水森飛鳥と落ちし絶望、そして射し込む一筋の光Ⅱ(“彼女”への報告と、“彼女”がやろうとしていること)


 さて、どうしたものか。と考える。

 桜峰さくらみねさん+生徒会役員+αとクリスマスパーティーをすることになった。

 何を考える必要があるのかと言われそうだが、私はいろいろ考えなければならない。


 プレゼントと今後の状況。


 今後の状況はまあ、今はクリスマスパーティーとしておくとして、問題はプレゼントだ。

 どのようなパターンのプレゼント交換会になるのか分からないから、誰かへの一点縛りじゃなくて、誰に渡っても大丈夫なものを選ばないといけない。


「……難しいなぁ」


 プレゼントも、状況も。


   ☆★☆   


「……というわけで、悩んでいるんです」


 久しぶりに雪冬ゆきとさんに顔を見せ、そう話せば、くすくすと笑われる。


「そっか、もうそんな時期なんだね」

「あ、すみません。ここから出られないから、分からないんですよね」

「別に気にしなくていいよ。体感気温で分かることもあるからね」


 それに、と続けられた言葉があったみたいだが、小さすぎて聞こえなかった。


「もしそうだとしても、久々に会えたのに、雪冬さんとクリスマスを一緒に過ごせないのは、何か残念です」

「私も残念だけど、こんな状態だからねぇ……」

「せめて、飾りつけとかが出来れば、良いんですが……」


 そんな私の言葉に、飾りつけかぁ、と雪冬さんが全体を見回す。


「でも、その後はお正月だよね? 年末年始も来られるとは限らないのに、もしお正月の用意までする気でいるなら、それはお断りしたいな」


 飛鳥ちゃんも家族で過ごす時間は確保しておかないと、と言われてしまっては、私も何も反論できない。


「それに、飛鳥ちゃんたち・・は、ちゃんとこの件を終わらせないと。私みたいになったら怒るし、許さないから」


 優しそうに微笑む雪冬さんだけど、その内心が寂しいって思っているのは、私にも分かる。

 でも、それは知り合いの一人である私に会ったからだろうし、実弟である夏樹なつきに会えば、私相手で何とか耐えていたその感情は爆発することも容易に想像できる。


「もちろん、分かっていますよ。私は雪冬さんと同じ『姉』ですから」


 夏樹の場合でさえ、ああなってしまったのだから、ハルがどうなるのかなんて、想像したくない。

 当然、泣かせるような、悲しませるようなことはしたくない。もちろん、それは両親に対してでも、だ。


「雪冬さん」

「何かな」


 だから、もしかしたら、少しだけ遅くなるのかもしれないけど――


私たち二人・・・・・から、きっと一番良い贈り物をさせていただきます」


 明花あきかとともに、きっと喜んでくれるであろう贈り物を、雪冬さんに届けよう。


「なので、楽しみに待っていてもらえますか?」

「そうだね」


 私がイメージしているものと雪冬さんがイメージしているものは一緒かもしれないし、もしかしたら違うかもしれない。

 だというのに、雪冬さんは笑みを浮かべて告げる。


「待たせてもらうよ。飛鳥ちゃんがそこまで言い切るのなら、たとえそれがクリスマスプレゼントじゃなくても、わくわくしながら待つことが出来る」

「時間、掛かるかもしれませんよ?」

「そうだね。でもその分、期待値はどんどん高くなるから、すっごいもの用意しないと驚かなくなるかもよ?」


 ニヤニヤと疑問符に疑問符で返されたわけだが、それでも多分、雪冬さんは喜んでくれると思うから。


「いえ、たとえどんなに期待値が高くても、雪冬さんはきっと喜んでいただけると思うので」

「ふぅん? なら、今このときから、期待値は爆上げ開始だね」

「えっ」


 今からなの?


