女神『異世界転生何になりたいですか』 俺「勇者の肋骨で」
安泰
第一話:『勇者の肋骨』
「どこだここ、何も見ねぇ」
『ようこそ、ここは……なんか良く分からないけど多分凄い所です』
「もう少し情報ください、真っ暗な空間に突如現れた美人の貴方は誰ですか」
『ありがとうございます、それでは貴方の境遇について説明します』
「情報ください」
『女神です』
「女神ですか」
『貴方は元にいた世界で不幸にも……なんか死んでしまいました』
「情報ください」
『いや、分からないんですよほら』
「なんか突然空間に俺の過去の様子を写しているディスプレイが現れた、家の中だけど犯罪じゃ」
『女神に法は通じません』
「スタイル良いですね、全身撫で回していいですか」
『止めてください、訴えますよ』
「法が通じるじゃないですか」
『私が使うのは許されます』
「納得いかない」
『話を戻しましょう、これは貴方が死ぬ三年前の姿です』
「若いと思った、昔過ぎませんか」
『ではこちらが死後三分後の貴方です』
「決定的な瞬間を見逃してしまった、もう一回お願いします」
『では死亡三秒前の貴方です、3、2、1、はい死んだ』
「すごい、本当になんか死んだ」
『なんですか面白人間なのですか貴方は、極めているんですか』
「流石に面白く死ぬ練習はしたことないです」
『しかし貴方が不慮の死を遂げたのは事実、ここではそんな哀れで惨めな人生の敗北者に対して意味は無いかもしれないけどもう一度足掻ける機会を与える場です』
「もう少し優しい女神様が良いです」
『バ○ァリンの半分は私で出来ています』
「優しい」
『もう半分が優しさです』
「人工的な薬剤だった」
『それで平たく言えば異世界転生の前舞台です』
「ああ、この前アニメで見ましたいせ――」
『おっと、他の作品名を出すのは禁止です。その世界の神様から文句言われると怖いので』
「世知辛い、それで異世界転生させてくれるんですか」
『はい、希望の世界と希望の転生先を決めてください』
「わりとその辺自由なんですね、他の異世界転生ものじゃ選べないのに」
『神の格が違います、融通の利かない下っ端と一緒にしないでください』
「怒られますよ」
『神様毎に個性があるのです』
「お爺さんな神様とかもいますからね、女神様だと目の保養になりますね」
『セクハラで訴えますよ』
「対応と個性がわりと厳しい」
『基本的に自由に選べますけど人気の役職は待ち時間があります』
「あるんですか」
『貴方一人を転生させているわけではありませんし、異世界にも限りがありますから』
「ネットで見てると際限なく感じますが」
『では知り合いの神様が制作を途中で止めた世界に案内しましょうか』
「エタっちゃったかー」
※エターナる、永遠に未完成となること。
『王道ファンタジーのハーレム物の勇者だと待ち時間5万年くらいですね』
「どれだけ欲望にまみれているんですかね転生待ちの方々」
『同じ世界で田舎の村で一生村の名前を連呼する村人だと500年ですね』
「わりと人気だった、重労働も嫌いなんですかね」
『良い世界は基本人気です、過酷な世界ですと待ち時間は早いですよ』
「例えばどんなのがありますか?」
『勇者になれますが一生後ろ指を差されて笑われて終る世界ですと五分でなれます』
「それは勇者じゃないと思います、だけど待ち時間あるんですね」
『5人ほど妥協していますので』
「一人一分ですか、妥協の仕方間違えてませんかね」
『魔物に転生する方も人気はあります、最初から魔王もそうですが最終的に魔王クラスになれる場合はやはり待ち時間が長いですね』
「打ち滅ぼされる魔王もそうですか」
『はい、勇者と激闘の末に死ぬ未来の魔王でもやはり千年単位で待ち時間があります』
「魔王で待ち時間が短い世界ですとどれくらいですか?」
『魔王になれますが一生後ろ指を差されて笑われて終る世界ですと八分でなれます』
「さっき聞いた気がする、勇者よりも人気だ」
『そろそろ貴方にも魅力的に感じる異世界転生先が見えてきたことでしょう』
「本気で言っているなら貴方は邪神だと思いますが」
『最近では捻りを加えることで上手いこと良い世界に食い込む者も多いですね』
「例えばなんでしょうか」
『スキルを一切持たずに常人として活躍したり、むしろ只の農家や商人、料理人となったりですね』
「なるほど、人が思いつかない転生先を選ぶわけですね」
『無生物になったりする方もいます』
