彼女と彼女と事態の推移



「えいや(プシューッ)」


「……い、一瞬で人が倒れたけど、それ何?」


「万が一のときのために隠し持ってた知り合い作の対人用スプレー。一昼夜は目が覚めないって話だったから、とりあえずこの人は人目につかないところに隠しておこう。……人体に有害な成分はないし後遺症とかも起こらないって触れ込みだったから使ったけど、それでこんな速攻で気絶させられる代物作れる方がこわいよね」


「す、すごいね……」


「本当に最後の最後の奥の手用だったから、もうもしもの時用グッズは品切れだけど。……次見つかったら追いかけっこしかないし、準備運動しておこうか。結構時間稼ぎはしたし、そろそろ外の決着がついてもいいとは思うんだけど」


「『わたしたちがいなくなったのに気付いたから』だけじゃなさそうだもんね、外が騒がしいの……」


「さっき大声で喚いてた、黒幕なのかいいように使われた小物なのかわからない人の言からして、だいぶ追いつめられてはいそうだったしね」


「『庶民の小娘共に逃げられたうえ、まだ見つけられないのか無能が』とか言ってた人?」


「記憶領域の無駄でしかないから存在ごと忘れるのを推奨するよ。特に喚いてた内容はね」


「貴方に途中で耳塞がれちゃったから、ほとんど聞こえなかったけど……」


「あなたの耳を汚すのもどうかなぁと思って」


「それなら、わたしだって貴方の耳を塞ぎたかったのに」


「まあまあ。現状把握のためにも、二人とも聞かないってわけにはいかなかったし。……ん、外静かになったね?」


「ほんとだ」


「三笠さんからざっと流してもらった情報的に、制圧終了かなーって感じはするけど。一応確認してから出ようか」


「三笠さんに連絡とるんだよね。ええと……こうして、こう……」


『お、このタイミングで連絡来るってことは、そっちはちゃんと無事ってことか。重畳重畳。お察しの通り、とりあえず場は落ち着いたから、出てきても大丈夫だぜ。今四人組が嬢さんら探しに出たところだから、ちょうど行き会うんじゃねぇ?』


「……無駄のない先回りした情報提供ありがとうございます。『探しに出た』ってことは、私たちがいるだろう場所の情報は流さなかったんですね」


『そっちのが感動が増すかと思って』


「……まあ一応、それにもお礼は言っておきます。本当に最低限の手出しにしてくれたんですね」


『それは俺がちょっとチクチク釘刺したからだよー。褒めて褒めて? 妹ちゃん』


「……取引的にグレーな部分までご協力ありがとうございます」


『ちなみに俺たちは幼馴染くんたちの後ろを悠々と歩いてついてってるところだよ』


「じゃあもうすぐ会えますね。こっちも出るので、話はまた後程。……あ、勝手に切っちゃったけどよかった?」


「うん、状況はわかったから、大丈夫。あとは合流するだけ、ってことだよね?」


「そうだね、脅威は去ったみたいだから。後始末は全部あいつらがやるだろうから、もうこの件で煩わされることはないと思うよ」


「そっか。……よかった」


「うん、ちょっと見つかりそうにはなったけど、特に危ないことがなくてよかったよかった。あいつらから謝罪の嵐が来ると思うけど、甘んじて受けてやってね。実際、あなたは迷惑かけられた側なわけだし」


「う、うん……」


「大丈夫、適当なところで止めるから」


「……! ありがとう!!」


「その笑顔の輝きの分だけ、あいつらが迷惑をかけてきたんだろうなぁと思うと申し訳なさが積もるね……」


「え、い、今のは! そのっ……」


「いや迷惑かけっぷりは事実だからフォローしなくていいよ」


「う、うぅ……うん……その、ちょっと、ちょっとね、困ることもあったっていうかね……」


「うんうん、本当にやさしいね、あなたは」


「そ、そうじゃなくて……!」

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