第3話 走り抜ければ─1

 しくった……



 お昼を少し過ぎた頃、私は残りのバターロールを昼飯に食べようとした。しかし朝に全て食べてしまっていたことをうっかり忘れており、私は仕方なく昼飯を買いにスーパーへ向かうことにした。



 本当にしくった。こんなことならもう少し早めに買い出しに行くべきだった。今日は日曜日で大通りには人もたくさんいる。そんな中をジャージで練り歩くなんて芸当は、今の私には拷問に等しい。

 全く世間というのは、なんでこうもニートやフリーターに厳しいのか。



 という訳で、今大通りを渡ることはしたくない。しかし私の家から一番近いスーパーは大通りを渡らなくてはならない。どう考えても八方塞がり、せっかく勇気を出して外に出たは良いものの、思わぬところで道を阻まれてしまった。



「仕方ないか……」

 私は独り言を呟いて、目的地を近くのコンビニに定めた。コンビニはスーパーに比べて値段も高いし、買える食べ物の種類も選択肢が少ない上に、なによりレジで店員に商品を渡さなけれはならないが──この状況では頼るしかあるまい。


 ずっとセルフレジばっかり使ってきたから、久々に店員と関わることになるな。なんて事を考えながら私はコンビニへ重い足取りで向かった。








「ありあとーっしたー」

 店員の気だるげな声を背に受けて、私は店の外へ出た。


 思わず溜め息が出る。久々に人と話したが、やはり会話はなるべく避けておきたい。学生時代はよく会話する友人くらいいたけど、今はレジで「弁当温めます?」って言われても答えることが出来ない。首を振ってジェスチャーを送るのが精一杯だ。一体いつから私はこんなコミュ障末期状態になったんだ?


 心の中で「すみません……大学落ちたクセに予備校にも通わず、毎日飯食って寝て自暴自棄になってる屑ですみません……」なんて考えながら、私は足早に帰路へ向かった。


 ちなみに私が買ったものは、生姜焼き弁当とお茶のペットボトル。あと今日の晩と明日の朝に食べるバターロール。少し痛い出費だが、金なんかどうせ死んだら使えなくなるんだ。使える時に使うのがいい。



 なんて事を考えたら──ふと心細さみたいな気持ちが湧いてきた。


 私は死ぬ──これはどうしたって変えられない事実だ。でもその時、私の死を悲しんでくれる人はいるだろうか?

 少し考えて……いないと思った。

 友達とは、最早連絡すら取らなくなった。家族は言うまでも無いだろう。私が死んだら「やっとお荷物が無くなった」と言って安堵するんじゃないだろうか?



 考えれば考える程、ムカついて、悲しくて、悔しくて──私は思わずその場から駆け出した。


 運動なんて、高校の体育以来したことが無かったから、あっという間に息が切れる。それでも走った。 走って走って、とにかく何かから逃げ出したかった。



 何かが本当に追ってきてる訳じゃない。けど今は──ただただ、逃げていると私は感じた。

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