第四十八話:『ヒロインに使われる皿』

「いやー暑いですねぇ」

『暖房で室温を三十度以上にすれば暑いのは当然かと』

※女神空間には四季は存在しません。

「気分だけでもがっつり夏を満喫したいじゃないですか」

『転生先で何度も満喫できるでしょうに』

「そこはほら、女神様と一緒というのに味があるのですよ。それに異世界だと四季が綺麗にあるのは意外に少ないですよ?」

『それもそうですね。貴方が日本人なせいですっかり私も日本かぶれになってしまっているようです』

「……そう言えば日本人……だった?」

『異世界転生のし過ぎで自分の過去を忘れかけていませんかね』

「いえ、忘れかけたと言うより失いかけたと言うか。死ぬ前の食事ならしっかり覚えているんですがね」

『記憶力だけは良いですからね。しかし言われてみればこの女神空間以外ではほとんど人外、というより物として活動していますからね。魂の形が人型だということだけでも十分に驚きです』

「まあ人間にはできないことも意外とできるようになりましたしね」

『例えばと話題を振ってみましょうか』

「右手で右手首を掴めます」

※君はできるかな。出来たら凄いぞ。凄いだけだぞ。

『地味に不気味で凄い』

「気の持ちようで骨を軟体化させることができるようになりましたからね」

『やはりもう人ではないのかもしれませんね』

「そもそも人は何をもって人足らしめるのでしょうか」

『急に哲学ですね。地球の哲学者の言葉を借りるならその考えを持てることなのですが。まあ異世界の生物には知性もありますから、そう考えるとなかなかに複雑ですね』

「つまり、自己申告すれば人であるということで良いわけですね」

『賛同すべきかどうか少し悩みますね。人でありたいと願う者にとっては良い言葉であっても、物に異世界転生した物がそうのたまってもという気持ちです』

「一寸の虫にも五分の魂とかいうじゃないですか。物にだって魂はありますよ」

『ない方が一般的なのですがね。ところでさっきから何を書いているのですか』

「ああ、これですか。紅鮭師匠からいつも瞬殺されてばかりで、強くなる方法とかはないかと聞かれましたので。こうして俺が普段異世界でやってる処世術を大雑把にまとめているんですよ」

『紅鮭もなかなかに気にしていたようですね。どれどれ……開幕世界に存在する魔力の存在意義を理解するとありますが、難易度が高すぎませんかね』

「そうですかね。神様によって魔力の意味合いが違ってくるのでこの辺を間違えてしまうと突き詰める時に苦労するんですよ」

『貴方は毎度世界の真理に迫っているというわけですね。雑に強い理由はそれですか』

「もっと技巧に走りたいところですけど、魔力のある世界って大抵魔法とかを極めた方が強いんですよね。全力で異世界転生ライフを楽しみたい身としては縛りプレイはあまりしたくありませんし」

『異世界で魔力なしの世界となるとただの時代遅れな世界ですからね。進んでいればファンタジーではなくSFですし』

「こういうのはご近所さんが得意とは思うんですけどね。ただあの人は深入りしたがらない人だしなぁ」

『たまに様子を見てますが未だに魔法のまも使っていませんね』

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「そこはまあ人それぞれですよね……っと、後はこれをゆうパックで送ってっと」

