6話 思わぬ形で

 俺は元いた世界、地球で色んな人の家に訪れたことがある。それは当然ほとんどが招かれてで、俺から行きたいと言ったことはキャラ的に偶にあるくらいだ。

 ロリっ子だったし、男友達の家に行けばあらぬ疑いがその男子に向けられ(ロリコン疑惑の晴れない奴もいた……)、女友達の家に行けばおば様方に人形にされることが多々。それでもまあ特に緊張したことなどなく、自分の家のように振る舞った。それが俺の容姿に合っていたから。


 しかし今、私としてーーフィアナとして振る舞うとして他人の家に上がるというのは、なかなかハードルが上がります。

 確かに私は既にアレンと喫茶店で談話をしたりはしました。それは楽しかったです。地球にいた時も似たようなことが沢山ありましたから、自慢話を延々と聞かされる事には慣れています。


 ですが今日は、相手のホームグランドと言えるアレンの家ーーメトカーフ家屋敷。それは今までの訪問した家とは圧倒的に規模が違う、格の違う家でした。


「デケェ」


 おっと。思わず仮面が外れてしまった。まぁ、まだ時間には余裕があるし理想変化もしていないし大丈夫だろう。


 俺が今いるのはメトカーフ家屋敷、から少し離れた場所。この距離からでも屋敷が視認出来るのだから、どんだけデカいんだよって話しだ。


 さて、どうするか? どうしよう? 本当にどうしよう……。

 何に困っているのかと言えば、そう、どうやってアレンの理想に成ってから屋敷に向かうか、だ。

 俺ってばおっちょこちょいなために、というかいたずら心を持ってお茶目をしちゃったがために、理想変化を解いてしまったのだ。

 どれくらい焦っているかというと、そう、こうして未だ元の姿のままで、男口調になっちゃうくらいには焦ってるんだな。


「どうしますかね、リディアさん」

「どうしようかね、カナデちゃん」

「これ、詰んでませんか?」

「これ、詰んでるよね」


 あちゃー。もう会話にもならない。

 こんな時、物語の主人公ならぱぱっとアイディアが浮かぶか、極限の状況に能力が開花・進化するとは思うのだが、あいにく俺は主人公じゃない。普通に無数に他にも神の使徒はいるのだ。

 だから俺は今、あの使えない女神が言っていた「初期効果ですので進化したり増えたりします」なんて言葉がどうしようもなく、腹立つ。進化する気配ないし、増える気配もない。使えねー!


「リディアさん、今日は帰りましょう」

「え、いいの?」

「だってこのままここに居てもどうしようもないですし」

「まあ、それもそっか。うん。じゃあ帰ろっか」


 案外乗り気なリディアさん。乗り気というか、それを推奨するように俺の背中を押してくるし、スゲエ嬉しそう。どんだけ俺にアレンと会って欲しくなかったんだよ。作戦の成功失敗はいいのかよ。これ、普通に今後の協会にとって大事だよ。


 かく言う俺もまあサボっているわけだが、ただサボる訳じゃない。緊急事態に備えていくつもプランは練ってあるし、大丈夫だ。

 今回のことだって、「楽しみにしていたのですが、熱が出てしまって」って感じで、健気さをアピール出来ると同時に、熱が出たという要素を入れることで心配させることが出来る。

 困難だけど頑張ってます、はすごくいい風に見えるのだ。

 まあ、やってることは実際のところ、授業をサボる言い訳みたいなものなのだけど。ただうっかりさんを正当化しているだけなのだけど。

 てへっ。


「街で買い物でもしよっか」

「このまえ行ったばっかですよ?」

「私はこの2日間でストレスがオーバーチャージしてるの! カナデちゃんのせいだよ」

「はあ」

「だから買い物! デートしようっ!」

「……わかりました。じゃあ行きましょうか」

「うん」


 まあこれも、いつか来たるアレンとのデートに向けた、予行練習だと思えばいいのか。さすがに幾らかは把握してないとこの街に住んでるっていうリアルがないし、そういうことな、うん。仕事サボって遊ぶの楽しいなっ!




