水森飛鳥と落ちし絶望、そして射し込む一筋の光Ⅰ(パーティーの打ち合わせ)
世界は未だに灰色のままだ。
友人たちは心配して話しかけてくれるし、クラスメイトたちも目は向けてくれるけど、精神面がアレなだけで、肉体面は特に問題なかったりする(精神から変化する可能性もあるけど、現状では変化なし)。
そして、『彼女』は言った。作戦があると。
それが何かは分からないが、私と彼女は表裏一体。
きっとそれが、現状を打開してくれるものであると、私は信じたい。
☆★☆
季節は完全に冬で、十二月に入ってしまった。
ここからは、クリスマスや年末年始と、多くのイベントに突入する期間でもある。
『クリスマス』というイベントは、最後の分岐点と言っても過言ではない。
簡単に言えば、
それなのに――
「それじゃ、役割分担をしようと思います」
何故、この子は私を誘ったのだろうか。
殺気混じりに私の裏側には触れるなと伝えたとはずなのに、本当、何でこんなことになっているのだろうか。
副会長や
簡単に説明すると、『クリスマスパーティーの打ち合わせやるから、飛鳥もおいでよ』とのことらしい。
どうやら、裏側に触れさえしなければ大丈夫なのだと、桜峰さんは判断したらしい。
先日、桜峰さんから紹介された彼女――
貴女からの脅しなど、桜峰さんの頼みの前は無駄になるんだよ。
「プレゼントは、みんなちゃんと持ってきてね」
ケーキは会長が、飾りつけは副会長を始めとする男性陣が引き受けていた。きっと良いアピールタイムだとでも思ったのだろうが、多分、一番良いアピールになるのはプレゼント交換会の時だぞ。
ちなみに、ケーキも飾りつけも男性陣が全て引き受けてしまったため、私たち女性陣はやることが無くなってしまった。
一応、参加するというのに、何もやらないというのは……と思っていたら、そこで桜峰さんと目が合う。
「
「……逃げないよ」
何だ。逃げるとでも思われてるのか。
もしかしたら逃げるかもしれないけど、逃げられないだろ。
来なかったら来なかったで、新学期早々に問い詰められるのは容易に想像できる。
「誰か迎えに行かせますか?」
「いや、入りませんよ……子供じゃあるまいし」
「でも、飛鳥は逃げるよね?」
どんだけ私に逃げてほしいんだ、この子は。
「あんまり繰り返されると、そういうネタだって受けとるけど」
「ネタじゃないよ? でも一応、言っておかないと、飛鳥来なさそうだし……」
「一理ありますね」
寂しそうな視線を向けてくる桜峰さんに、副会長が同意する。
「……いや、急用とか入らない限りは問題ないし」
「急用さえ無ければいいんですか?」
そう聞いてくる、隣の女神からの視線が痛い。
そもそも、この子の考えも分からない。
参加してほしくないのなら、小声でもいいから直接言ってくれば良いものを……
「そうだね。急用じゃなくても、別件で重なったりしなければ」
ハルに何かしたら、私は確実に参加できなくなる可能性が高くなる。
でも、私も参加させたいのであれば、ハルに手出ししないのが正解ではある。
――さあ、どうする? 女神様。
「後はまあ、場所次第ですかね」
「場所ですか」
「だって、自宅から遠ければ、その分は遅れますからね」
徒歩にしろ、自転車にしろ、その他交通機関にしろ、時間が掛かるのは目に見えてる。
「場所なら、俺ん
「
桜峰さんの復唱に、会長が頷く。
「それなりの広さもあるし、この人数なら余裕で入れるだろ」
……おおぅ。
「別に僕の家でも良かったんですが、要がそういうのなら、要の家にしましょうか」
……マジか。確定なのか。
「あの、私、先輩の家を知らないんですが……」
神原さん、ナイス! とは思ったけど、この子、教えてもらえるのか?
「他に知らないやつは? 神原だけなら、さっさと教えて終わりにするが」
「私も知りませんね。会長に限らず、みなさんの、ですが」
とりあえず、聞いておいて損はないのだろう。
本当は聞かなくても知識にはあるし、婚約者設定の
故に、素直にそう告げたのだが。
「じゃあ、私の! 私の住所を教えてあげる!!」
「近い近い近い」
嬉々として顔を近づけ、自宅の場所を教えようとする桜峰さんから距離を取ろうとするが、背もたれが邪魔で避けきれない。
「
後輩庶務からのまさかの助けに、おや、と思って視線を向けてみれば、何かニヤニヤとしていた。嫌な予感しかない。
「あ、そうだね」
改めて、距離感を確認したらしい桜峰さんが離れていく。
その後、ほぼ一方的な住所交換会になるのだが……
――あれ、私の住所、教えたらマズくないか?
こっちだとまさか夏樹があちら側に行くなんて思ってなかったこともあって、住所を同じにしていたわけだけど、もし今の状態の夏樹と住所を教え合った後だった場合……
――ヤバい。マズい。
さて、どうするべきか。
教えてもらっておいて、こちらだけが教えないとなると、変に怪しまれるだけである。
『だったら開き直れば良いでしょ。聞かれたら、聞かれたときに答えればいいしね』
……それもそうか。
今までだって、そうやって乗り越えたことがあったではないか。もし、聞かれたって、答えればいいだけのこと。
「飛鳥?」
「いや、何でもないよ」
どこか不思議そうな桜峰さんにそう返しつつ、とりあえず面々には口頭で伝えて、携帯の方に登録してもらう。
登録などあいうえお順なので、大丈夫なはず――そういや、名字から入れると『水森』と『御子柴』って、どっちも『み』から始まるから、名字から入れてそうな副会長とか気付かないか?
そっと視線を向ければ、偶然目があったのか、にっこりと微笑まれた。多分これは、アウトですね。
「飛鳥先輩」
「何かな?」
呼ばれたので目を向ければ、何故か後輩庶務にも微笑まれた。お前もか。
だが、気付いたのはこの二人だけだったらしい。
夏樹も夏樹でこの部屋には居るのだが、誰も触れないから言わないだけなんだろう。
時間を確認すれば、
そして、チャイムが鳴れば、私を含めた生徒会役員以外の面々は授業へ行くために生徒会室を順番に出ていくのだが。
「とりあえず、こっちで誰を迎えに行かせるのか、話し合っておきますね」
「しなくていいです!」
ただ、私が出ようとするタイミングで迎え云々について言ってきたきた副会長に、そう返した私は悪くないはずだ。
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