『神の空間にゆうパックは届きませんよ』

※届きません。多分。

「ああ、日本にあるものではないですよ。異世界転生勇者斡旋事業神のレターパック、略してゆうパックです」

『そんなものがあったとは』

「女神様は他の世界の事情には疎いですからね。ダメですよきちんと神々の世界の常識くらい学ばないと」

『脆弱な人間風情に神々の世界を語られる日が来るとは。まあそうですね。便利な物があるのであれば使わないのは損ですし。それでは異世界転生の時間です』

「締め切りに間に合ったって感じですね。ではがさごそ……羽賀唯人さんより『ヒロインに使われる皿』」

『カレー皿を思い出しますね』

※第十三話参照。

「リアンは元気にしているかなぁ」

『流石に寿命で死んでいるのでは。世界のシステム的に時間の流れが遅い可能性もあるにはあるでしょうけど』

「あれから何年でしたっけ」

『千年以上は過ぎているかと。一個人の名前をよく覚えていますね』

「あの子が美味しそうにカレーを食べる姿は今でもしっかりと思い出せますよ。しゃしゃしゃっと」

『別にスケッチブックに描かなくても……そして写真のように上手い』

「女神様の写真を持ち込めないときはこうやって自前で拵えていますからね」

『荷物検査で引っ掛からない理由はそれですか。ところできっちりと処分はしているのでしょうね』

「女神様の絵を処分だなんて、とんでもない。きちんとその世界に永遠に残るように処置を施して世界最高峰の遺産として残してありますよ」

『これは貴方の巡った世界に回収に行く必要がありますね』



『冷静に考えればただの空想による絶世の美少女の絵ですし、無理に回収する必要はありませんよね。別に外に出るのが億劫だとかそういうわけではありません。そう言うことにしておきましょう』

