新装備

「エレナさんは体は大丈夫ですか?」

「そこまでやわな体じゃない。それとエレナでいい。仲間同士で敬語もおかしいだろう」

「そうですよ、ワタルさん。2人はこれから魔王討伐のために協力し合う仲間なんですから」


 帰りの馬車の中、ニコニコ顔のリナと頭を抱えているエリヤと武器も鎧もない軽装のエレナと話をしていた。


「リナ、ちょっと帰ったら話がある」

「告白はお断りですよ?」

「うるせえ」


 エリヤとリナの会話を横目に、ワタルはエレナとの話を進める。


「エレナは住むところは?」

「王都は初めて行くからな。宛もなにもない」

「それなら私にいい考えがあります。今回のことのお詫びも兼ねて、格安で家をお貸ししますよ。2人で住めば家賃も半分になりますし」

「それ問題がありませんか?」


 リナの提案に乗ると、男女がひとつ屋根の下で一緒に生活するということになる。

 流石にそれは気になるワタルだったが、エレナはそうでもなかったようで、


「私は構わない。それともなにか? ワタルは私に夜這いでも仕掛けるのか?」

「いやいや、しないって!」

「なら問題ないな。リナ、その家を借りたい」

「わかりました。戻ったら手続きをしておきますね」


 上手く言いくるめられたような気がしたが、別々の場所に住むよりもそっちの方が都合もよさそうなので、この際ワタルは黙ることにしたのだった。


***


「手続き終わりました。それと、これは報酬です。お疲れ様でした」


 王都に戻るとエリヤと別れ、早速家を借りる手続きをしてもらう。

 依頼の報酬も受け取り、懐もかなり潤った。

 日も既に傾き始めていたため、その日は新しい家へと戻り休むことにした。


「ワタル、明日少し付き合ってもらってもいいか?」

「大丈夫ですよ。どこに行くんですか?」

「リナに冒険者登録をした方がいいと言われてな。1人では心細い」

「わかりました。じゃあ、明日の朝一に行きましょうか」

「ありかとう」


 ギルドは昼から混むため、明日の朝に行くと予定して夜ご飯を作ろうとしたところ、エレナにやらせてくれと頼まれたので料理をお願いした。

 エレナは料理が上手かった。

 寝る時は当然だが別々の部屋だったので、ワタルは安心半分残念半分という気持ちで眠りに落ちた。



「ワタル、朝だ。ギルドへ向かおう」

「ん……あ、おはようございます」


 次の日の朝、疲れからか深く眠ってしまっていたワタルは、エレナに起こされ作ってもらっていた朝食を食べ、ギルドへと向かった。

 途中で新婚生活を連想して顔を赤くしたワタルだったが、エレナは気にしていない様子だった。


「あ、エレナさん。早いですね」

「ワタルに朝一がいいと言われたからな。それで、冒険者登録というのは何をすればいい?」

「では、こちらへどうぞ」

「俺はここで待ってますね」


 ワタルはギルドのテーブルの1つで待つ。

 5分後、登録が終わったのかエレナがこちらへ歩いてくる。


「リナが仲間にはステータスを見せた方がいいと言ってな。見てくれるか?」

「わかりました。俺のステータスも見せますね」


 エレナと冒険者カードを交換し、お互いにステータスを確認する。

──────────────────────

エレナ Lv.1


ステータス

筋力:218

技量:121

敏捷:1236

耐久:163

魔力:24


スキル

人狼

満月の夜にステータスが大幅に上昇する

──────────────────────

 ステータスとスキルの詳細を見たワタルは、目を疑った。

 冒険者登録をすると必ずLv.1で始まるため、最初からステータスが高いことも珍しいことではないが、エレナは異常だった。

 敏捷は4桁という見たこともない数値で、驚きすぎて声も出ない。


「ワタルのステータスは高いな。私が勝てないのも納得だ」

「俺はそれよりエレナの敏捷の数値が気になるんだけど」

「私の種族は人狼で速度には自信があってな。一族でも私は飛び抜けていた」

