20話ちょびっとモブ子C

「私はーー」


そうモブCが口を開きました。


「アレン様に口説かれたなんて、畏れ多いことは言いにきたんじゃないんです」

「はあ? だったら何しに来たのよ」

「そうですわ。ここに座る者はそういう方なのだと心得ておりましたが」


予想外過ぎるモブ子Cの言葉に、モブ子A Bは呆れているようです。そんな反応にモブ子Cは慌てて反論します。


「わ、私一言もそんなこと言ってません。ここに来たらいつの間にか座らせられたんですもん」

「でもあんただって『アレンさん!』って言って入ってきたじゃない」

「それはそうですけど。私が話をする前に座らせたじゃないですか!」

「うっ」

「そうでしたわね……」


これには分が悪いと決まり悪そうな顔をする二人。大人しくしていたモブ子Cの反応に驚いた面もあるのでしょう。

かく言う私もそれは同様で、小さなモブ子Cは大人しくもしっかりと言うべきことはは言えるようでした。これは私が聞き出す必要もなさそうです。


「そ、その責めているわけではないんです。すいません」


まあ、弱気であることは思い違いではなかったようですが。


「続きをお願いします」

「は、はい。

私、アレンさんにまた遊びに来て欲しいだけなんです」

「どういうことですか?」

「私が住んでいるのはこの街唯一の孤児院なんです。身寄りのない子供や、あっても劣悪な環境の子供が住んでいます」

「では、あなたもですの?」

「はい。私は両親が亡くなったらしいので、小さい頃から孤児院で育ちました」


らしい、ということは覚えていないという事ですか。


「それがどうしてアレンに遊びに来て欲しいってことになるのよ」

「またと言いましたわね。ということは、以前にも?」

「はい。アレンさんは、孤児院にお忍びで遊びに来てくれていたんです」


なんと、思わぬところで新情報が出てきました。それもかなり意外というか、優しい情報です。


「……」


アレンはというと、さすがに居心地が悪そうに目を別に向けていました。


「それだけじゃなくて、孤児院にいろいろな寄付までしてくれているんです」

「アレンさんがですか?」

「はい。お金も、服も、食べ物も、絵本も、色々とです」

「へぇ、アレンが……」


モブ子Aは意外そうに、ですが感心の声を漏らしました。私も同感です。巷じゃ問題児扱いですが、モブ子Cからしたまるで英雄扱い。噂とのーー表向きとのギャップがあります。……この男、ギャップ萌えをさらに使いこなしてくるとは。


アレンを褒められてどこか誇らしげなモブ子Cは、しかし少し顔を暗くしました。


「ですが、ここ最近は孤児院に来る頻度が減っているんです。だから、どうしてなのかを聞きたくて……」

「……俺もメトカーフ家をいずれ継ぐ。そのために最近ではセレントだけではなく、他の街にも視察をしている。単純に、忙しくなって行けんだけだ」

「そう、なんですか。よかったです。小さい子達も、みんな心配してたので」

「……近いうちに顔を出す。チビどもにはそう言っておけ」

「はい!」


ぶっきらぼうに言ったアレンに、モブ子Cが笑顔で応えました。ああ、これが大体中学生くらいの女の子の本当の笑顔ですか。今の私ではなくカナデとしての私に引けをとらないものです。


「しっかし、アレンが小さい子趣味じゃなくてよかったわ」

「そうですわね。だとしたらあなたをともかく、私ではとても趣味に合いませんもの」

「はあ!? どういう意味?」

「そのままの意味ですわ。足りてないのは胸だけではないようですわね」

「なんですって? 」


わあ、本当にどこからでも喧嘩を始められるんですねこの二人。しかもその原因は二人にではなく、その間にいるモブ子Cにあるという意味不明なもの。

これにはモブ子Cも堪ったものではないでしょう。その証拠にモブ子A Bの喧嘩に割り込もうとしていますし。


「ちょっ、私だってもう少しで成人です。小さい子趣味ってなんですか! まだ成長期です!」

「は、はあ!? あんた今いくつよ? 」

「15です。来月には成人です」

「ほ、本当ですの? 10歳くらいにしか見えませんのに」

「本当ですっ」


確かに、モブ子Cはそれくらいにも見えなくはありません。……年齢詐称とまではいきませんが、やや外れ気味ではありますね。


「だから何よ! あんたはアレンにとっては圏外なんじゃないの? それにあんたには関係ない筈じゃ」

「ア、アレンさんが誰かと付き合ったら孤児院の子が悲しむんです。アレンさんは憧れの的なんですよ、うちでは」

「その子たちの思いはまだ幼いが故な過ちですわ!」


ぎゃあぎゃあと喧嘩する3人。もともとうるさかったモブ子A BにCまで加わると、本当に仲のいい友達ーーいえ、三姉妹に見えます。

そのことに何か意味があるのでしょうか? いえ、あるのでしょう。それは私が一番よく知っています。


そんなシリアスな展開もいいですが、さしあたってとりあえずは、


「少し席を外させていただきますね」


トイレ休憩としましょう。

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