巨斧少女とシルクハット③
「御存じないなら教えますが、この機関自体はまだ出来て新しいのです。ほんの数年前に出来たばかりの組織ですからね」
「なるほど……。通りで知らないわけだ」
「えぇ。そして最近になって、多くの退魔士たちもこの機関に従属するようになってきました。この地域は、まだのようですがね」
「知らされていなかったからな。それはそちらの落ち度だ」
依然として強気として出る剣聖に、斎は肩を揺らす。
「そう言う主張もあるでしょう。ですが、警告はしましたよ?」
そう告げると、斎は玉響の肩をポンと叩く。
それが何らかのサインだったのか、玉響は唸りながらも大斧を消滅させる。
そして、二人して半身を翻す。
「今回は見逃してあげることにしますが、次回はないと思ってください。あくまでこれまで通りの活動を続けるというならば、それ相応の措置を取らせていただきます――。では、行きますよ、玉響さん」
捨て台詞のように言うと、二人は完全に踵を返して歩き出す。
気づくと、周りは障界による結界が消えていた。剣聖も刀を消滅させる。
「そんな脅しに、私は屈しない」
この場を去ろうとする政府の局員に、勇敢に晶は言い放つ。
言葉に足を止めて振り向く二人に、白きヒロインは告げる。
「私が戦ってきたのは、欲でも益でもない。ただ人々の平和を守るためよ。お前たちみたいな、権力をふりかざしての偽物の正義からじゃない。私は、私の手の届く範囲だけであろうと、守れる人を守り抜く! お前たちの脅しには負けない!」
敢然と、晶は言う。
凛と毅然としたその態度に、政府の局員たちは思わず口を引き結び、剣聖は何らかの感情を含みながら、目を細める。
「それが、貴方たちの答えですか?」
斎が尋ねる。
「少なくとも、私はそのつもりよ」
「同感だ。俺はお前らなどではなく、こっち側につく」
晶に続いて、剣聖は言う。
「正しいのはどちらか明白だ。彼女のような真っ当な正義を掲げる権利は俺にはないが、その正義を助けるぐらいはするつもりだ」
「四葉くん……」
剣聖の言葉に、晶は嬉しそうに微笑む。
それを、斎は目を細め、玉響は唸りながら見る。
「……よいでしょう。では、然るべき措置を取らせて頂きます。御覚悟を」
そう言って、斎たちは今度こそ二人の前から消えて行った。
斎たちが去ったのを見て、剣聖たちは帰路へついていた。
帰路と言っても、剣聖は途中まで晶を送るために、それに同行する形だ。
「まったく・・・・・・。なんなの、あいつら」
ひどく気分を害した様子で、晶が歩きながら言う。
知的そうな顔立ちで告げる言葉は、一瞬クールな少女の憤慨に聞こえるが、実際には頬膨らませているような表情なためどこか小動物じみて愛らしい。
「私たちを偽善とか。本当に、腹が立つ」
「……言わせておけばいい。元々、俺らは見返り無く動いているのだからな」
不機嫌そうな晶に、あくまで冷淡に剣聖が返す。
すると、それを見て晶が横目の後で、視線を伏せる。
「その、ごめんね。なんか、私の勝手な正義感に巻き込んでしまって」
謝る晶に、剣聖は訝しげに眉根を寄せる。晶は続けた。
「四葉くんとすれば、私の正義ってどこか自分勝手に映るんでしょうね。結局は自分本位で、自己満足なところがあるようだとか」
「別に、そんなことは思っていない」
晶の懸念を真っ向から否定すると、剣聖は言う。
「誰にも見返りを求めずに人々を守り続ける――批判する者もいようが、その一心で戦うお前の信念は純粋で気高い。これはそうそう出来るものじゃないだろう。よほどの馬鹿か、胆の据わった人間じゃない限りな」
「私が、馬鹿だと言いたいの?」
「……面倒な奴だな。珍しく褒めたらこれだ」
少し憮然とした様子で鼻を鳴らし、剣聖は晶と横目で目を合わせる。
「お前みたいな正義の示し方は、俺には出来ない。だが間違っているわけじゃない。決して、な。だから、お前は前を向き続けろ。迷うことなくな」
そう告げると、晶は少しぽかんとした後、くすりと微笑む。
その笑みは、とても嬉しそうで、可憐だ。
「ありがとう。確かに珍しいけど、そう言って貰えるのは嬉しいかな」
「……話が変わるが、気になっていることがある。お前は、奴らの言っていた『怪異災害対策局』とやらに聞き覚えはあったか?」
表情を真顔に取り戻しつつ、剣聖は訊ねる。晶は首を振った。
「いいえ、知らない。聞いたことも、あると想定したこともなかった」
「俺の知る限り、そんな組織は数年前まで確かになかったはずだ。爺様から聞かされたこともなかったからな。本当にある組織だとしたら、それはほんの数年前に出来た組織ということになるだろう」
剣聖が成長する前は、剣聖の祖父が街を守る退魔士だった――ということを、晶は剣聖から以前聞いたことがある。今は剣聖に、体力の衰えなどから第一線の役目を任せているそうだが、腕自体は剣聖をして達人とするほどのものらしい。
その祖父から、各種の情報を教わったのが数年前とのことらしい。
「じゃあ、アイツらが言っていた通り、本当に数年前に出来た組織ってこと?」
「そうだな。むしろ今までなかったのが不思議だとも考えられるが――」
いろいろと考察をしながら、二人が歩いていた、途中である。
背後から来た自動車が、二人の側に寄ってきて減速して停まる。
それに気づいた二人は胡乱がって振り返る。
晶は、思わず肩を震わす。そこにいたのは、一台のパトカーであった。
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