二十「水の都ロハス到着」

 アサヒが目を覚ましたのは自身の足に重さを感じたからだ。

 結局、野宿する事になってくじ引きでアタリを引いたナンバーワンが馬車の荷台で寝れる事になった。


 勿論、容赦なくアタリを引かせてもらった。お兄ちゃんは無駄な所で運気を使い果たす人間です!

 まぁ頑張って詰めればなんとかもう一人寝ることは可能だが、俺と幼女が一つ屋根の下。問題しか起こる気がしない。

 なので、他3人には焚き火前で寝てもらっている。

 地面で寝るのは可哀想だとは思ったが、ラフィーがどこから取り出したんだかわからんが寝袋を持ってきていたので3人とも渋々外で寝てくれた。


 「つまり、この重さは3人のうち誰かが夜這いをかけた……そんなエロマティックな展開が……!?」


 俺は明らか人一人分の重さを足で感じていて、3人のうちならラフィーがいいなぁ。むしろラフィー以外荷台に侵入しないだろうなぁ。って考えながら、自分の足元に目をやる。


 「あら……起きちゃったの? このまま喰いつくされてもよかったのよ?」


 帰ったはずの妖艶の悪魔さんの再登場でした。

 いや、わかるかよ! つか、なんで来てんだよ! そこは先回りしてるとかじゃねぇのかよ!


 「冗談よ……少し気になった事を思い出してね。すぐに終わるわ。……もしかして期待させちゃったかしら?」


 妖艶の悪魔は唇を舐め回す。

 い、いえ?!そんなこと考えてませんよ??

 しかし、彼女が夜這いして来たのは事実で、俺は荷台の窓から外を見るとまだ日は登ってないとみた。


 「なんなんだよ……早く帰れよ……」


 「あらぁ。そうでもなさそうな可愛い声出しちゃって。あ、ちょっとチクっとするわよ」


 え、注射ですか?毒ですか?やめてください!

 と思ったが俺の身体は既に動かない。

 というのも金縛りという表現が正しいだろう。動かそうにも一つたりとも動かない。


 「……本来なら、朝まで目覚めることもないのだけれど……貴方はやっぱり特別なのよね。という事で失礼」


 「痛っ」


 なんとか目線だけで何をしたか見ると、俺の指先から血が出ていた。

 妖艶の悪魔は独特なフォルムのナイフを握っているのでそのナイフで傷付けられたのは明白だ。


 「綺麗な赤黒。そそるわぁ」


 そう言うと、俺の指にしゃぶりついた。

 傷口から血を吸い出すように貪った。

 あれ?吸血鬼ではないんですよね……?


 「ぷはっ。やっぱりだわ。嬉しい誤算だわ……ごめんなさいね、こんな夜更けに。けど、私が正しかった。それだけで充分よね? あぁ、吸血鬼ではないわよ。念押しするけれども」


 彼女は俺の血で唇に色をつけた。

 そのルージュは嫌に美しく、白い肌とマッチしていて『妖艶』。ただそれだけを醸し出していた。


 彼女は何やら小声で唱えると俺の瞼に手のひらを置いた。

 すると、手のひらから謎の暖かさが侵入してきて、睡魔が襲ってきた。

 そんな微睡みの中でも、彼女の細い声は鮮明に聞こえた。


 「おやすみなさい。……貴方の香り、貴方の血、貴方の魅力は危険だわ」


 ただ、彼女は気になる単語を放って闇へ溶け込んだ。


 # # # # # #


 「おーい? 大丈夫か?」


 「はっ!」


 次に目を覚ますと馬車は既に動いていてロヴによって声をかけられたと理解した。


 「寝汗でビッショリじゃねぇか。なんか怖い夢でも見たか? ナハハ!」


 怖い夢……だったら良かったが。

 指の傷跡はクッキリと残っている。

 身体を動かせない支配された恐怖心も覚えている。


 「……いや、なんでもねぇよ。大丈夫だ」


 荷台を見渡すとラフィーは未だに寝ていた。

 ……まぁ、よく寝る子はよく育つって言うしな。仕方ないけど……俺より寝てるってどう言うことですかね。


 「ん? ラフィーちゃんならナビィちゃんにここへポイっ! されてたよ。ナハハ!」


 ナビィちゃんはラフィーの扱いに長けているようで安心です。

 つか人の妹をポイって投げんなよ。なんだよポイって。せめて優しく寝かせてやれよ。んで、起きないラフィーもラフィーだなおい!


 すると運転席側からノックが聞こえた。

 俺は小窓を開けてナビィを覗き見る。


 「どーした?」


 「無駄話に無駄に長い睡眠。とかしてる間に見えたよ。ロハス」


 「おお、あれか。……やっぱデケェな」


 俺は異世界ではそれぞれ街をイメージしていたが、実は想像とは違くて一つ一つがそれぞれの国なのだ。当たり前のように巨大である。

 鼻先に見えるロハスの国だって長閑な雰囲気を出しながらもその国の力は誇示しているようにも見える。

 ここら一帯は平地だが、ロハスのある場所は少しだけ沈んでいて、水が溜まりやすい場所になっている。

 だから集めた水を使っているからこそ水の都と言われるのだろう。


 水が豊富のお陰なのか所々緑が豊かに見え、マイナスイオンで包まれている。そんな国だ。


 「綺麗だな……」


 「そうだね……ハッ!」


 ナビィとロハスを遠目に眺めて感想を零す。すると、ナビィはハッと反応をしたと思うと、俺の顔に一発お見舞いしやがった。


 「痛ぇ! なにすんの?!」


 「べ、べ、別に、アンタとここに住んだら楽しそうだなぁなんて思ってないし、綺麗って言われてアタシの事? とかも思ってないし、あぁ言われたらいいなぁ。なんても思ってないから! 普通に危ないからもう中に入ってろって事だからね! 別に強がりでもなんでもないから!」


 なんか急にまくし立てられたけどなんて言ったのかしら……鼻が痛いし耳がキーン!しててロクに聞き取れなかった。

 まぁ、中に入ってろって事か。女の子だし上手く馬車を引けてるのを見られると何か嫌なんだろう。知らんけど。


 「ナハハ!」


 なんかロヴは腹抱えて笑ってるけど。


 「ぷぷっ」


 ウチの眠り姫も寝ながら笑ってるけど。


 「なんだよ……」


 「ナハハ! 別に?」


 コイツしばいたろうか? はぁ。なんだか女子に手玉にされる感覚って嫌だなぁ。男としての威厳が損なわれている気がしてならない。

 いや、もう男の子らしいは捨てようかな。どーせ無駄ですよー。僕ちんは女々しい生き方をしてきましたからー。

 現実世界では人とあまり関わりを持たないように生きていたのを思い出してすこしネガティブになった。

 ま、俺は運動部でもないし主婦力が高いし、男の子らしくなくてもいいですよー。

 誰に言うでもなく強がってみた。


 ロハスでやる事は秘められた力の解放。そして、ロヴの両親へ謝る事だ。いやなんで俺らも謝らなきゃいけないんだか……

 なんにせよエルフの仲間を引き抜くのもいいだろう。戦闘力が増えるだろうし。


 そんな期待を抱いて、水の都ロハス到着である。

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