「ただいま戻りました」

『おかえりなさい。……何故に日焼けを』

「夏ですし、全身でしっかり日焼けしてきましたよ」

『皿ですからね。全裸でしょうからね。ヒロインに使われる皿でしたよね』

「はい。田舎村に住む勇者ルボロの幼馴染の女の子、エウリという少女がヒロインです」

『一応王道的な感じですね』

「ある日エウリの手により窮地に瀕したルボロが勇者として覚醒し、魔王を倒す旅にでることになります」

『さっそくヒロインに危険人物の臭いが』

「エウリもそれに同伴し、彼女が持ち運んでいる野営セットの皿の一枚に転生してきました。ちなみに木製です」

『最後は焼け死ぬ未来が見えました』

「流石女神様、聡明ですね」

『わからいでか。しかし自分を窮地に追い込んだ幼馴染を同伴させる勇者は懐が広いですね』

「懐の広さもありますがエウリは面倒見がよく、幼い頃からルボロの面倒をよく見ていて性格も良いですからね」

『勇者を窮地に追い込んだことを帳消しにできるとは思えないのですがね。その辺を詳しく』

「実はエウリ、メシマズ系ヒロインでして」

『なるほど。もう理解しました』

「流石女神様、聡明ですね」

『わからいでか。しかし勇者の力を覚醒させるレベルとなると相当ですね』

「ええ、俺も最初彼女の料理を注がれた時は正体がバレていて、猛毒を流し込まれたのかと思いましたよ」

『まあ皿ですから毒では死ななさそうですが』

「そうですね。溶解耐性があって助かりました」

『思ったよりハイレベルなメシマズですね。私も料理は得意ではありませんが人に害を成すような料理は作ったことがありません』

「炭を食べ続けてリスポンした記憶はありますけどね」

『炭を食べ続けたら死ぬに決まっているでしょう。おかしなことを言わないでください』

「あ、はい。ただルボロも只ものではなく、幼少期からエウリの料理を食べ続けていたおかげで内臓の強さは俺が見てきた歴代の勇者中でもトップレベルでしたね」

『異世界を転々としている貴方が言うのであればそうなのでしょうね』

「エウリの料理を美味しそうに食べる姿には戦慄を覚えましたよ」

『健気な勇者ですね。それとも味覚が狂っているのか』

「ルボロは持ち前のパッシブスキルで『神の舌』を持つほどの繊細な味覚の持ち主でしたね」

『よくそれで笑顔でメシマズ料理を食べられますね』

「顔面は蒼白、ありえない量の汗、全身の痙攣、目は死んでいましたが笑顔でしたね」

『健気どころじゃないですね。素直に改善させれば良いでしょうに』

「それがルボロの神の舌によると食材は普通なんですよ。使われている調味料、料理に施されている処理なども普通の一般家庭のものと同じです」

『それがどうして皿を溶解させかける猛毒になるのでしょうか』

「そこはエウリのスキル、『死神の毒手』によるものかと」

『ヒロインが持っていて良いものではないですね。そしてパッシプではないということは任意での発動ではないでしょうか』

「ええ、ただ本人には自覚がなく、『ルボロのために美味しい料理を作ろう』と思うと発動するようで」

『無自覚の愛が重いですね』

「ええ、困ったものです。ですが悪いことばかりではありません」

『勇者の耐久力が上昇する以外に良いことがあるのでしょうか』

「例えば最初に二人が窮地に立たされた迷いの森、そこにいた森の主のエンシェントネオボアと遭遇した時の話です」

『古代なのか新なのかハッキリして欲しいですね』

「十メートルを超える体躯、オーラにより周囲の者の力を常時半減、更には恐怖状態のデバフを付与させると言った出鱈目な強さでルボロ達は逃げざるを得ない程でした」

『開幕に出会うモンスターとしてはえげつないですね』

「まあそんなエンシェントネオボアも二人が残した食事を食い漁ったことで死亡しましたが」

『予想はできていましたが、実際に聞くと哀愁がありますね』

「おかげで二人のレベルは一気に跳ね上がりましたね」

『遠距離キルでも経験値の入るシステムでしたか』

「料理を作っていたエウリにはキルの判定、一緒に食べていたルボロにはアシストの判定でしたね」

『随分とゲームチックなシステムですね。そして一緒に食べるだけでアシストとは』

「美味しそうに食べていたのでエンシェントネオボアも美味しい料理だと勘違いしたんでしょうね」

『勇者の演技力、なるほどアシストですね。ところでヒロインの使う皿こと貴方には溶解耐性があるのは聞きましたが、勇者の分の皿は大丈夫だったのでしょうか』

「勇者の使う皿ですからね。そりゃあ神の加護が掛かっていましたよ」

『普通日常品には掛からないと思うのですがね。神の子ならば聖遺物として残るかもしれませんが』

「ま、二人には聞こえない無生物ならではの悲鳴をあげていましたけどね。可哀そうな異世界転生者もいたものです」

『勇者の皿にも転生していた者がいましたか』

「お互い異世界転生者として腹を割って仲良くなろうと思いましたが、エウリ料理によって精神が壊されていたので結局は悲鳴の音色くらいしか覚えられませんでしたね」

『腹を割ったら廃棄されるでしょうからしなくて良かったかもしれませんね。ただ哀れとだけ思っておきましょう』

