第92話巡礼者①

「少しの間時間ができたな」


「なら、嫁のボクといちゃいやしようよ」


「しないよ」


嫁じゃないし。


「なんだか、外が騒がしい気が」


「そうだな」


嫁のつぶやきに、相づちを打つ。


誰かが騒いでるような声が聞こえる。


「様子を見に行くか?」


サーシャが聞く。


「でも、問題に巻き込まれるかもしれないからなあ」


出撃前に、厄介ごとは避けたい。


「こんなに頼んでいるのに、入れてもらえないのでしょうか?」


「だから、この土地はAFによって管理されています。わが一族は、AFから管理権をお預かりしているだけです。文句は、AF本部へ言ってもらえないでしょうか?」


「この声は……」


俺の妹?


「瀬川」


「分かっている」


サーシャと目配せし、声が聞こえた方向に走り出す。


「待ってよ。桜子ちゃんは、ボクの妹でもあるんだからさ」


オリヴィアもついてくる。


「どうしたんだ?」


俺の妹である黒髪の魔女は、見知らぬ大人たちに取り囲まれていた。


「おい、お前は誰だ?」


その中の1人が、俺に詰め寄る。


「その方は、わたくしのお兄様です。わたくしと入籍し、一族を継ぐ予定ですわ」


「何を言うんだ?」


いい加減、その妄想はやめてもらいたいのだが。


「次期代表様とは知らずに、とんだ御無礼を。許してもらえますでしょうか?」


「それはいいですけど……」


鹿島一族になる気はないんだが。


「では、次期代表にお願いします。私たちを、聖地の中にお連れえしてもらえませんでしょうか?」


「お兄様、この方たちが巡礼者の方たちです」


「巡礼者?」


最近、聞いた気が。


「私たちは、あなたたちが”異世界化空間”と呼ぶ聖地に入り、そこにいるカミにまみえたいのです」


「そういう方たちね」


確かに聞いていた。


「俺はまだ鹿島一族ではないので、残念ながら何もできません」


というか、ずっとなる気はない。


「困りましたねえ」


巡礼者はわざとらしいポーズをする。


「気になっていたのですが、そこの外国人の女性2人はなんなのでしょう?」


「「え?」」


2人がハモる。


何か言うと、話を大きくしそうだな。


「カミを鎮めるために来ていただいた、外国の魔女ですわ」


「なるほど。では、聖地の中に、異国の魔女を引き入れるということですね」


男はうなずく。


「皆の者、聞いたな? 巫女様は邪教の魔女で、聖地を穢す気のようだ。ゆえに、我々は、それを実力で排除する」


そう言うと、彼らは乗って来たと思われる車の中から、武器を取り出した。


お前ら、どうしてそんなものを持ってきてるんだよ?


「悪しき魔女を、この地から追い出せ」

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