吸鬼

ツヨシ

第1話

上条が、偏差値はそこそこ、学生の数はけっこう多い北関東の大学に入って、二ヶ月ほどが過ぎた。


授業は基本時にはみな退屈だが、一つだけある意味楽しみな講義があった。


ある意味と言ったのは、教授や授業内容に期待しているわけではないからだ。


授業内容は一応マクロ経済学なのだが、一応と言う言葉にはそれなりの意味がある。


その講義は経済学オタクとしか言いようのない教授の独自の解釈だらけの内容で、教科書も市販のものではなく教授が自費出版したものを、学生に結構な値段で買い取らせている。


王道から言えば邪道そのもので、マクロ経済学自体社会に出て役に立つことはないのだが、この講義は役に立たないどころか、まともに覚えると逆に損をしてしまうというありさまだ。


「試験がすんだその日に、全て忘れてしまったほうがいいよ」


とは、去年授業を受けた先輩たちの共通した意見なのだそうだ。


そんな講義の何が楽しみなのかといえば、その授業に出てくる学生の数が少ないということだ。


大学に在籍する学生の数が多いため、人気のある講義を取ると、そこに集まる学生の数は、軽く百人を超えてしまう。


大教室でマイクを使った授業になり、後ろのほうに座ると教授の顔がよく見えないほどだ。


そんな中で週に一回の授業に顔を出したとしても、誰ともお知り合いお近づきにはなれない。


適当に座ると、周りにいる学生の面子がいつも違うからだ。


その点、内容に比例して不人気なマクロ経済学講義は、学生が八人しかいない。


そのうえお昼休み前の講義なので、早い段階から授業が終わるとみんなでいっしょに食事、というパターンが定着していた。


大学のお昼休み時間はけっこう長い。


そこで充分交流の時間を持つことが出来る。


その結果、たまたま学生が一人も住んでいない安アパートに入居した上条にとっては、ここが大学生活で唯一、学生と会話が出来る場所となっていた。


もちろん一番親しい学生も、そして二番目に親しい学生もマクロ経済学仲間だ。

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