「無生物、勇者の武器とかですかね」
『はいそうです、ですが最近はちょこちょこ需要が高まっていますので待ち時間が発生しやすいです』
「新たな開拓者にならないとダメなんですね」
『それに無生物ですので寿命が長いせいで一人辺りの待ち時間が長めです』
「後ろ指差される世界の者達の末路が見えてしまった」
『さて、どうしましょうか、貴方は割りと女好きのクズで冒険者気質ですから希望の職は待ち時間が長くなると思いますが』
「否定はしませんがもう少し優しくお願いします」
『女性に優しいクズで冒険者気質』
「惜しい」
『とりあえず適当に選んでください、忙しいし時間が勿体無いです』
「対応が雑になってきた、この世界って時間あるんですか」
『そろそろサザ○さんが始まります』
「あー同じ世界っぽい、ついでに日曜日だ」
『見逃す事になったら貴方をサザ○さんのお隣さんにします』
「いささかそれは困ります」
『では早く、満足行かない人生だったらどうせまたここに帰ってこれますので』
「忙しい理由ってそのシステムが原因なのでは」
『あー』
「無自覚だった、では決めました」
『よく今までの会話で選べましたね』
「貴方にそれを言われるとは思わなかった」
『では仰ってください、話を聞きながら端末を操作して待ち時間を割り出します』
「設定がしっかりとしている良い世界、ハーレムかつハッピーエンドなチート勇者」
『随分と待ち時間が発生しますよ?万年超えちゃいましたよ』
「の肋骨でお願いします」
『ゼロになった』
「よし」
『なんですか肋骨って』
「いや、右手だといるかなって」
『いやいませんよ――あ、いました』
「それに勇者の右手になると下の世話とかもさせられそうですし、そう言う漫画見たことありますから」
『それパカって顔が割れる奴じゃないですよね』
「肋骨なら基本美女に撫でられるだけでしょうから」
『そうでしょうか、変態すぎて分かりませんが』
「イケメン勇者の肋骨ですよ、触りたくありませんか」
『何回か触ってみたいかもしれませんね』
「ハーレムだからきっと色々な女性に撫でられるかなと」
『欲望が浅いんですね』
「全身性感帯ならイケるかなと」
『プロフェッショナルでしたか』
「そんなわけでお願いします」
『まあ分かりました、それでは行ってらっしゃいませ』
◇
「ただいま戻りました、なんだか急にリビングっぽくなってますね」
『やっぱり戻ってきちゃいましたか』
「いや、割りと満喫は出来たんですけどね」
『何で戻ってきたんですか』
「ハッピーエンドにはなれなくて……」
『なれると思ったんですか、ハッピーエンドになれるのは勇者であってその肋骨の貴方ではありませんよ』
「あ、サザ○さんやってるんですね、一緒に見ていいですか」
『どうぞどうぞ、これ再放送ですから』
「この世界ってサザ○さんが終わってから百年以上過ぎてますね」
※サザ○さんは著作権の関係で再放送が出来ません。
『はい、最終回の話聞きますか』
「今度にしておきます」
『それで、何が問題だったのですか?』
「著作権がですね」
『サザ○さんではありません、貴方の異世界転生の話です』
「結構途中までは良かったんです、多くのヒロイン相手に絶頂を迎えられたので」
『女神に話す内容じゃありませんね』
「ある時、推しのヒロインについ愛を囁いてしまいまして」
『肋骨がですか』
「惜しくもドン引きされました」
『推しだけにですか』
「上手くないですね」
『今貴方の肋骨を折りますよ』
「なんてユーモアのある女神様だ」
『それで良いです』
「肋骨がとても素敵だ」
『それは良くないです』
「必死に素性を隠していたのですがついに勇者に存在がばれてしまい、ついに『十一番目の右肋骨だ!』と名乗ってしまいました」
『名乗られた方は困惑したでしょうね』
「そして流石は勇者、躊躇うことなく十一番目の右肋骨を摘出しました」
『勇者じゃなくても大半の人は喋る肋骨を摘出しますよ』
「ただそこまでは良かったのです」
『摘出されてまだ良かったんですか』
「実は十番目の右肋骨だったので」
『摘出損じゃないですか、十一番目の右肋骨さんに謝ってくださいよ』
「やだなぁ、十一番目の右肋骨に意思なんてあるわけないじゃないですか気持ち悪い」
『お、そうですね十番目の右肋骨』
「運よく摘出を逃れ再び肋骨撫でライフに戻れたのは良かったのですが」
『中々聞きなれない単語ですね、また声を出してしまいましたか』
