第36話 女子力

「彩、話せるのか?」

「ええ、まあ、帰国子女なので」

「ええっ!」

 里紗ちゃんが驚いている。

「あ、あの、僕も…」

「ええ、もちろん。何が不得手なの?」

「リスニングが…」

「まあ、それは問題ね。でも、私、オースリトリア訛りだから、参考にならないかも」

 甥っ子の武司くんも会話に入ってきた。二人ともなんだか、妹、弟みたい。


「それであなたたち、いつ帰るの?」

 たしか2日に帰ると言ってあったような。

「2日に帰るよ。ああ、それと2日の日は彩の母さんが挨拶に来るそうだから、名古屋駅まで迎えに行って来る」

「ええっ、そうなの、初めて聞いたわ。それで彩さんのお母さんは、その日のうちに帰るの?」

「そうなるかな。とりあえず挨拶だけということで」

「明日は、買い物に行かなくちゃ」


「あなたたちは、同じ部屋でいいでしょう」

「ああ、いいよ」

 智さんは当然のように言うけど、いいのかなあ。

 私と智さんは客間に二つ敷かれた布団に入る。

「智さん、今日は良かったです。怖いお姑さんとかだったら、どうしようかと思った」

「そんなことはないぞ」

「でも、ミァー、ミァー言うのかも思ったけど、全然そんなことはなかったです」

「それもないな」

 そんな話をしていたけど、私は直ぐに寝てしまった。


 翌朝、私も一緒にキッチンに立つ。

 ここで、いつまでも寝ていたら、ダメな嫁と思われてしまう。

 ここで智さんに、恥をかかせる訳にはいかない。


「彩さん、上手ね」

「小さい頃からお手伝いをしていたので…、でもこの味噌黒いですが、腐っているんでしょうか?」

「ウフフ、それは赤味噌よ」

「赤味噌?」

「そう、こちらでは良く赤味噌を使うの」

「へー、そうなんですか」


 私とお義母さんが作ったので、なんだか豪華になっている。

「今日はなんだか豪華だな」

 お義父さんの言葉に智さんも頷いている。

 お義母さんが作った赤味噌の味噌汁を啜ってみる。

「あっ、辛い」

「ホホホ、赤味噌は辛いのよ。東京の人には、だめだったかねー」

「あっ、いえ、でも大丈夫です」

 私以外は、全員が当然といった顔で、お味噌汁を飲んでいるわ。

「これで、味噌煮込みうどんだと、美味しいんだけどね」

「味噌煮込みうどんも食べてみたいです」

「じゃあ、お昼はうどんだね」


 10時頃になると、妹の恵子さん、姪の里紗ちゃん、それと甥の武司くんが訪ねてきた。

 年末なのに、お義弟さんは用事があるらしく、来れないみたいで、恵子さんの運転する軽自動車で来ている。


 里紗ちゃんと武司くんは早速、英語の教材を出して、聞いてきた。

 その横で、智さんも聞いているけど、私が英語を話すのを聞いて驚いている。

「彩の英語はさすがだな」

「向こうでは、普通の小学校に通っていたので、日本語なんて話さなかったから、これくらいは。でも、そこから上達していないので、未だに小学生レベルですよ」

 なんだか、里紗ちゃんと武司くんからは、立派に見られたような気がする。


 お昼の時間になったので、私もキッチンに行く。

「私も手伝う」

 里紗ちゃんも、お手伝いしてくれるみたい。

「姉ちゃんが料理なんて、天地がひっくり返らなきゃいいけど」

「武司、私に何か言いたい事があるの?」

「いや、ない」

 武司くんて、お姉さんに憎まれ口を利いているけど、こういう事が言えるのは仲の良い証拠なんだよね。

「あら、里紗が料理なんて、雨が降らなきゃいいけど」

 今度は、里紗ちゃんのお母さんが言うけど、あながち武司くんが言った事は、間違いではないのかもしれない。


「コンロが無いから、順番に作っていきますからね。男の人は先に食べて」

 お義母さんに聞くと、味噌煮込みうどんはコンロで直接、鍋を暖めるため、一般家庭では一度に作れる数が限られるらしい。

 なので、男性陣の味噌煮込みうどんを先に出している。


「フーフー、熱いけど美味しいです。味噌汁だと赤味噌はしょっぱかったけど、味噌煮込みうどんだと丁度いいです」

 味噌煮込みうどんって、お汁が味噌だと思っていたけど、違うのね。

「彩姉さん、料理が上手。野菜なんてパッパッと切っちゃう。女子力の違いを痛感するもん」

「姉ちゃんは、女子力ゼロだもんな」

「武司!」

「ハハハ」

「フフフ」

「ホホホ」

 武司くんはムードメーカーかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る