第12話 理不尽な矯正所
ーとある施設
空間に浮かび上がるホログラムを見つめている二人の男女がいた。そのホログラムに映し出されているのは、聖斗とアヤナの様子。聖斗は樹海を歩いている所で、アヤナは船に乗っている姿がある。
「二人ともこっちにきた。準備は整いつつある」
「ええ。これで動き始める。さて、どうなるかしらね?」
子供の容姿をした男女二人は不適な笑みを浮かべた。この世界で何かが動こうとしているのかもしれない。
「全ては僕達の世界為に!・・・・」
男の子の方が一人それを言う。それを見た女の子の反応は・・・。
「ええ。全てはそれだけに!」
―富士ノ樹海
あれから、しばらく樹海の中を歩いている聖斗達一行は風穴を見つけた。風穴の入り口には蛇の銅像が見える。そこには不気味さもあり、近寄りがたい。
「あそこが入口なのか?」
「不気味ね」
と、聖斗がこの風穴を見て、呟きそれに続いて、エリが反応した。この風穴は矯正所の入り口なのだろうか?この先も地獄が待っているかもしれない。四人が共通して思ったことだった。
「みんな、行くよ!私が先に入るわ 」
そう言うと、レナは先頭を切って入って行く。
「さすがだ」
ジンが続けて入っていく。その後を聖斗とエリは着いていく。その風穴は下っていく感じで下がる度に空気が徐々に冷えてくる。それに所々、足場が悪くなっている。
「寒いし、歩きづらいよ。それに暗くてよく見えない」
「その内、慣れてくるはずよ。亜人なら暗い環境でも適応できる能力があるの。私はすでに見えてる」
亜人には洞窟ような暗い環境でも、適応できる能力がある。常人なら暗いままである。わずかな光があるのなら別で、今聖斗達の環境はわずかな光も届かない場所にいた。
「レナの言う通り段々、見えてきたな。暗視ゴーグルを着けているみたいだ」
「俺は見えているが」
ジンはレナと同じく既に見えている。聖斗も目が慣れてきた。
「みんな早いね!少しずつだけど見えてきた」
「みんな止まって。何かいるわ!」
「!?」
レナの突然の声に、聖斗とエリは驚く。ジンは気づいていたようだ。
「俺が言おうとしたが。レナも気づいていたか!」
「何かいる」
聖斗も警戒体制に入った。一同は前方を見つめた。そして・・・。
「来る!」
レナがそう言った瞬間、何かが飛んで来た。そして、キーキーと高音で鳴き声を出してきた。
「コウモリ?」
聖斗が飛んでくるものを見て、コウモリと断定するがしかし・・・。
「あれは、吸血コウモリ。不味いわ!」
「こんな狭いところで厄介だ」
コウモリはただのコウモリでは無い。人を襲って血を吸う吸血コウモリで、狂暴性がある。吸われれば死ぬ可能性も高い。
「逃げよう!」
レナがみんなに言う。一同はうなづく。風穴のような狭いところで闘うのは厳しい。しかも、向こうは空を飛べてこちらは飛べない。となれば逃げるしかないと思った。そして、そうと決まれば全力で逃げる。が、ここは風穴つまり洞窟で地面は凸凹してる。全力では逃げられない。だが、彼らは亜人である。常人と比べて、身体能力は高い。聖斗は最初走るのにおぼつかなかったが、走っているうちに慣れてきた。亜人の走るスピードーは最低でも自転車の最低スピードよりも速い。
「差が広がらない。追いつかれる!」
エリが最後尾にいるので、吸血コウモリの様子を見ている。
「ちっ!」
ジンがサバイバルナイフを取り出し、圧気を纏わせ吸血コウモリに向けて投げ飛ばす。しかし、避けられてしまう。そして咄嗟に続けてレナが後ろから圧気を纏わせ投げ飛ばした。それは見事当たり、吸血コウモリは地面に落ちた。
「はぁはぁはぁ。少し疲れたわ。休みましょ!」
「そうだな!」
レナは息が上がっていた。周りも少し疲れていた。亜人と言えども全力で走り続けていればそうなることもある。特に、聖斗達のクラスでは。
「俺たちこのままどうなるんだろうな!」
ふと、聖斗がつぶやく。弱気な感じで言っているわけではない。
「さぁね!でも、オロチだからろくでもないわ。きっと」
それから再び、歩を進める。しばらく、行くと光が見えて来た。出口のようである。外の様子が出口に近づくにつれ、徐々にはっきりと見えてきた。学校のような建物が見えてくる。風穴を抜けると広い空間が広がっていた。しかし、空は無く、光の正体はただの照明だった。
「外じゃないのか?」
「人が集まっているみたいだけど」
聖斗とエリが言った。校舎のような建物の前に人が30人ほどいた。
「生き残りか!」
「そのようね。思ったよりいるわね」
ジンが言ったとおり、彼らはこの試験の生き残りでレナは生き残りの人数はもう少し少ないと思っていた。
「行きましょ。私達が最後ようね!」
レナ達が人だかりに近すこうとすると、周りは睨みつけてくる。
「こいつら・・・」
聖斗達のいる一帯は殺気に包まれている。すると、校舎のような建物から二人が出て来る。男と女である。男のほうが集団に近づくと・・・。
「虫けら共、教官に殺気を向けるつもりか?」
すると、辺り一帯の殺気はその一言で掻き消えた。それどころか悪寒を覚えた。恐怖が尋常ではない。エリはそれによく耐えていた。
「大丈夫か?」
「うん!」
聖斗がエリを心配する。
「ふふ、改めて試験合格よ。おめでとう!」
露出度の高い甲冑を着ている女がそう告げた。
「お前達、虫けら共は百人の中から生き残った。それ以外のクソ共は、死んだし死んでもらった。もちろん、脱柵したからだ。お前らもこれから逃げようとすれば、即死。そして、俺たちの命令通りにやれないような虫けらもそうだ」
教官と思われる男が続けて、説明を始めた。その言葉の一言一言に生き残った者達は恐怖を覚えていた。表情が固まっている。もちろん、聖斗達も。
(この二人はやばいな。みんな固まってる)
聖斗は横目で三人の仲間の様子を見た。仲間たちは横並びで並んでいたので確認することが出来た。
(ふふ、あの子キレるかと思ったけど。どうやら少しは変わったようね!)