「ちなみに他の食器には俺が溶解耐性を付与していたので問題はありませんでしたね」

『その転生者に付与を与えるという発想はなかったのでしょうか』

「……流石女神様、聡明ですね」

『貴方が愚かなだけです。しかしその料理を食べさせるだけで相手を倒し、経験値が入るのであれば冒険も随分と楽だったのではないでしょうか』

「いえいえ、ルボロだけは理解していましたがエウリの料理をそんな風に使おうとは微塵も思わなかったんですよ」

『聖人ですね、その勇者』

「なので偶然出くわして逃げざるをえなくなったモンスターだけが彼女の料理の被害にあいましたよ」

『結果に関しては目を瞑りましょう』

「なまじ賢さのあるモンスターに限って、ルボロの美味しそうな食べっぷりに騙されますからね。流石はパッシブスキル『神の御業』を持つだけある」

『無駄に豪華ですね、勇者のスキル』

「戦闘技能は微妙でしたね『神の脛蹴り』とかはなかなかでしたが」

『なんでも神を付ければ許されるわけではないです』

「脛を蹴る時だけは周囲の時が止まって見えるかのような、誰もが認める脛蹴りでしたよ」

『過去のファンタジーもので脛蹴りを使うシーンなんて数えるほどですよ』

「煉獄剛炎雷鳴冥界蹴の基本的な型も脛蹴りモーションですよ」

※第二話参照。

『今に来て衝撃的な事実ですね。脛蹴りで原子分解て』

「まあ今の俺なら右ストレートでも使えますよ煉獄剛炎雷鳴冥界蹴」

『最後の一文字を大切にしなさい』

「旅そのものはなんやかんやで順調でしたが、流石に新たに仲間が加入するときとなると俺が一肌脱がざるを得ませんでしたね」

『皿がそれ以上何を脱ぐのかと』

「表面に塗られた漆とかですかね」

『洗うだけでささくれてしまいそうですね。それはさておき、確かに新規のメンバーはヒロインへの料理耐性はないでしょうし、うっかり仲間をキルしかねませんからね』

「ええ、なので俺は四人目の仲間になった魔法使いに対し、事前に警告をすることにしました」

『当然のように三人目が犠牲になってますよね、それ』

「久々に共闘できると思ったんですがね。格闘僧侶ベニッシャには悪いことをしました」

『異世界転生のイロハを学んでもまさか仲間の毒殺があるとは思わなかったでしょうね。そもそも共闘してた時ありましたっけ』

「……確か何回かはあったような」

『記憶力が良いはずの貴方が覚えていない時点で、貴方にとって共闘したと言う事実はないと思われますね』

「ただその魔法使いが酷いんですよ。エウリの料理に注意しろよーって話かけたら魔物と勘違いして過去に魔王すら撤退に追い込んだ地獄の業火で燃やしてくるんですから」

『皿に対してはオーバーキルですが、攻撃する判断は間違っていないでしょうね』

「まああの程度の炎、エウリの料理に比べればそよ風でしたがね」

『魔王すら撤退に追い込んだという触れ込みは一体。そもそも貴方は燃え尽きて死んだのでは』

「その辺はおいおいと。とりあえず軽く屈服させた後に事情を説明することで魔法使いも納得し、エウリの料理には手を出さないようになりましたよ」

『軽い屈服と言うのも妙な言葉ですね。ですが被害者がでなかったのは幸いです』

「まあルボロが美味しそうに食べている姿につい食べそうになったのは危なかったですが」

『神の御業は恐ろしいですね。ところでヒロインは自分の料理によるダメージはないのでしょうか』

「毒の沼から生まれた蛇が毒に耐性を持つようなものですからね」

『ヒロインにその例えはどうかと思いますよ。そもそも貴方がヒロインにその事情を説明すれば済む話では』

「それを言っちゃうとルボロが我慢をしていることがバレちゃいますからね。初々しい二人の恋仲を邪魔するのは野暮かなと」

『耐性を持つ筈の勇者が毎度窮地に追い込まれるのを阻止するのは野暮ではないと思いますがね』

「それに俺は皿ですし、皿が喋るってのはちょっと」

『魔法使いに普通に話しかけて地獄の業火で焼かれてましたよね』

「そりゃあ俺だって、仲良くなりたい女の子の一人くらいキープしたいですから」

『紅鮭が見殺しにされた理由が哀れ過ぎる』

「まあ結局胡散臭い皿だってことで距離をとられ続けてましたけど」

『自分を屈服させた皿と仲良くなりたいと思う女性は少ないでしょうね』

「そして物語はいよいよ佳境、魔王城へと移ります」

『遭遇したモンスターに毒料理を食べさせたことと、仲間うちでの惨劇しか聞いていないのですがね』

「エウリの料理で鍛えられたルボロの耐久力が高すぎて、彼がタンク役でずっと粘っている間に魔法使いが地獄の業火で敵を焼く展開の繰り返しですからね」

『パターン入っていますね。創造主のバランス管理能力が残念なようで』

「ただ困ったことに魔王も過去の歴史で八十五度も地獄の業火で撤退に追い込まれただけあって、その対策は万全でしたね」

『八十四回も学ばなかったことに関しては触れない方が良いとみた。ただそうなるとタンク役の勇者だけでは辛そうですね』

「ええ、神の脛蹴りにより魔王の両脛は砕けましたが決定打とはなりませんでした」

『普通両脛を砕かれたら決定打だと思うのですがね』

「足なんて飾りですからね」

『ちなみにそのネタ、後でやっぱり足が必要だったってオチですよ』

