古代遺跡の調査 上

「まさか、ギルドのトップ二人が本拠を離れることになるとはね!」

「仕方ないだろ。ここはそれだけ危険な場所だと、お前が言ったんだぞ?場所が場所だから、『女王』を送るわけにもいかない。あいつらは加減というモノを知らんからな」

「あの子達がああなったのはあなたのせいでもあるんだけど?」

「魔法の加減はお前が教えたはずだよな?」

「…………てへっ」


 可愛らしく舌を出したドロシーに、ガーデナーは呆れて溜め息を吐き出す。


「はぁ……もうそのことは諦めるとしよう。今となっては無益な争いだ」

「教えたはずなんだけど、あの子達は考え方の根本がお子様なのよねぇ」

「仲間内でも競争し、時に喧嘩しながらも共闘して成果を比べ合う。そして、最後に俺達へ報告しに来る。褒めてもらえると思っているから」

「褒めて育てる教育方針が、今こんな形で歪みをもたらすなんて、思わないわよねぇ……」

「甘やかし過ぎた、ということなんだろうな。まともに育ったように見えて、レーネやプレアも似たようなもの。クリスとネルファとセレナだけだ」


 二人の緊張感がない話を、一歩下がった位置で無表情に聞くシロ。

 暗い道をランタン一つ持って歩く三人に緊張は感じられない。



 ガーデナー、ドロシー、シロの三人は今、山奥にある遺跡を探索中。

 山を散策していた地元の猟師が偶然発見し、報告が上がったのがつい先日。

 遺跡の周囲に魔物がたむろしているらしく、遺跡の調査と魔物の駆除を依頼してきたのだ。 


「子供を育てるのはいつだって難しいものね。私達が願った通りにはなかなか育ってくれないし……って、聞いてないんだけど?コレ」

「俺もビックリだ。おそらく、侵入者撃退用の召喚獣なのだろうな。やれやれ……」

「う~ん……私がやってもいい?久しぶりに遊びたいのよ。ダメ?」

「任せる。――シロ、待機だ」

「――了解」


 壁からゴーレムが生えてきても三人は動じない。

 一歩前に出たドロシーは、楽しそうに手帳を開いてペラペラとページをめくる。


「さて、な・ん・の・魔法で遊ぼうかしらねぇ~。火?雷?水?土?それともぉ……原始かしら?」

「勘弁してくれ。お前もヤバい部類に入れるぞ?」

「あら、失礼ね~。ちゃんと場所を弁えているわよ」

「ほれ、ゴーレムが突っ込んできたぞ」

「せっかちね。『電爆』」


 ドロシーが放った鉛筆大の雷は、ゴーレムに触れると体内に侵入。

 体から光が漏れ出た直後、ゴーレムが爆散して戦闘は終了した。


「おうおう、怖いな。体内で一度散った電気が、少しの間を置いて活性化し、放電して最後に爆発か。初見殺しにもほどがある」

「ふっふっふ……魔法にはこういう使い方もあるのよ?」

「ここまで繊細な魔法を創れるのはお前くらいだろ」

「あら、褒めても何も出ないわよ?」

「やれやれ……さっさと行くぞ。時間が惜しい」



※※※



「ここが最奥?随分と小さかったわね。それにほとんど横道がなかったし、部屋に入っても何も無くて徒労感しかないわ」


 三人が辿り着いた最奥の場所には、祭壇らしきものと人が描かれた奇妙な壁画があるだけ。

 ランタンの光以外に照らすものはない。


「儀式のための遺跡だと推測して来たが、特には何もなかったな。盗賊にめぼしいものは盗まれたのだろう。帰るか―――シロ?」

「―――――」

「……ねえ」

「なんだ」

「ものすっっっっっごく! 嫌な予感がするんだけど」

「そうか。俺も同じことを思った。壁画と祭壇からしてここは儀式場なのだろう。よく見たら床も画が描かれている。そして、シロは別の遺跡で発見された。だとしたら―――」


 俯いていたシロが顔を上げると、その目が真っ赤に染まっていた。

 それを見ただけで二人は異変を察した。悪い異変を。


「どうするの?」

「俺が相手をするしかないだろうなぁ……」

