⒎ 目茶(6) 回収

 下水道のとある一角にて――


 バンジーコードで両手首を後ろで縛られた未予を先頭に、繋がれた二挺にちょうの薄鎌のつかを持つ形で後ろについて行くリンジーの姿があった。


 そのため道案内の方はリンジーが未予のEPOCHエポックから表示される空中投影された立体地図を見ながら、彼女の進行方向を指示しじしながら進んでいく形で行われていた。


「よし、次はここを右だ」


 指示通りに前進していく未予。


 そんな時間が数分過ぎると、ついに彼女達は例の排出口へとたどり着いた。


 (奴がそうよ)


 と言わんばかりに目配せをする未予。


 目の前で拘束された石化能力者と思しき人物を起こさないよう、声を出さずに伝えようとしていることに気が付いたリンジーはこくりとうなずき、ここで未予の拘束をいた。


 リンジーは空いた手を使ってポケットからガーゼのハンカチを取り出すと、それを石化能力者の目元にゆっくりとおおいい被せた。


 普段は主人のブシュラがお食事の際、口元に付いた汚れを拭き取るために使っているものだが、今回はそれを目の前の奴と目を合わせないよう、目隠しのために使うのだった。


 準備は完了。


 リンジーは石化能力者のほほをベシベシッと強く叩いて、強制的に目覚めさせた。


「…Why?」


 石化能力者が声を発したと同時にうっすらとその目がひらこうとしている動きがハンカチ越しに見て分かった瞬間、リンジーは両手を素早く伸ばし、上瞼と下瞼の境目さかいめに出来た僅かな隙間に向かって、白く細長い指をハンカチの上から突っ込んだ。


 それは一瞬のことだった。


 とてもハンカチ越しでやったとは思えないほど繊細せんさいな指さばきで、同時に両目をつっかえることなく取り出してみせたリンジー。


 同時に二つの命を失ったことで悲鳴を上げる間をもらえず、ただ静かに息を引き取ってった石化能力者。


 全てが終わったリンジーはその両目をハンカチに包んで元のポケットに戻すと、もう一方のポケットから透明な液体が入った小瓶を取り出し、それを未予に手渡した。


「これは約束の品です。再び会う機会がありましたら、その時は赤いフードの女の情報が聞けることを楽しみにしております」


 リンジーはその一言でこの場を去っていった。


 未予はリンジーの背を見送った後、手渡された小瓶こびんのフタを開け、中の涙を一滴左側腹部にらして石化を解くと、身体が軽くなった彼女は目の前の死体をあさり始めた。


 そして、未予はあるものを入手した。


 魔夜の奪われた片目であった。


「まさかあのメイドも神眼はもう一つあっただなんて、思いもしなかったでしょうね」


 こうして未予もここでの目的を果たすと、全身石化状態の魔夜の元へと戻るのであった。


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◼︎能力解説◻︎


目力:【視石ゴルゴン・アイ


線が合った者の肉体をにする異能


同じでも、歯の表面に付着する石のように硬い歯垢プラークの塊:《歯石しせき》のことでは無い。どちらも『石の如く、硬くなる』という事物に変わりない換喩メトニミーだが、その性質は大きく違う。【視石しせき】とはそういうものである。


                          監修:M.K.

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