第06話 気分は竜宮城
エリザベカの町に到着してから2日。町の住人から魔法陣のある洞窟の情報を聞いて回っていた二人だったが、有力な情報は得られなかった。
ひとつだけはっきりしているのは、町を定期的に襲う魔物が、必ず海から出現しているということ。ティアナの魔力探知も海からの反応が強くでていることからもそれは明白だった。
「やはり、海の中と言うのが有力なんでしょうか」
ジャベルはティアナにそう呟く。
「まだそう考えるのは早計かと思います。例えばどこかの島に存在しているとか」
「なるほど…島と言う考えもありますね」
「はい。今、私の天使が付近の海域を空から確認しております」
ティアナのレベルなら、
(俺にも、もう少し
ジャベルの握りしめる拳を見て、ティアナはその想いを察した。
「勇者様が気に病むことはありません。
「自身の強い想いがあれば、無限に湧き出てくるものです」
その言葉に反応しているのか、ティアナが見るジャベルの瞳はとても強く輝いているように見える。
「つまり、
ジャベルの言葉に、ティアナは小さく頷いた。すると、ティアナが空を見上げた。ジャベルも空を見上げるが何も見えない。
「人々に見えるといけませんので、雲の中に身を潜めております。」
「あ…そうなんですね。では天使からの報告が?」
「はい。ここから南西の方角にいくつか無人島があり、ひとつの島から魔力反応を強く感じるそうです」
目的の位置は分かったが、ここからが問題だった。モンスターの巣窟になっているであろう島にどうやって渡るのか。船で渡る方法は船員の命を危険に晒す恐れがある。
―――ジャベルは考えた。そして出した答えは、
「ティアナと二人だけで島へ渡ろう。」
「勇者様、船を操舵するスキルは持っておりませんが?」
ジャベルはいたって真面目な顔をしていた。
「
「―――水竜に島へ運んでもらうと…?しかし…」
「勇者様、島へは距離があります。もし、途中で勇者様の
ジャベルの意志は固かった。ティアナもその意志を尊重し、できる限りの対策を講じることにした。
まず、出発を一日遅らせて、ジャベルのレベル上げを行うことにした。港町だけに付近の海岸はモンスターが出没することが多かったため、レベル上げには十分だった。
次に
(あの精神修行が一番やばかった…。ある意味で)
最後に食事。ティアナであればバジリスク肉を食べれば、
こうして、港町の3日目は過ぎて行った―――。
「行きましょう!」
「はい。勇者様」
二人は町人の混乱を避けるため、町から少し離れた海岸を出発地点に選んだ。ジャベルは精神を集中させ、水竜を呼び出す―――。
「我、ジャベルの名の基に
ジャベルの右手に水竜の紋章が浮かび上がる。すると、海岸に不自然な波の流れがおこり、その中から水竜が顔を覗かせる。
(我が主、お呼びだろうか)
「リヴァイよ。我らを乗せて目的の地まで運ぶことは可能だろうか」
(容易いこと。)
すると、水竜が大きなシャボン玉のような球体を水中から出現させた。その球体は二人を包み込むと、水竜の頭へと運んで行った。
「恐らく、水中でも呼吸ができる上級魔法かと思います」
その説明の通り、水竜は二人を乗せたまま水中を移動するも、水中での呼吸が可能だった。場所はティアナが魔法探査し、ジャベルが的確にそれを水竜に伝えた。
目的地が近づいてくるのに時間はかからなかった。
(我が主よ。この先は巨大な魔力を感じる)
「リヴァイも感じるか」
(はい。よもや主はあの地へ赴こうというのか)
「そうか…リヴァイは分かっているのだな。魔物の巣窟を」
(はい。我にとっても魔物は脅威。)
これだけの巨体を操る竜族ですら、やはり無尽蔵に生み出される魔物は厄介者。ただ、水竜がこの地域にいなかったら、エリザベカの町は一瞬で魔物の餌食になっていたかもしれないと思うと、ジャベルは竜族の偉大さを改めて感じるのだった。
―――島に着くなり、そこは壮絶な状態だった。
まず上陸前に水竜が一度モンスターを掃討していたのだが、そこはさすが魔物が生み出される島。次々と海から魔物が上陸してくる。
二人は水系モンスターのうち、上陸ができないモンスターがいなくなる森の中までの撤退を余儀なくされた。
「―――くそ、俺でもなんとなく予想できるが、魔法陣は海側ってことだよな」
「はい。森の中に入った事で、魔力反応が遠のきました」
水竜とは距離が開いた事で、召還自体が解除されているようで、ジャベルの右腕にあった竜の紋章は消えていた。
モンスターはサハギンを中心とした上陸可能型が次々と送られてくる。
