第9話

上条は桜井を見た。


木本も桜井を見た。


桜井は二人の顔を交互に見た後、言った。


「まだドラッグと決まったわけじゃない。それに……」


「それに、なんだよ」


「ドラッグだったとしても、僕たちに出来ることは何もない。今まで通りだ。ただ、病気で伝染性がある可能性もあるから、なるべく近づかないようにしたほうが、いいかな」


木本が言った。


「でもよう。風邪みたいにうつる病気なら、あんな近くで授業を受けたら、うつるんじゃねえの?」


「空気感染のことだな。それだったらすでに手遅れだよ。もううつっているはずだ」


「そんなあ」


「でもそれはないような気がするよ」


「どうして」


木本の問いに桜井が再び答えた。


「少なくとも僕の知っている限り、あんな異様な顔色になる病気なんて、存在しないよ。あの顔色は……」


「あの顔色は?」


「まるで死人だ」


上条と木本は、もう一度お互いの顔を見た。



次の週、犬田は来なかった。


犬田だけではない。吉木も仲良く欠席していた。

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