激戦


 「近場の森で仲間が殺されたと聞いて気になって来てみたが……どうやら探した甲斐はあったようだな」


 強面の男は俺の正体が悪魔族であると瞬時に見抜いているのだろう。不適な笑みの中で殺意の隠った眼光を放っている。


 その眼光からは相手が一切の油断もなく初めから本気であるということを現していた。


 一方の金髪の男はそうではない。おそらく実力で言えば強面の男より遥かに下だろう。


 となれば初めにコイツを狙って一気に形成を有利に進めたいが。


 「タカハシくん……獣女は貴様に任せても問題ないな」


 「いいんすか? やったぁ! 俺好きなんすよね小さな女の子を虐めるの」


 片手にナイフを扱いながら嫌な笑みを浮かべるタカハシと呼ばれる男。


 いくら隙があるといっても奴は転生者だ。アイナではまず勝てない。


 「アイナ……お前は逃げろ! こいつらの相手は俺がやるッ!」


 「そんなわけにはいきません。私だって魔王様の役に立ちたいんですだからーー」


 「馬鹿かお前は……! コイツらはお前の勝てる相手じゃーーっ!?」


 目の前に迫るのは殺戮の刃。俺は寸前のところで相手の殺気を探知し返す刀で強面の男の斬撃を防ぐ。


 「ぐっ……!」


 「今の動きに対応できるとは大したものだ。大抵のものはこの一撃で命を落とすのだがな」


 「あいにく俺はそんなヤワじゃないんでね!」


 コイツをまともに相手していたらタカハシとかいう野郎とアイナが戦うことになる。


 おそらくはこの男もそれを狙って俺に積極的に戦いを仕掛けているのだろう。


 何とかしてアイナを逃がさないととは思うが時既に遅い。タカハシは既にアイナの元へとじわりじわりと近づいてくる。


 「アイナ! 何やってんだ! 逃げろ!」


 「今ここで逃げてしまっては魔王様が二人を相手にすることになります。そんなのさせるわけにはいきません!」


 剣を構え懸命に戦おうとするアイナ。それを見てタカハシは嘲笑うように相手を見る。


 「へぇ~逃げないんだぁ。俺、幼女と鬼ごっこするのが好きだったのに残念。ま、チャンバラごっこは出来るけどね きひゃひゃ!」


 気持ち悪い笑みを浮かべて戦う準備を始めるタカハシ。本当はアイナだって逃げたいのだろう。


 現に足は震え、目にも怯えの色が見えている。しかしそれでもなお一歩も退くことなく彼女は相手に向かって一気に刃を振るう。


 「たぁぁあッ!」


 「ははっ! 怖い怖い」


 しかし実力差は歴然。本気で挑んでいるアイナに対してタカハシは遊び感覚で対応している。


 転生者は転生される際に魔力によって強化が施されている。


 ゆえに身体能力が極めて人間に近い獣人族のアイナではまさに大人と子供ほどの差があった。


 俺も何とかして助けてやりたいが、この男を相手にそんな余裕はなかった。


 「フ。戦闘中によそ見とは随分余裕と見える」


 「まあな、貴様なんざ数分で倒してやるぜ」


 もちろんそんなの強がりだ。実際は五分どころか数時間戦ったところで勝負がつくとは思えない。


 それでも五分が限界だ。タカハシと呼ばれた転生者が遊んでいる間にこいつを仕留めてアイナを助けるッ!


 「あいにく時間がないんでね。一気に片付けさせてもらう!」


 相手との距離を取り、男に向かって手を翳す。瞬間、男の周りを紫色の魔方陣が取り囲んだ。


 「俺だって一応悪魔なんでね。それなりの魔法は使えるんだよ!」


 魔方陣をセットし後は発射の合図を出すだけ。手を勢いよく下ろすと同時に魔方陣からは高密度の魔力の塊が光線となって放たれた。


 「なにっ!?」


 黒髪の男の表情が強張る。当たり前だ、これだけの魔力量……悪魔の中でも全滅と聞かされた魔王クラスじゃないと扱うことが出来ない。


 俺を悪魔だと認識できても魔王だと判断しなかった。それこそが相手の隙だった。


 光線はまっすぐに彼へと放たれ。激しい爆発音が驚く、周囲には爆散した煙が立ち込めておりそれだけ今の一撃が強力であることを現していた。


 「やったか?」


 煙が晴れると共にやがて相手の姿が鮮明になる。


 ーー敵は立っていた。魔王クラスが放つ全力の一撃。それを受けて尚、相手は立ち生存している。


 彼の周りには半円上にかけて電気のバリアが張られており、それによって俺の攻撃を防いだのだろう。


 だが……それが奴の限界だ。確かに殺すまでには至れなかったが……それでもかなりの傷を与えることができた。


 「この攻撃……なるほどな。どうやら貴様は只の悪魔だと思っていたが違うらしい」


 「今さら気づいてもおせーよ。スキルの能力でバリアを張ったのはさすがだが……それももうお仕舞いだ」


 「おしまい……だと?」


 次の瞬間。彼に張られていたバリアはまるで力を無くしたかのようにして消える。


 彼の足元には無数の蛇が絡み付いており、男の足にガブリと噛みついていた。


 魔法攻撃の呼び策として仕込んでおいたスキル殺しの蛇が役に立った。


 この半透明の蛇こそが俺の新たな能力。スキル殺しーー戦争に敗北してから突然目覚めたこの能力は相手のスキルを完全に消すことができる。


 もっともそれは一時的、更に言えばこの蛇を相手に噛みつかせなければならないのでその難易度は高い。


 しかし成功すれば転生者のスキルを殺すことができる。


 「これも貴様の魔法か……」


 蛇を剣で斬り落としながらこちらを見やる。試しにスキルを使う動作をしてみるものの、当然使うことはできない。


 「さあな。俺も気がついたら使えてたんだ。……もっと早く使えてれば戦争でも勝てたかも知れねーが。まあ、そこはそれ……こうしてアンタを追い詰めることが出来ればオッケーって奴さ」


 「フ。なるほどな……だがスキルは封じられようと剣は握れる」


 「……まだ戦うつもりなのか」


 「当たり前だ。剣は握れ身体動く……ならばこの程度の傷さしたる問題ではない」


 「いいねぇ……アンタとはもっと時間をかけて楽しみたいが。あいにくこれ以上は構ってる余裕がない」


 もう既にあの二人は姿を消してしまっている。おそらくは戦闘のすえ、どこか森の奥へと移動してしまったのだろう。


 コイツを仕留めたいのは山々だが今は一分一秒が惜しい状況、俺は負傷した男を放置するとアイナの元へと急ぐのだった。

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