第3話 まつ子、おんなは港
※前回のあらすじ。寝て起きたらここはどこ?
「港町・・・ですって?」
驚くルージュに商人のおじさんはもう一度ニヤリと笑って頷きます。
「そう、港町ナウマンダーンザザッポロートレイさ」
「え、と、すみません、町の名前をもう一度」
「しょうがないね。港町ナウマンダーンザザッポロートレイだよ」
「Say that again, please.」
「ニャウマンザ・・・ナウマンダーンザザッポロートレイ」
「・・・今、噛みました?」
「無駄に長い町の名前だからね。あと急に英語で聞かないでくれる?」
「悪気はありませんの。ただ、ささやかな悪意が少し」
そういいながらルージュが少しその場所から立ち上がろうとすると、おじさんは行く手を遮ります。
「おじさん、ここを通してくださる?帰りたいのですけど」
「それはダメだね。だって逃げられたら困るんだよね」
「ああ、そんな。逃げるだなんて」
ルージュは今にも泣きそうです。とはいえおじさんの予想通り、逃げるつもりでした。
「今さらだけど、あまり他人を信用しちゃいけないね」
「私を・・・どうするおつもりなのかしら」
「まずは運賃を払ってもらわないと」
「でも私、こんなところまで乗せてほしいなんて言ってませんわ」
おじさんはあからさまにため息をついて見せました。
「嬢ちゃんをいくら起こしても起きなかったのは私のせいじゃないよ。おかげで私も商売もろくにできなかったんだ」
「そんな・・・あっ!まさかあのときのリンゴ!!えと・・・あ?い?・・う、”麗しのクールビューティー”が?!」
「”スリーピングビューティー”だね。あ、から順番に始めて思い出そうとして、結局間違えるなら言わなければいいのに」
「そうそう、それですわ」
「聞き流しは健在だね。で、あれは、とっさにつけた適当な名前だし、睡眠薬を浸しただけのリンゴだよ」
「私の肌、綺麗になりまして?」
「今の話聞いてた?」
ルージュは怪訝な顔をします。
「じゃあ、あのリンゴの・・・お代も入っているのかしら」
おじさんは肩をすくめて言います。
「私もそこまで鬼ではないよ。あれはサービス。今欲しいのは、そう、商売ができなかった”必要経費”ってところだね」
「では・・・いったいおいくらをお求めですの?」
おじさんは平然とした顔で手をパッと広げながら答えます。
「銀貨50枚ってところかな」
「そんなに・・・そんなに持っていませんわ」
この世界は銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚です。
銅貨1枚でリンゴが一つ買えるくらいです。
「本日の相場ですとリンゴ4721個分の財産に相当しますわ」
「そんな換算をわざわざ・・・まあ、リンゴだとそうなるね。でも、そのくらいのお金は必要だね」
ルージュはお使いでおばあさんから貰ったお金とお駄賃ぶんを袋から出して見せました。
「これで、どうにかなりませんの?」
ルージュの手にあるのは銅貨13枚です。
おじさんはそれをろくに見もせず、突き放すように鼻で笑います。
「はん、こんなはした金。払えないんだったら・・・そうだね、その”体”で返してもらおうかな」
「この私の”身体”・・・」
「そう、その”カラダ”、でね」
「この私の”わがままボディ”「もういいかな、お嬢ちゃんにそんなニーズはないんだよ」・・・あら」
「きっちりこの先の農場で働いてもらうだけさ。ただし、完済までどのくらいかかるのかな?2ヶ月、いや半年以上・・・」
商人のおじさんはふふふ、と笑います。
「・・・そんな半年なんて!!」
「まあまあ、そんなに長く働くわけでなし、人生経験だと思ったらどうかね?悪いようにはしないよ」
「こんなことなら、デュエットくらいさせておけばよかったですわ」
「今、後悔するのそこじゃないね」
ルージュはため息をつきます。
そして左手を胸に当てて、おもむろに右手をあげました。
「嗚呼~♪・・・私の魅力が怖い〜♪」
「ちょっと、ちょっと。歌い出し悪いけど、ここはそういうシーンじゃないね」
「ああ、なんとか誤魔化せないかなって」
「それは難しいね。どうするのかい?ないと思うけど、今すぐに払うかい?それとも・・・」
商人のおじさんがそう言いかけたとき、後ろから声が聞こえました。
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