第22話 ある冬の一日

 楽しかった運動会が終わって秋を通り越し、季節は冬へと移り変わる。

 外を冷たい風が通り抜ける中、私たちは炬燵こたつという名の冬のオアシスで休日を過ごすことになりました。


「へーわだねぇ」

「そうやな〜」


 炬燵のテーブルに顎を乗せ、グダーっとしている花ちゃんに湖月ちゃん。


「メグちゃん、愛ちゃん。飲み物追加しようか?」

「あ、ありがとう」

「ありがと!」


 バラエティ番組が流れている昼間のテレビを見ながら私とメグちゃん、愛ちゃんもゆったりとした時間を過ごしています。

 私はメグちゃんと花ちゃんに挟まれるように座り、愛ちゃんと湖月ちゃんは反対側に並んで座りました。

 皆のお母さんたちも一緒に来ているのですが、今は仲良くキッチンでお菓子作りをしています。


「お姉ちゃんには私が入れるね!」

「あっ、はなもいれるー!」

「じゃあ二人で入れよう!」

「そうしよー!」

「ふふ、ありがとうね二人共」


 保温ポットに入れられた暖かいお茶。

 天使たちがマイカップに入れてくれたお茶を啜ると、より美味しく感じます。

 うん、きっと天使成分が入ってるんだなぁ。

 あぁ、平和だなぁ。


「そういえば千佳ちゃん。昨日の宿題教えてくれない?」

「いいよー愛ちゃん。何処が分からないのかな?」


 そんな中、愛ちゃんは持って来ていた鞄から筆記用具と算数のドリルを取り出してテーブルに広げました。

 天使たちも一緒に覗き込みますが、まだ入学していないので難しいかな?


「ほら、湖月ちゃんもやってないんでしょ?」

「な、ななな、なんで分かったんっ!?」

「これまでの行い、かな?」

「そんな〜、見捨てんといて〜」

「誰も見捨てるなんて言ってないでしょ。ほら、湖月ちゃんもドリル出して」

「すぐ出すわ! ありがとうな!」


 というわけで炬燵で寝そうになっていた湖月ちゃんにも算数のドリルを持ってきてもらい、私は身を乗り出すようにして教えていく。

 炬燵から身体が出て寒いけど、両側の天使たちが私に抱き付いてきてくれたので暖かくなりました。

 そんな天使二人は分からないお勉強に飽きたのか、お姉ちゃんねぇねーお姉ちゃんねぇねーとリズミカルに歌っていますが、可愛いから良しとしよう。


 ……この子たちはいつか姉離れできるのかな?

 いや、してほしくはないんだけど、してほしくはないんだけど……離れ無さ過ぎていつかヤンデレとかになりそうで怖い。

 とりあえず二人の頭を撫でたりしながら、宿題を進める二人に教えていく。


「あ、ここ間違ってるよ」

「へ? ほんまに?」

「うん、計算を間違えちゃったね。ここは九じゃなくて八だよ」

「そうやったんか〜」


 湖月ちゃんはちょっとおバカな所があるけれど、少し教えれば分かる優秀な子だ。

 愛ちゃんは基礎的な部分をよく理解できているけど、中々応用ができないので私が教えてあげないと。


「千佳ちゃん、ここは合ってる?」

「えっと、うん。大丈夫だよ。このページは問題なさそうだね」

「よかった。……そ、それで、その」

「ん?」

「……い、いつものあれ、やってくれない?」

「あぁ、いいよ。はい、愛ちゃんよくできましたー!」


 愛ちゃんの言ういつもの、とはズバリ! 唯の頭ナデナデのことである。

 きっと近い未来『魔性のナデナデ』と名を轟かすであろう私の必殺技です。

 天使たちや愛ちゃん、湖月ちゃんだけで無くクラスの女の子たちにも人気で、お昼休みには私の前に列を成すこともあるくらい。

 ナデナデ屋を開いてもやっていけそうなレベルだ。


 ……そういえばこのナデナデは動物にも効くのかな?

 今度ペットショップに連れて行ってもらおうっと。


「う〜! うちもナデナデしてほしい!」

「はいはい、そのページ全部解けたらね」

「頑張る!」

「分からなかったら聞いてね?」

「うん!」


 この二人はメグちゃんと花ちゃんを紹介してから、少しお姉さん振るようになりました。

 子供っぽい口調をしないようにしているみたいだけど、こうして偶に出てくる子供口調がとても可愛らしい。

 私が二人を甘やかすからかは分からないけど、まだまだ子供らしい一面を見せてくれます。


 ……そういえば私はお母さんやお父さんに子供らしい一面を全然見せられてないかも。

 それでも不気味に思うことなく、時には暑苦しいほどに愛してくれている両親が私は大好きです。

 なんだか前世の記憶があることを伝えたとしても、きっと笑って信じてくれる気がします。


 いつの間にか合唱を終えて眠っている両側の天使たちを優しく撫で、私はまた一つの決心をしました。

 簡単に子供らしくなんて出来ないと思うけど、子供らしく思うがままに行動して両親を安心させてあげよう。

 それが私を産んで育ててくれている二人への恩返しになるのなら!

 誓いを胸に、私は目を瞑りました。


「――出来たで千佳ちゃん! 私にもご褒美を! ……あれ? 千佳ちゃん? ちょ、なんで寝てるんっ!?」

「湖月ちゃん、起こしちゃ駄目だよ」

「うー! それはそうやけど、そうやねんけど! ううー!! 私のナデナデぇ……」


 その後お母さんたちが出来立てのお菓子を持ってリビングへやってくると、そこには皆で一塊になって仲良く眠っている五人の姿がありました。

 その様子を見るだけで、お母さんたちはとっても幸せな気持ちになるのでした。

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