 ***



 広い街とはいえ、さすがに歩いていれば顔見知りに会う事はある。事実、ここ数時間で接客をした冒険者の何人にかは合ってるし。働き始めてから皆勤だった俺が突然3日も休んだから、心配の声をかけてもらったりもした。あとお小遣いも。本当にロリコンだなおっさんども。


 で、何が言いたいのかというと、会ってしまいました。遭遇した。


「む」

「あ」


 果物屋の前を通りかかった時、ふとりんごが目に付いた。さすがに約束をブッチして、建前として熱があったと言うにしても、何もお詫びがないのはマズイな、と。

 そんなわけでパイを作ろうと、美味しそうな果物はないかなと物見をしていた。地球じゃ見かけないような果物も沢山あったし、普通に地球でもありそうなものもあった。だからそこそこ調理が好きな俺は結構ウキウキしていた。

 そしたらだ。リディアさんに声をかけようと振り返った時、奴と目があった。お察しください。

 アレンだった。


「お前は……。協会にいた残念女か」

「いきなり失礼だなこの野郎」

「随分な口を利くな。それが本性か」

「ふん。どれも本性だっての」

「貴様は。フィアナとはまるで違うな」


 おっ?


「いや、比べるのもおこがましいというものか」

「おいおい。そのフィアナという輩はなんだ?」

「貴様とは比べ物にならないほどいい女だ。貴様と違い清楚で謙虚、それに容姿も完璧。あれほどの女を俺は見たことがないな」


 そりゃあそうだろう。だってお前の理想なんだし。無意識抱いてる類のやつだし。

 というか、思わぬ形でフィアナの評価が聞けたな。急がば回れ、は少し違うが、それでもサボっ……あえて行かなかったことが功を奏した。これはいいことだ。


「結構なことで」

「ああ……。ふん。俺はもう行く」


 アレンはどうやらこれ以上俺といたくないらしく踵を返した。が、俺は何故か、そうそれこそ無意識に言葉が出た。


「ああ、そう言えば1つ間違ってるぞ」

「残念なのは間違ってないだろう」

「違う違う。いや確かに男としては残念だが」

「まあな」

「あ、今の、男からして俺が残念なんじゃないぞ。俺、男だから。なら残念な身体だよなって意味な」

「はっ?」


 よっしゃああ! 思惑とは外れたが、アレンに一泡吹かせてやれた。

 ……あぁ、やってしまった。ついやってしまった。なんで男だなんてバラしてしまったんだ〜。これでもし協会で広まったりしたら……。

 ま、いっか。そしたらそん時になんとかすればいいし。


 心の中で転んで立ってをしてるうちにアレンも立て直したようで、そのアホ顔は元の、癪だがイケメンに戻っていた。


「紛らわしな貴様。この女男めが」

「ふっ、お前の目も大したことないな」

「貴様ッ」

「カナデちゃんっ!?」

「あっ」


 そういえばさっきから静かだなっと思っていたリディアさんだ。忘れてた。というかどこ行ってたんだら。


「大丈夫? この変態に何かされてない?」

「おい。誰が変態だ。そんなみみっちいのに欲情するか」

「まあ、こんな小さい子に欲情という言葉が出てくるのがもう怪しい。普通癒させるとか保護欲とかでしょうに」

「話しにならんな。俺は行く」


 アレンは腹を立て、それはもう態度に表れ、ズカズカと街を歩いて行った。

 暫くそれを見届けていた。リディアに抱かれて。


「リディアさん離してください」

「あっ、ごめん」

「まあいいですけど」

「それよりも何を話してたの?」

「別に大したことじゃないですけどね。まあ、あえていうなら、1つわかったことがあります」


 そう。


「アレン、結構フィアナが気に入ってます」

「どういうこと?」

「アレンが聞いてもないのに自分からフィアナの話しを出したんですよ。俺と比べてね。それにあの坊ちゃんが、用もないのにこんな場所を見て回りますか? ここ、高級区域じゃないんですよ?」


 アレンはわざわざここに来た。それは言うまでもなく、約束に来なかったフィアナを探してのことだろう。俺が見た時には少し汗が滲んでいたし、それに言った通りこんなところ普通は来ない。


「じゃあ作戦は順調なんだね」

「はい。概ねいい感じですね」


 この調子で、明日はとびきり美味いのを作って持って行ってやろう。


「けど、そういえばリディアさんはどこに行ってたんですか?」

「え? それは、ちょっとお花を摘みに」

「隣に花屋があるんですけどね」

「はぅ」


 異世界でもお花を摘みは通るみたいだけど、花屋の前で言うというのはどうなのだろうか?



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