「倒してもキリがない」
「はい。勇者様。しかし、これは好機と捉えるべきです」
「はい?」
それは昨晩の事―――。
「―――勇者様、ひとつだけ
「ティアナさん、それは…?」
「はい。簡単な事ですが、レベルアップです。」
消費した
「つまり…レベルアップを繰り返せば、ある程度の
ジャベルの言葉に、ティアナは軽く頷いた―――。
「た…確かにこれだけのモンスターを相手にしていれば、レベルも上がりそうですが、私の体力が持ちません」
「もし、体力が無ければ、私が一人でも多く退治するだけ、その間に休んで回復してください」
(ひぇぇぇ。こりゃあとんだスパルタ教育だよ)
ティアナのレベルは999。体力も精神力もどれだけあるのか、ジャベルには全く想像できなかった。ジャベルは休んでは戦い、戦っては休み。怪我はティアナが完全回復させてくれるまさに無双状態となっていた。
―――どれだけ戦ったのだろう。ティアナの呼吸が少し上がってきている事に、気づかないジャベルではなかった。
お互いに連戦による連戦で、防具はボロボロになり、武器も買い込んだ分の3分の2は既に使い物にならなくなっていた。
しかし連戦の影響か、攻めてくるモンスターの数は最初の頃よりも半分以下になっていた。
「ティアナさんも少しは休んでください。私なら先ほど休みました。今ならまだしばらくは戦えます」
「はぁ、はぁ、はぁ、い…いえ。お気遣い…なく勇…者様…」
ティアナはジャベルに対して、切れかけた攻撃強化と防御強化の補助魔法をかけ直す。すると、ティアナががくりと膝から崩れ落ちる。
「―――ティアナさん!!」
ジャベルはティアナに駆け寄る。ティアナは治癒魔法を自身にかけていた。今まで自分に治癒魔法を一切かけず、ジャベルの補助に回していたのだとジャベルはこの時初めて気づいた。
「酷い怪我じゃないですか…なんで…」
「勇者…さま…うしろ…です」
「くっそー」
ティアナを気遣う暇なくモンスターが襲い掛かってくる。ジャベルは今持っている剣を見ると、刃はボロボロで既に限界に達しようとしていた。慌てて荷物から剣を取り出す―――。
「―――最後の…一振り…」
取り出した剣には、最後を示す赤い布が柄に巻かれていた。ジャベルはそれを見ると覚悟を決めた。
(―――あれを…使うしかないのか…)
ジャベルは薄々気づいていた。この連戦中のレベルアップで、自分が何かのスキルを得ている事に。しかも、今回は頭に呪文が浮かび上がっており、効果も恐らくそうであろうと思われる呪文だったのだ。
何戦目のモンスターだろうか、ジャベルは最後の1匹を倒し終えると、周囲を警戒しつつ体を休めた。
森の中は既に薄暗くなっており、早朝から出てきたはずだが、夕暮れまで戦っていたのだと気づかされる。
ジャベルは
「ティアナさん、以前のように天使を召還できないのでしょうか」
ジャベルが聞くと、ティアナは首を横に振った。
「以前にもお話しましたが…私が天使で掃討すると、勇者様の経験とはなりません」
「―――あ…そっか…」
つまり、ティアナはわざと天使を召還せずに、今までジャベルのレベルアップに付き合ってきたのだ。幸い、モンスターの気配が薄くなり、しばらくは襲われる危険性が無いと判断した二人は、朝ぶりの食事をすることにした。
ティアナが食料を
「俺は甘かったんでしょうか。」
立ちながら食べているジャベルから出た突然の言葉に、座りながら食べていたティアナは食べる事を中断し、ジャベルを見上げた。
「そのような事は決してございません。」
「むしろ、この島を中心にこれだけのモンスターがいたのです。きっとエリザベカをこの軍勢が襲撃したら、町は壊滅だったでしょう」
ジャベルはティアナの方を見ると、ティアナの防具もボロボロで、右肩は既に布すら無く、ジャベルはそのセクシーさにドキッとして視線を空に向けた。
「―――二人ともボロボロです…ね。早く終わらせて…町で着替えたいです」
「ふふふ。まったくです。勇者様の服も新調しなければ、変態に見えてしまいます」
そう言われてジャベルはようやく気が付いた。自分の装備のお尻部分が半分ほど千切れていて、半ケツ状態になっている。
「おわ!本当だ!!」
「仕方ありませんわ。二人とも戦いに集中しておりましたから」
ジャベルは久しぶりにティアナの笑みが見れたのと、恥ずかしさから、少し顔を赤らめて照れ笑いした。
果たして、二人は無事魔法陣を破壊して、町に戻れるのだろうか―――。
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