※パーフェクト〇オン〇。気になる人は『あんなの飾りです』で調べてみよう。

「実際魔王は涙目になりながらも浮遊し戦いましたからね。砕けた脛に再度神の脛蹴りを入れても痛がるだけで決定打にはなりません」

『ある意味効果的だとは思いますがね。では決定打は一体何だったのでしょうか』

「エウリの毒手が魔王の喉を貫いたことですね」

『脛蹴りを遥かに凌駕するえげつない一撃ですね』

「夜な夜なエウリに暗殺術の催眠学習を施した甲斐がありましたよ」

『ヒロインに対してのアクションが大人しいと思った私の落ち度ですね。まあ、当事者ではないので落ち度はないのですが』

「ルボロのために魔王を料理してやるといった意気込みにより死神の毒手もきちんと発動。確実な決定打でしたね」

『料理の解釈を無理やり広げるのはどうかと思いますが』

「しかし流石は魔王、諦めが悪い。死の間際に自爆魔法を発動させ魔王城ごとエウリ達を道連れにしようとしてきます。実に恨みがましい」

『脛を砕かれた上に追撃され、喉を毒手で貫かれたなら十分恨みはあると思います』

「タンク役のルボロは大丈夫だとしても、エウリや魔法使いは無事では済まない。そう思った俺は思わず飛び出します」

『勇者の耐久力の凄さは良く分かりました』

「俺はより狭い範囲で強力な自爆魔法を使用し、魔王だけを焼き尽くしました」

『自己犠牲の精神は悪くはないですが、突如目の前に現れた皿と心中される魔王の立場には非常に哀れみを持ちますね』

「まあ俺は死にませんでしたが」

『そこは一緒に死ぬ流れではないのでしょうか』

「エウリの料理に耐えられる皿である俺が自爆魔法程度で死ぬわけないじゃないですか」

『焼け死ぬオチの最高のタイミングを逃していませんかね。むしろどうやって焼け死んだのか』

「エウリが石焼ビビンバを作ろうとして、俺を火にくべたのが死因ですね。流石に火と世界最強の猛毒の組み合わせは防ぎきれませんでした」

『木製の皿に対しあるまじき行為』

「まあ最後はエウリのうっかりさんということなのですが。後日談として俺の存在が完全にルボロやエウリにバレてしまいました」

『目の前で魔王と一緒に自爆しましたからね』

「まああっさり受け入れられたので特に語ることはありません」

『自爆で死んだ方がマシな展開ですね』

「ただ魔王を倒したことで神様が勇者一行のそれぞれに好きな願いを叶えるといった報酬を用意してくれました」

『大味な展開ですが、割とあるのであまり非難はしない方が良いですね』

「ルボロは世界を平和にすることを願い、エウリはルボロとこれからも仲良く一緒にいられるようにと願います」

『勇者は聖人でヒロインは健気ですね』

「魔法使いは俺に屈服させられた記憶を抹消してくれと願いました」

『軽い屈服の詳細が気になってきましたね』

「そして俺はエウリの死神の毒手を彼女から奪ってくれと願いました。これでルボロは心の底からエウリの料理を美味しく食べられるようになりました」

『こういう時の欲のなさは貴方らしいですね』

「最初は女神様とイチャイチャになりたいって願ったんですが、『いや、それは無理』と真顔で言われたので。たかが知れてるなぁと思い適当に願いました」

『後でその神に感謝状を送っておきます』

「ちなみにこちらが魔王を打倒した伝説の勇者ルボロの一行の像の写真です」

『皿を掲げた勇者とその一行の像ですね。数百年後に論争待ったなしですね』

「あとは先程言った通り、石焼ビビンバの刑で死にました」

『また一致検索で引っ掛からないような言葉を……ちょっと待ってください。貴方は神にヒロインの死神の毒手を奪うように願ったのに、どうして貴方は猛毒と火の組み合わせで死んだのですか』

「それが死神の毒手そのものが異世界転生者だったようで、自身を消滅させた俺に対して最期のあがきとして一回分のスキル発動を残していたんですよ。それも過去最大レベルの力で」

『ヒロインの毒手に異世界転生した者がいたとは。いや、ヒロインの皿よりかはマシとは思いますが』

「あわよくば勇者を毒殺し、ヒロインを主人公にして世界を滅茶苦茶にしようとしていたようですからね。本当にいい迷惑です」

『過去の罪状を背負っておきながらよくその言葉が言えますね』

「そんなわけで諸悪の根源も絶て、世界も平和にし、無事戻ってきました」

『まあ今回に限って、貴方は諸悪の根源ではなかったのかもしれませんが。たまには善意だけによる終わり方でも悪くないでしょう。……いえ、冷静に考えて被害者が二名ほどいましたね』

「ちなみにお土産はこちら、ルボロが毎晩腹痛を紛らわすための精神統一として彫り込んだ女神様の像です」

『見事な私の木像ですね。というより勇者は毎晩そんな感じだったとは。愛があったとはいえ、凄まじい寛容性ですね。ところで何故私の姿の像を彫れたのでしょうか』

「それは俺が夜な夜な像を彫るルボロに、催眠学習で女神様のイメージを植え付けておいたからですね。神の御業による女神様像をお土産にしたくて」

『ちゃっかりしてますね。自画像などを飾る趣味はないのですが、まあ出来が良いので残しておくとしましょう』

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