴方もいたのですか!」

「カビラーン先生、朝挨拶しましたよ……」


 クルーパー・ミルクルは痩せぎすの、頬のコケた長髪の男だ。常に低いテンションも相まり不健康そうに見えるが、健康診断は問題なく、更には武闘派だというのがこの学校の七不思議の一つだ。


「今日は非番の先生も多い、そこを狙われたのだろう」

「数は不明……、ですが手配中の『クーピー』が首魁のようです」


「うむう……、サイキッカーは苦手なのだが……」

「私もです、ですが気合でなんとかしましょう……」


「うん、相変わらず見た目と言動がマッチしない人だ!」

「貴方は正直すぎますよ……」


 体育館からほど近い場所にそれらはいた。程近いとはいってもこの学校の敷地はテーマパークのように広く、ここまでニ百メートルはあった。


「ははあ、待ってたぜ」

「お前がクーピーか!」


 クーピーは片側の前髪が金髪で長く、逆側が青で刈り上げられており、鼻にはピアスが多く開けられている。

クーピーは倒した生徒を重ねてその上に座っている。


「なんと反社会的容姿! そのような姿を新入生に見せるわけにはいかん!」

「先生、そういうことをあまり口に……」

「新入生! そうそれ、それに用があるんだよ」


「用とはなんだ!」

「へへ、将来のヒーロー様候補に、『挨拶』しようと思ってよ!」


「それなら正式に連絡、アポを取って貰いたい!」

「カビラーン先生、そういうことじゃ……」


 ミルクルが呆れる。


「まあ、こいつらでもいいと思ったがあんたらのほうが良いな」

「なんのことだ!」


「新入生徒への『土産』だよ」


 そう言うと座ったままクーピーが手を捻る。するとカビラーンの体が浮く。


「むお!? 糞う、超能力か!」

「だからさっき言っていたでしょう……」


 ミルクルが見上げる。


「けど、そっちに夢中だと……」


 ミルクルが素早く接近し、腰だめから正拳を放つ。


「ばーか、なんで俺一人だと思ったのよ」

「……馬鹿な」


 後ろから殴られ倒れるミルクル。後ろにはいつの間にか男達が六人。


「まさか! 透明化の能力者がこれだけ!」

「苦労したぜぇー。集めるのにはよお、こいつらがいればなーにが出来っかなあー」


 嘲るように嗤うクーピー。やがてカビラーンを叩き落とし、歩き出した。


「ぐはっ! ま、待て……!」

「おう、お前ら」


 教師二人は抱え上げられ、体育館へと連れて行かれる。

 横の入口まで来たところで、クーピーの足が止まった。


「……んだあ、お前」

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