400字くらいからのショートショートや掌編や超短編

千求 麻也

すこしふしぎ系

月が赤いから

 燃えるような真っ赤な月が空に浮かんでいた。満月だった。

 残業を終えて重い足取りで歩く男の頭上から、なにやら歌声のようなものが聞こえてきた。

 人気のない夜道で男は立ち止まり、空を見上げる。月の光がメロディーとなって、空から降り注いでいるのではないかと男は思った。


 真っ赤な月を眺めていると、だんだんと歌声が近づいてくるようだった。優しく甘い歌声に男はうっとりとした。

 小さな光が男の目の前に現れた。星が落ちてきたのかと思ったがそうではないようだ。それは光る小さな妖精だった。

 赤く燃える今宵の月を歌い上げる妖精。柔らかく優しい歌声に、赤ん坊のように男は包み込まれた。


 妖精は歌い終わり、月へ帰ると言う。男は妖精を素早く捕まえ一息に飲み下した。

 これでずっとこの甘美な歌声に包まれていられる……。

 次の瞬間、月は雲に覆われ真っ赤な雨が降り注いだ。すぐに雨は止み、雲は流れ、真っ赤になった男の頭上には、白い満月がぽっかりと浮かんでいた。

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