【本編後】雪の予報と彼女たち。



「あ、」


「……? どうしたの?」


「明日、雪だって」



 ほら、とスマホの画面を見せれば、彼女は目を輝かせた。



「ほんとだ!」



 弾む声に、首を傾げる。



「嬉しいの?」


「雪って、わくわくしない?」



 正直、面倒くさいという気持ちが勝つ。けれど、非日常めいていて心が浮き立たないかと問われれば、全くそうでないとは言えない。

 無難に、「まあ」と濁す。


 よほど雪が楽しみらしい彼女は、そわそわとした様子で、こちらの複雑なようで単純な心情には気づかなかったらしい。内心ほっとする。他人の楽しみに水を差すのはよくない。



「雪だるまとか作れるくらい積もるかなぁ」


「どうだろう。……作れるといいね」



 交通機関に影響が出ると面倒だけど、彼女のために日陰に小さな雪だるまを作れる程度に積もればいいなぁ、と思う。

 雪にはしゃぐ童心はどこかに置いてきてしまったけれど、雪にはしゃぐ女の子をかわいいと思う気持ちは持っている。雪にはしゃぐ野郎はどうでもいい。

 雪が降るたびテンションを上げて突撃をかましてくる幼馴染の一人が脳内に顔を出してきたのを追い払って、頬を上気させて目を輝かせている彼女をほほえましく見守っていると、彼女はこちらを窺うように見遣った。



「……こ、子どもっぽいかな?」



 予想外の言葉に目を瞬く。

 なんだ、そんなことを気にしてたのか。



「かわいいと思うよ」



 子供っぽいか否かをまともに答えると彼女が気にしそうだったので、笑ってそう言えば、彼女は今度は別の理由で頬を赤らめた。



「うぅ、それ、つまり子どもっぽいってことだよね……?」


「『かわいい』と『子どもっぽい』の間に相関関係があるのは否定しないけど、そういうところがあなたの好ましいところだと思うし、かわいいよ」



 言葉を重ねれば、彼女の頬がますます赤みを帯びる。「そういうの反則だと思う……」と、ついには掌で顔を隠してしまった彼女を、さて何と言ってなだめようかな、と考える、そういう他愛ない時間が楽しいし幸せだな、と思った。



 ――その会話を聞いていた阿呆ども(主に問題なのは一人だけど)が、「話は聞かせてもらったよ」と突発雪国ツアーを週末にねじ込んできたのには、呆れ返るしかなかったけれど。


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