水森飛鳥と各ルートⅢ(鳴宮郁斗ルートⅥ・観覧車)


 やはりというべきか、迷子センターで少年とそのご家族は合流した。

 少年を連れてきた私たちはお礼を言われ、勝手に離れた(っぽい)少年は、行方不明になっていたことを叱られ、そして、心配されていた。


 一方で、私たちの方も桜峰さくらみねさんたちと合流した。

 私を見ながら、「殴らないよね? 殴らないでね?」とやや距離を取りながらも言ってきている辺り、何をやらかしたのか、分かっているらしい。


「「ごめんなさい」」


 とりあえず、二人から謝ってもらえたのだから、現状では許すけども。


「遊ぶより、探す方にかなりの時間を使ったから、あと一つぐらいしか乗れそうにないけど……どうする?」

「最後かぁ……」


 桜峰さんが、周囲を見回したり、パンフレットとにらめっこをしたりしている。

 個人的に乗りたいものがないわけではないのだが、絶対乗りたいかを聞かれると、そうでもない。


「というか、飛鳥あすかはどこか無いの? 飛鳥が希望した所とか、行ってない気がするんだけど」

「誰かさんが探し回らせたからね」


 とりあえず、風弥かざやたちにも無事に合流できたことは伝えておいたから、これで何の気兼ねもなくアトラクションを楽しめることだろう。


「うっ……で、でも、リクエストしてないのは事実だよね!?」


 私は誤魔化されるつもりは無いのだが、時間が無駄になりそうだったので、溜め息混じりにそちら・・・を向いて言ってやる。


「それじゃあ、アレで」


   ☆★☆   


「「……」」

「「……」」


 静かな室内の中、私がリクエストした乗り物こと観覧車が少しずつ上昇していく。

 誰かと二人きりと言うこともなく、外を見ている私以外は、お前が何か話せと言わんばかりに見つめあったまま誰も言葉を発しないから、無言のままだ(ちなみに、室内の様子は窓ガラス(の反射)を通して丸分かりなので、私は彼女たちに直接目を向ける必要は無かったりする)。


「わー、大分上がってきたねー」

「あ、ああ、本当だな」

「結構、高いね」


 外に目を向けた桜峰さんが声を上げれば、男性陣がそれに連なる。

 ……これ、やっぱり私、いらなかったんじゃない?


「ねえ、飛鳥」

「何?」

「やっぱり、話してもらえない?」


 最後の最後に粘ってきたか。

 でも、私の答えも決まってるんだよ。


「無理だね」

「……私たち、そんなに頼りない?」

「頼りになるとか、ならないとかは関係ない。それに、話すと決めたら、ちゃんと話すからって言ったよね?」

「それは……」


 それでも彼女が気にするのは、私が自分で思っている以上に不安そうな表情に出ていたからなのか、それとも――彼女が彼女であるからか。


「っ、だとしても、私は大事な友達が困ってるのを見過ごせないから。だから、話して」


 ……『友達』と来たか。

 桜峰さんの様子から、苦し紛れって言うわけでもなさそうだけど、それでも、私は――


「……、」


 言えるわけがない。


『貴女、もし少しでもおかしな真似をしたら、どうなるか分かってるわよね?』


 口を開き掛けた私の話を、きちんと聞こうとしている桜峰さんと夏樹なつきたちの表情と、女神から届いたメールを見てしまえば、言えるはずがない。

 だからこそ、どう躱そうか悩みどころで。


「飛鳥……?」

「……」

「……」

「……」


 観覧車が進んでいく中、ひたすら無言が続く。


『貴女の大切な人の命が、私の手の中にあることを忘れないで』


 数行スクロールすれば表れる、下にあったこの一言。

 忘れていた訳じゃない。忘れていた訳じゃないけど、それでも……それでも、やっぱり人質を取られたら、従うしかないじゃないか。


「わ、たしは……」


 観覧車の終わりが近付いてくる。


「お疲れさまでしたー。降りるときは足元にご注意ください」


 観覧車が着いたのだろう、そんな風に案内係のお姉さんが声を掛けてくる。

 出入り口に近いのは私だから、桜峰さんたちに止められる前に先に降りる。


「ちょっ、」

「答えないよ。私は何度同じことを聞かれたってね」


 振り返りながらそう答えれば、三人は硬直したかのように動きを止めていた。

 そのことに申し訳なさを感じつつ、観覧車の列の途中ぐらいまで一人で歩いていく。

 桜峰さんたちはギリギリで降りられただろうか。それとも、二週目に突入した? けどこれで、私への印象は最悪だろう。これで話しかけてこなくなれば、何も気にする必要はない。


「ちゃんと――ちゃんと、帰るから」


 きっと、私たちが望んだハッピーエンドは無理でも、せめてノーマルエンドやグッドエンドぐらいは迎えたい。


「バッドエンドだけは、絶対に認めない」


 二度と、同じ目には遭いたくないから。



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