ロ短調現代詩集

司島維草

一ページ目


檻の中の動物たちは

眺めている我々を嘲笑う

降霊したソクラテスは

我々に鍵を作り始めた


大矢誠の猫虐殺

学校でのいじめと体罰

ブラック企業の過労死

老人ホームの虐待

日馬富士の暴行

無抵抗な下の者を踏む日本

踏まれ続けた人は自殺

戦争をしない平和な国で

暴力と絶望がペストのように蔓延

「人生100年時代の社会保障」

我々に1年保障はあるか


障害者、と呼ぶ我々は

昨日自信を失い

今日恋人を失い

明日治療で歯を失う

我々のために

頑張らされる障害者を見て

勇気と感動を自慰し

奮起は一匹の羊に踏まれ

惰性のうさぎに舞い戻る

そんな健常者の健常とは何


東が

西が

再び西が

自然に牙を剥かれた未曾有の時代に

自分は被害者にならないという

ルーレット的傍観が

列島から失われ始めている

もはや我々は

一億総メメント・モリ


還暦を過ぎた男性に

強いられる重労働

歩み違えた三叉路を

振り返らない社会

今日も改善搾取という四字熟語を

念仏のように唱える長たち

我々はまるで

牧畜犬に追いかけられる

羊たちの転写

塵まみれの大型換気扇は

航空機の来世を夢を見る


鼓膜が消しゴムのように削れてゆく

ベルトコンベアの音は

まるで悪魔の歯ぎしりのよう

人間は利便性の代わりに

ベートーヴェンの《田園》を聴く耳を捨てた

ちょうど対を成す牧歌的なものを

強いストレスで記憶が飛んだ

ノイズで我に返った

この間に人は年を取るのだろうかと

ふと思った


書物の読書より五感の体験は臭った

物に溢れた社会がフタをする縁の下

極彩色の汗が降るプロレタリアの巡礼より


ブラック企業をくぐると

そこは蜘蛛の巣であった

火山の噴火が頻発し

奴隷は唾液灰にまみれる

チャコール・グレーが掌線を埋め

口蓋垂は咳でメトロノーム

これまでに吸った埃で

塵だるまを作れ

人が金以下になった

資本主義のモニュメントを

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