男の教官の後ろに控えていた。女教官は聖斗と目が合わない程度に様子を観察していた。聖斗についてはあの四座蔵ジュンから事前に話を聞いていたようだ。
「虫けら共には、これから三ヶ月間、ここでオロチの傭兵として使いものになるよう、矯正する。お前らのことは番号で呼ぶ、後で確認しとけ。お互いことも番号で呼べ。いいな」
みなつばを飲み込む。この空間は恐怖を支配していた。
「では、我らの主神に忠誠の誓ってもらう。ついてこい」
ついていくと、大きな蛇の銅像が見えてくる。特徴としては尻尾が八つあった。
(この蛇に八つ尻尾あったか?しかも、蛇が主神かよ。やな予感が・・・)
聖斗はやな予感しかしなかった。
「そこの虫けら、オロチ様に”この生命、オロチ様の為に捧げ、いついかなる時でもどんな命令にも背きません。また、死んでもなこの肉体はオロチ様のものであることをお誓します”と」
それは頭を地面に着けて行われる。それを順番ずつに。
「おい!誓いがたりねぇなぁー」
そう言いながら、女性が頭を足でグリグリ押さえつけられている。終わった彼女の姿を見ると、オデコの所が出血しており、そこの部分が黒ずんでいた。彼女の目には涙を浮かべている。
聖斗が歯ぎしりをしていて、圧気が不安定になっていた。
(女性にあそこまで。理不尽がぁー)
ジンが横目で聖斗を見つめる。聖斗はそれに気づき、ハァッとした。ジンの言いたいことを理解した。
(危ない。バレて殺されるところだった!)
「次ぃー!ん?」
男の子の一人が呼ばれたが前に行かない。
「何している。さっさとしろ。虫けらがぁー」
男の教官が声を荒げる。さらにあたりの空気は恐怖が増してしまった。その子は唾を飲み込み恐怖しかない中、勇気を振り絞り・・・。
「誓えません!帰らせてください!」
すると、生き残った者達は驚愕の表情をした。
「そうか。わかった。残念だ!彼の仲間は?」
そう言われ、勇気を振り絞った男の子の仲間が出て来る。男と女の子が。
「三人共、ごくろうさん!」
その瞬間、三人の首が飛んだ。地面に落ちる続けて、体が倒れ込む。教官は片手で日本刀を持っていて、刃先から血が垂れていた。
「帰れるわけねぇーだろ。虫けらぁー!」
真顔で三人の体を蹴飛ばす。
「次ィー。同じこと繰り返させるな!」
次々と誓いの弁を述べていった。皆、顔を青ざめている。女子達は「キャー」すら叫べない。もちろん叫べば首が飛ぶかもしれない恐怖がある。聖斗達もあらゆる感情を抑えながら誓いを述べた。そして、もう一つ心の誓いを四人それぞれ立てる。
「生き残ってやる。こんなところで死んでたまるか!」
「足手まといにならないように強くなんなくちゃ!」
「しばらくは我慢しかないか。みんなは殺させない!」
「恐怖と理不尽しか無いわね。ここには。でも諦めない!」
聖斗、エリ、ジン、レナの順に決意を心に秘めた。聖斗達は希望の光をまだ閉ざしていない。他は目が暗くなり始めている者もいた。
「ここに希望はあると思うな。俺はお前らに恐怖と絶望しか与えない!」
男の教官が絶望宣言をした。その場はさらに恐怖が増すばかりである。
「ふふ」
女の教官は男の教官を横目で見て、それから聖斗達に目線を移す。
「いつまで希望を持てているか。楽しみね!最初は誰かしらそういう子がいたもの。でもね・・・環境が変われば、どんな人間も変わってしまうものなのよ」
女の教官は笑みを浮かべる。聖斗達がいつ希望を捨て、オロチの忠実な兵になる時が来ることに対して。
一方、場面は船に乗っているアヤナに移る。とある島に向かっていた。その島はアマテラスの入隊するための第一歩となる試験会場である。その島が徐々に見えてくる。第一印象は森林が多い。
「美しそうな島ね。それにしてもやっぱり女子しかいないわね!」
アヤナは島をひと目で見て、そして女子しかいない船内に目を向けてそう呟いた。
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