「当然ね。じゃあ、周りのは私がやっとくから、キッチリ調教しておきなさい」

「調教って……。もう少し言い方があるだろう?とりあえず、お仕置きだな」


 シロは顕現させた大槍と大楯を構えて突撃。一切の躊躇がなかった。

 それをガーデナーはなんなく受け止めるが、勢いは殺しきれなかったためわずかに後退させられる。


「おおー。成長したな、シロ。まさか押されるとは思わなかったぞ」

「親バカ発揮してる暇あったら反撃くらいしなさい。娘の攻撃を受けて喜ぶなんて、変態よ?」

「いやいや。シロは滅多に俺と訓練しないし、しても全然本気を出さないから、思いがけずこういう機会がやって来て嬉しいんだよ」

「……今度から変態親バカって呼ぶことにするわ」


 二人がふざけている間もシロは止まらない。

 持ち上げようとして上げられないと悟ったシロは、再度力を込めてガーデナーを押し始めた。ゆっくりと、だが確実に少しずつ加速している。


「アアアアアアアァァァァァ!!!!!!!」

「これは驚いた……――『眩幻』」


 ガーデナーが体から放った光に目を焼かれ、シロに一瞬の隙が生まれる。

 それを見逃さなかったガーデナーは楯を足場にしてその場を離脱。

 シロはそのまま壁に激突して砂煙の中に。


「あら、喜んで受けると思ったのに」

「さすがにアレは勘弁だ。身体が砕け散る」

「一切手加減するつもりないみたいだしね。操られてるってことでいいのよね?」

「突然動きが止まったところを考えると、そう考えるのが普通だな」

「過去を思い出して敵の手先に戻ったって考えも出来るわよ?」

「それは最悪なシナリオだな。だとしたら、殺すしかない」

「……まあ、相手をするのはあなただし、あなたに任せるわ。死んだら骨くらいは燃やしてあげる」

「ハハハ……嬉しくて涙がちょちょギレそうだ」


 砂煙の中から出来てきたシロの大楯と大槍が変形していた。

 楯の表面は無数の棘で埋め尽くされ、槍の先端は刃の形状に。


「……無詠唱か。しかも錬金術。教えた覚えはないから思い出したのか、即興なのか。どちらにしろ、凶悪だよ」

「ハアアアアァァァァァ!!!!!!!!」


 シロが楯を構えて突進。ガーデナーはそれをギリギリのところで回避。

 再度壁に激突したかと思いきや、楯が触れた壁が塵となった。


「はっはっは……おい、こんな魔法を使えた覚えはないんだが?」

「棘から発される強烈な振動が共鳴を起こして壁を砂塵に変えた……って、ところかしらね。勿論、私は教えてないわよ?」

「持っている武器に最適な魔法を習得しているのか?」

「〝神様″のお告げで?笑えないわね」

「だが、そうとしか考えられないだろう。お前でも戦闘中に魔法を編み出せるか?」

「………一個なら」

「シロは今の段階で二個だ」

「封印されていた記憶から引き出しているというのは?」

「そうだとしたら、シロは『敵』ということになるんだが?」

「どちらが現実的かしらね?」


 シロは鎧を身に纏い、兜をかぶり、手甲と足甲を着けている。

 楯や槍と同じく召喚したらしい。


「ひとまず、取り押さえることを念頭にやるか。暴れ回られてここが崩壊するのは避けたい」

「それもそうね。捕まえるのは私がやるから、無力化はお願いね」

「ああ」

「イィィィィヤァァァァァ!!!!!!!!」


 鎧を身に着けて重くなっているにもかかわらず、先程の突進よりも速く突撃。

 予想だにしない事態に、ガーデナーは半瞬動きが止まったが、即座に避けられないと判断して迎撃することを選択。

 受けると判断したシロはガーデナーが槍に触れる瞬間、不意打ちで楯を突き出した。


「っ!? そんな器用な事が出来る娘じゃなかっただろ!」

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