「いえ、取り出された十一番目の右肋骨が新たな人類として生まれ変わりまして人類と新人類との戦争が起きてしまったのです」
『アダムとイブっちゃいましたか、チート勇者半端ないですね』
「イブが多すぎて大変でしたけどね」
『ハーレム勇者でしたからね、ですがチート勇者なら解決できたのでは』
「それが勇者から生まれた十一番目の右肋骨勇者もチート勇者でして壮絶な戦いになったんですよ」
『そんな名前の勇者になったんですか、名前くらい名乗ればよかったでしょうに』
「結局決まり手は肋骨一本の差で十一番目の右肋骨勇者が勝ってしまいました」
『骨の数で性能差が出ちゃいましたか、貴方が肋骨一本分くらい助力すれば良かったのに』
「肋骨が何かできるわけ無いじゃないですか」
『名乗りを上げた挙句、摘出後勇者になって当代の勇者倒してますよね』
「そんなわけで残念ながら勇者は死んでしまいました」
『大抵貴方のせいですね、それで戻ってきたと』
「いえ、もう少し続きがありまして」
『逆に聞きたくなりました』
「十一番目の右肋骨勇者は思ったんです、『他の肋骨も勇者にできるんじゃね?』と」
『思っちゃいましたか』
「そして残った二十三本の肋骨全てを摘出したんです」
『そして勇者が二十四人に』
「いえ、俺は勇者の肋骨として転生していたので初代勇者の肋骨として残り続けました」
『無駄に律儀ですね』
「そして二十三人の勇者による世界の奪い合いが始まりました」
『壮絶なスケールになっちゃいましたね』
「ちなみに最後に勝ったのは三番目の左肋骨勇者でした」
『全員その名前なんですね』
「大変でしたよ、五番目の右肋骨勇者と七番目の左肋骨勇者の星を割る戦いとか世界が終わりかけましたからね」
『名前が全てを台無しにしていますね』
「あと九番目の右肋骨勇者と二番目の左肋骨勇者が同性愛に目覚めたり」
『そこは後で詳しい報告書を作ってもらいましょう』
「頭脳系の十番目の左肋骨勇者に至っては自分の肋骨から新たな勇者を創造したり」
『それ際限無くなる系の展開ですね』
「ちなみに十番目の右肋骨からは何も生まれなかったです」
『わりと貴方という存在が世界に干渉しているようでなによりです』
「結局肋骨の俺はただ指を咥えて見ているだけでした」
『指ありませんよね、残った肋骨ですよね』
「そうでした、咥えていたのは獣耳系ヒロインでした」
『愛人の骨を咥えるとか中々のサイコパスですね』
「快感でしたよ」
『全身性感帯でしたね』
「最後には勝ち残った三番目の左肋骨勇者がなんか凄い肋骨の奇跡を使いまして」
『肋骨の奇跡……一致検索だと先ずでないでしょうね』
「死した勇者たちは皆、砕けた肋骨へと戻りました」
『骨折り損のくたびれ儲けオチは許しませんよ』
「いや、そのままヒロイン達に埋葬されて終りました」
『そして貴方も一緒にですか』
「いえ、自分は獣耳系ヒロインの口寂しい時用に残されていました」
『そのヒロイン異世界転生者じゃないですかね、正気に思えないのですが』
「充実した日々を満喫できました」
『そうですか、聞きたくありません』
「ですがある日うっかり菜園系ヒロインに見つかって砕かれて肥料にされて死んでしまったのです」
『勇者の骨とは思わないでしょうからね』
「そう言ったわけで未練が残って帰ってきました」
『思った以上に楽しんでいたように思われますけど』
「あ、これお土産の十一番目の右肋骨です」
『捨ててください、いやこの場所で捨てないでください』
「それでどうしたものかなと」
『まあ貴方が満足しなかったのであればもう一度転生させましょう、希望の世界と職業を選んでください』
「ネタ切れでして」
『勇者の肋骨として生きていたんですから少しは自分の存在に疑問を思って次の世界のことを考えている物かと』
「大丈夫です、こんなこともあろうかとこれを用意しました」
『目安箱ですね、いつの間に』
「サザ○さん見ながらゴ○ィバの箱を使いました」
『あ、私のゴ○ィバの箱がない、小物入れにしようと思ったのに』
「これで俺の異世界転生の感想を求めて次回の転生先と職業を決めようかと」
『他力本願過ぎませんか、そもそも私しかいないですよ』
「異世界転生待ちの人にお願いするんですよ、そうそこの貴方」
『カ○オは別に異世界転生を望んでいないと思いますよ』
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