生徒会役員と気になる違和感(唐突な変化)
「……」
ペンが進む音と、キーボードを打つ音が静まり返っていた室内に響く。
そんな中で、
「……ねぇ、
「どうした?」
とりあえず、話を聞く必要があると、蓮が代表するかのように、その人物――
「
飛鳥が好きだと自覚したはずの郁斗は、とにかく彼女に嫌われないようにしつつ、少しずつ振り向かせようとしていたはずだ。
そして、その行動を怪しんだ――というか、ある意味では分かりやすい態度に、生徒会役員たちが彼の想いに気づくのに時間は掛からなかったし、蓮も蓮で飛鳥を利用することは控えていたのだが。
「何で、彼女の名前が出るの?」
本気で思っているのだろう、どこか不思議そうなその言葉に、蓮が顔を顰める。
「何でって……」
蓮が他の生徒会役員たちを見回せば、みんな似たような表情で郁斗を見ていた。
文化祭の時に、
「……
郁斗を除けば、飛鳥の性格の変化を知る
「そうですね。情報を貰いに行くという口実で、僕も行きましょう」
以前の飛鳥の性格なら、今どんな表情をしているのか推測できるのだが、表情が表に出始めたことから、それが本心なのかどうか正直なところ、推測するのは厳しい。
「二人とも。多分、
あの人、というのは夏樹の事であり、郁斗とほぼ同時に、謎の変化があった人物。
ここ最近生徒会業務以外では咲希と居るようになった郁斗だけならまだしも、咲希との接触が以前よりも増えている
「とりあえず、行ってきます」
こうして、未夜と晃が表向き『咲希の情報を貰う』という理由で、飛鳥の様子を見に行くのであった。
――飛鳥と咲希の教室前。
どうやら、彼女たちのクラスメイトは、また飛鳥に情報を貰いに来たのだと判断したらしい。
教室内に咲希の姿は見当たらず、飛鳥の姿はあった。
時折、クラスメイトたちに話し掛けられて受け答えをしてはいるが――
「っ、」
晃は息を飲んだ。
「……鷹藤君は気づいたみたいだね」
二人の近くで、飛鳥たちの様子を見ていたらしい女子がそう告げる。
「
女子こと
飛鳥とは一年の時からの付き合いなので、彼ら以上に飛鳥の変化には気づいていた。
咲希と一緒に過ごす中で、少しは明るくになったのかと思えば、以前の状態へと逆戻りである。
「それより、どういうことですか?」
「戻ってるんですよ」
「戻ってる?」
「去年の、水森に」
話しかけたら答えてはもらえるだろうが、それ以前にあの目が問題だ。
あの、特に何も興味なさそうな目は、去年飛鳥と同じクラスだった者たちからすれば、不安要素でしかない。
「まあ、周囲から見れば、あの子も変わったうちの一人なんですがね」
「違うんですか?」
「推測ですけど、多分……いえ、止めておきます。違ったら嫌なので」
去年同じクラスメイトなら分かる、現在の飛鳥の性格が齎した、ある出来事。
「それより、お二人揃ってどうしたんです? まさか、飛鳥ちゃんの様子を見に来た訳じゃないでしょう?」
「その、まさかだよ」
「生徒会室も空気が悪いので、様子見ついでに出てきただけです」
奏の確認に、晃は肯定し、未夜は隠すことなく本音を告げる。
だが――飛鳥の様子を見に来たことに関しては、正解と言えるのだろう。
「そうですか」
奏は奏で、興味無さそうに返す。
「あの子なら、次は選択で移動教室だから、移動済みだと教えておいてあげますよ」
「で、実際のところ、桜峰の様子は?」
「以前よりは、ちょっとだけ暗くなってる。飛鳥ちゃんから距離置かれたり、その他もろもろが効いてるみたい」
その他もろもろというのは、おそらく夏樹や郁斗の件なのだろう、と奏の言葉に二人はそう推測する。
「……ま、そんな桜峰ちゃんの様子を見て、いい気味だとか思ってる子たちは少なからず居るけどね」
二人だけに聞かせるかのように小声でそう付け加えた奏に、未夜の眉間に皺が出来る。
「それはつまり……」
「詳しくは知りませんよ。ただ、『その可能性がある』というだけで」
「去年の水森みたいな状況ってことか」
「おそらくはね。あの子もあの子で何も言ってこないっていうのもあるんでしょうけど、飛鳥ちゃんが少し離れたから、これはチャンスとばかりに何してくるか分からないから、気になるのなら見張っていればいいと思うよ」
それと、と言いたそうに、奏は晃に目を向ける。
「君は君で、飛鳥ちゃんに話さないといけないことがあるのなら、早めに話すことを勧めるよ」
そんな奏の言葉に、晃は驚いたかのように、少しだけ目を見開く。
「……相原」
「それじゃあね」
何で知っているのか、と奏に問おうとした晃ではあったが、言いたいことは言えたからと言わんばかりの彼女は、自分の席の方へと戻っていく。
それを見て、二人も生徒会室へと戻るために歩き始める。
「……」
「とりあえず、どちらも要観察が必要ってことですかね」
未夜が、晃の様子などを無視するかのように、溜め息混じりにそう結論づける。
「特に水森さんに関しては、隠すのが上手いようなので、何らかの手立てを考えないといけませんね」
普段であれば、彼女と親しい夏樹や郁斗に頼むところではあるが、現状の二人ではきっと見抜けないことの方が多い可能性がある。
「というわけで、頼みますよ。晃」
「……はい?」
何故、俺が? と言いたそうな声色で言う晃だが、未夜はそうとは受け取らなかったらしく、逆に問い返す。
「はい? ではなく、話、ちゃんと聞いてましたよね?」
「まあ、聞いていなかったわけではないのですが……何で俺なのかと」
そんな後輩からの問いに、未夜は答える。
「何でって、僕たち役員は彼女にあまり良い印象を持たれていないようですが、それでも君たち同学年に対しては、警戒心が薄いように見えるんです。ですから、うってつけだと思ったんですよ」
「……今の郁斗は使い物にならないっぽいですからね」
そこまで言わずとも、晃は何となく察していた。
「そういうことです。それにそう細かく見なくても良いんですよ。『何か違う気がする』レベルぐらいで」
「……そのぐらいなら」
去年、同じクラスだったこともあり、飛鳥のことは何となくでも知ってはいるが、夏樹や郁斗ほど彼女の隠し事を見抜けるとは思ってはいない。
(けれど……)
もし、あの時のように、また話せるようになるのだとすれば、きっと俺はいつも以上に頑張るんだろうな、と晃は結論づける。
「何とか頑張ってみますよ」
「無理だけはしないように、してくださいね」
そして、二人はそう話し終わると、生徒会室の扉を開くのだった。
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