お題『霧』/八十八夜

『とにかく霧がすごいんだよ、でもバーッと晴れるの!』

毎年この時期私をここに運ぶのは、同僚の君のそんな誘い文句から。バーカ、これは朝靄だ。遠くに滲む信号機。

茶畑の、断崖絶壁みたいな畝に入って初葉を摘む。最初の年は命綱!と叫んだけれど、入ってみれば茶の樹に挟まれて落ちようがない。靄が流れる。光を背に受ける。

「駿河湾だ」

別の畝に入っていた彼も声を上げた。『バーッと晴れる』瞬間は何度迎えてもサイコー。今朝のバイトは終了、私は会社に向かう。

「仕上げて、週末はアイツに報告だな」

提案に頷いた。私が摘んだ葉を、茶農家の彼がお茶にする。君の好きな練り切りを買おう。今年は7回忌。君の作戦通り、私は彼と籍を入れる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る