「でも、飛鳥ちゃん。無理だけはしないでね。もし、その『贈り物』のせいで飛鳥ちゃんが怪我でもしたら、それはいらないって思っちゃうだろうから」

「……」


 あー、何でこの人は……


「私、雪冬さんが男だったら、確実に惚れてますよ」

「嬉しいこと言ってくれるね。でもその台詞、夏樹の前で使わないであげてね」


 何故、夏樹指定なのかは分からないけど、雪冬さんが言うのなら、止めておこう。


「それと、明花ちゃんに変わってもらえる? 少しだけ話しておきたいことがあるから」

「分かりました」


 そして、私たち・・・は入れ替わる。


「お久しぶりですね、雪冬さん」

「貴女に対しては本当に」


 私のことを悟られたくないから、手短に終わらせてほしいのだが。


「手短に終わらせてほしそうだから言うよ。飛鳥ちゃんにも言ったけど、貴女も無理はしないように」

「何を今更」


 私は飛鳥の裏人格だ。

 あの子が耐えきれないことを、私が表に出て、いろいろやって来たことは、雪冬さんも知ってるだろうに。


「そうだね。確かに今更だよ」

「……」

「でも、貴女が消えたら、飛鳥ちゃんは暴走する。あちらと違って、ここは異能の世界。被害の大きさは、あちらの比じゃない」


 まさか、その事を言うために、私を呼んだの?


「そんなことなら、貴女に言われるまでもなく、とっくに分かってる」

「でしょうね。でも、それは危惧の一つでしかない」


 雪冬さんの目が、こちらを捉える。


「貴女、何を考えてるの?」

「何を、とは?」

「そのままの意味だよ。貴女、自分の消滅という手以外に、何かやるつもりだよね」


 さすがと言うか、何と言うか……でも、彼女にも知られるわけにはいかない。


「もし本当にやるのだとしても、私はその内容を話すつもりはありませんし、それ以前に肯定も否定もしませんよ」

「……」

「でもまあ、私はいなくなりませんよ。女神様・・・が消えろと言ったって、消えるつもりなんて一切ありませんから」


 飛鳥を暴走なんてさせない。

 ここは剣と魔法の世界じゃない。でも、異能の世界ではある。

 そんな場所で――私の見てない、見えない場所で暴走なんて、させたくない。


「……明花あきかちゃん、貴女……」

「一人につき、一つの異能」


 彼女の言葉を遮り、問い掛けるように告げる。


「それは多分、基本的に扱うその人の人格が一つだから言えること」

「……」

「けどもし、その人が多重人格者なら、持ちうる異能の数はどうなるんでしょうね?」


 主人格の異能のみ扱えるのか、それとも人格の数に合わせて扱えるのか。

 それを知るのは――本人のみ。

 そして、察しの良い雪冬さんだからこそ、気づけるはず。


「明花ちゃん、貴女がしようとしているのは……!」

「たとえ、何をするのか分かっても、止めないでくださいよ」


 まあ、止められたとしても、止まる気は更々ないのだが。

 でも、言うことは言い終えたので、最後に飛鳥にバトンタッチする。


「あの、あの子。何か言いましたか……?」

「えっ……? あ、ああ、特には何も……」


 何やら雪冬さんの様子がおかしいが、一体何を言ったんだ。明花は。


「ほら、早く戻らないと授業に遅れちゃうよ」

「あ、もうそんな時間ですか」


 時間を確認してみれば、確かにそろそろ移動し始めた方がいいような時間ではあるのだが……


「雪冬さん」

「ん?」

「明花が何を言ったのかは、本人と雪冬さんにしか分からないとは思うんですが、あんまり気にしないでくださいね」


 多分、明花が勝手に戻ったから、驚かせたって言うのもあるんだろうけど、もし彼女が言ったことを気にしていると言うのなら――


「雪冬さんから見て、あの子が無茶をしそうな様子であったのなら、私がきちんと止めますから」


 これは『表』としての、私の意志だ。


「だから、雪冬さんは私たちからの贈り物を楽しみにしておいてください」


 それでは、と頭を下げて、この場を後にする。


「……さて、いろいろとどうしようか、考えないとなぁ」


 クリスマスも年末年始も、それ以外も。

 いろいろと考えることは山積みだ。


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