第12話
「おおっ……! そなたは、里見殿!」
「そうですわ。お爺様。里見君太様ですよ。里見様のおかげで、私はかすり傷一つ、負わなかったのですわ」
「おおっ……! あんな小さな赤ん坊が、こんな大きくなったとは……。時が経つのは早いのう……」
老人に感動的な眼差しを向けられて、君太は困惑した。
というか、僕が赤ん坊だった時のことを知っている?
「あの……」
「こっちでは、うまくやっておるかね?」
「ええ。まあ、少しは……」
「少し、そう……。それなら、よかった」
老人はとっさに目を伏せると、佳恋を促した。
「さあ、おれん。帰るぞ。ここは、いささか、人目が付きすぎるようじゃ」
「お爺様のせいですわ」
佳恋がふくれっ面で、老人の後に従った。
「それじゃあ。里見様。ごきげんよう。またいつか、お会いできたらいいですわね」
佳恋が振り返って手を振ってくれたので君太も答える。
「ええ。ごきげんよう」
その後ろに続くぴゅん太は、あかんべーをしただけだった。
いささか腑に落ちなかった。
僕の勘違いでなければ、老人が僕と目を合わせた時、感動していながらも、心の奥底では、怯えていた。
首をひねっていると、いつの間にか、老人と佳恋の姿が見えなくなっていた。
ふと、質問したいことがまだ、たくさんあったことを思い返し、二人の姿を探した。
せめて、どこに住んでいるのかくらいは知りたい。不忍の里ってどこにあるんだ?
君太は、慌てて、二人の消えた先を追いかけたが、とうとう見つけることができなかった。
人ごみに紛れたというよりは、今起きた出来事が、すべて幻であったかのような消え方だった。
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