「それにしても、こんな数値は見たことないよ」

「そうか? そう言われると嬉しいな」


 一通りステータスやスキルを確認してお互いのカードを返し、ギルドを出る。

 1度帰ろうとしたところ、エレナに他にも行きたい場所があると言われ、そちらに付き合うことになった。


「ここって、エリヤさんの鍛冶屋ですよね」

「そうだ。昨日私の大剣の破片を使って新しい武器を作ってやると言われてな。今日の朝に取りに来るように言われた」

「エリヤさんって仕事早いんですね」


 エリヤの仕事の早さに感心しながら、奥の扉を叩く。

 すぐに扉は開き、エリヤが顔を出す。


「エレナとワタルか。少し待ってろ」


 エリヤは1度扉を閉めて奥へ引っ込むと、2本の剣を持って戻ってきた。


「武器は完成している。昨日エレナの戦い方を見て思ったが、一撃の重さよりも手数を増やした方がいいと思ってな。双剣にした」

「素晴らしい剣だ。魔族にも鍛治職人はいるが、ここまでの武器を作る職人は見たことない」

「満足してくれたならよかった。銘はどうする?」

「私の前の剣と同じにする。粛清剣だ」


 粛清剣はワタルのグラムよりも細く少し短かった。

 刀身は黒く、夜を連想させる色だ。


「特殊な効果とかはないんですか?」

「よく聞いてくれた。派手な効果はないが、その剣は魔族に対して絶大な効果を発揮する。魔族特攻だな」

「粛清剣の名に相応しい効果だ。ありがとう」


 グラムのように何かを生み出す効果はないらしいが、魔族に対して効果があるというのはかなり便利だ。

 エリヤは間違っても手入れで怪我をしないようにエレナに釘を刺すと、また別のものを取り出す。


「エレナから盾を預かっていてな。壊れていたから直しておいた。これはワタルに使ってほしいとのことだ」

「俺に? というかエレナ、盾持ってたんだね」

「鎧の内側に持っていたんだが、ワタルに一緒に破壊された」


 渡された盾はエレナの装備と同じ黒塗りで、今使っている女神からもらった盾よりひと回り大きかった。


「有難く使わせてもらうよ」

「私には無用のものだからな。そうしてくれ」

「依頼でも受けて試してこい。今回はエレナへの餞別ってことで金は取らねえよ」

「今は金がないから有難いのだが、いいのか?」

「そういう時は素直に甘えとけ。おじさんの優しさだ」

「そうか、そうだな。お言葉に甘えさせてもらう」


 それからエリヤに礼を言って別れ、再びギルドへと戻る。

 その道中でエレナは嬉しそうにずっと剣を眺めていた。

 ギルドに着くとまだ昼前だからか人は少なく、2人で掲示板を見に行く。


「ん?」

「気になる依頼でもあったか?」

「うん、ちょっとね。これ見てよ」

「魔女の説得、か。魔女とは珍しいな」


 魔女とは魔族とは少し違い、魔族の血を持つ人間のことだ。

 魔女は大昔に人間たちから嫌悪され、街を追い出されたと聞いている。

 新しい国王は魔女たちと縁を戻そうと考えているが、魔女はその国王からの申し出をずっと断っている。

 依頼内容は森の奥に魔女が住んでいると思われる小屋を見つけたため、その調査とできるなら説得をしてほしいというものだ。


「これにしよう」

「魔女は人間を嫌っている。戦闘になる可能性もあるぞ」

「うん。でも俺は魔女が嫌悪されるのは間違ってると思う。魔族にもエレナみたいな人はいたんだし、魔女にだって優しい人はきっといるよ」

「ワタルが決めたことなら私は何も言わない。どこでも付き合おう」


 この依頼を受けると決め、貼り紙を剥がして受付へ持っていく。


「魔女の説得ですか。難しそうな依頼を選びましたね。強い冒険者限定ですが、ワタルさんたちなら問題ありません。気を付けてくださいね」

「はい、行ってきます」


 依頼の受注を終え、ワタルとエレナを目的地へと向かい王都を出る。

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