第3話 お話ししよっ?



 冒険者協会と言えば、まあ異世界モノには多いと呼べる組織だろう。だからきっと、この世界の冒険者協会もさして認識は間違っていないはずだ。冒険者を管理し、依頼を回し、冒険者達の溜まり場となる。

 そんな俺のにわか知識も、ていうか妄想も、存外あっていたからよかった。


「ここが冒険者協会だよ」と、リディアさんに案内されやって来た、この街で見た中でも一際大きな建物。開けっぴろげになっている扉の奥からは強い酒の匂いがした。リディアさんは慣れているのか普通にしていたが、俺は少し顔を歪ませた。

 苦行の末中に入るとまあ臭い。リディアさんは俺に気遣ってくれたのか手を引き奥の方へと歩いた。冒険者もいないスペース、カウンター裏の職員室に入ると酒の匂いは不思議とせず、漸く息を吸えた。

 そして落ち着く暇もなくリディアさんと階段を登り、二階奥にある部屋へと通された。


 そして今に至る。


「おや? リディア君か」

「支部長。突然すいません」

「いやいいんだよ。それよりも、その子は?」

「はじめまして。カナデといいます」

「カナデちゃんか。よろしく。私はパーレン・キッシュ。冒険者協会セレント支部長を務めている者だよ」


 と、小太りの髭男は名乗った。キッシューーおっさんは、


「これはご丁寧どうも。わたしは記憶喪失者の身元不明者です」

「……リディア君?」

「事実です」

「頭が痛くなるな……」


 すんません。


「それで、リディア君はなんでここにカナデちゃんを連れて来たの?」

「ここなら、情報も集まりやすいですから」

「まあ、その通りなんだが。それで、どうするんだいこの子は? 何か手がかりが見つかるまでは?」

「私の家で預かりたいと思います」

「ならいい。厄介事が多いからね。これ以上ストレス太りをさせないでほしいんだ。知り合いの娘にも痩せろと言われてね……」

「支部長の事情はどうでもいいんです。とりあえず、カナデちゃんの情報集めのために張り紙をしてもいいですか?」

「いいよいいよ。勝手にやって」

「ありがとうございます」


 おっと。髪をすいている間に何やら決まったみたいだ。なら、ここからは俺も話に加わるとしよう。俺の生活の為に!


「あの、1ついいですか?」

「なにかね?」

「わたしをここで雇ってもらいたいんですが」

「あはは。何を言ってるんだいカナデちゃんは。せめて16歳、成人してからじゃなきゃ職員としては雇えない。冒険者として登録するのなら話は別だけど」


 ギリギリセーフ。バイトでもいいやって思ってだけど、成人が条件だったとは。


「あ、すいません。記憶喪失って言いましたがある程度は覚えてます。わたし、18です」

「……え?」

「カナデちゃん、え? 本当に? 本当に18なの?」

「ええ、はい。こんな身なりをしてますけど、ちゃんと成人してますよ」

「「ええぇぇぇぇぇ!!」」

「み、耳が痛い」


 た・の・し・い! ! いや本当にいいなこの瞬間は。この反応、最高だ。人は見た目によらない。俺の本当の年齢ないしは性別を知った相手の反応は、いつもこうして驚愕になる。


「それで、雇って貰えます?」

「あ、ああ。構わないが、本当に18? 魔道具でわかる嘘だけど」

「18ですよ」

「なら、雇おう。君みたく可愛い子なら、いい宣伝にもなるしね。じゃあこの紙に必要事項を記入して」

「はい」

「本当に働くの?」

「はい。養われっぱなしは悪いので」

「気にしなくていいのに」

「性ですから」


 まあ、(計算するのが)という部分を抜いてはいるが。

 おっさんに渡された紙に自分の名前などを記していく。身長は書くけど、体重は秘密。その他出身地などは分からず、と。

 ここまででお判り頂けているだろうが、俺、異世界語を完璧に理解している。文字も何故か異世界語でかけているし、しかしそれを日本語としても理解出来る。不思議だ。恩恵だ。

 して途中、リディアさんに声をかけられた。


「カナデちゃん。性別欄のところ男になってるよ」

「ああ、はい。わたし男なので」

「なにぃぃぃぃぃ!?」

「えっ!? カナデちゃん男? 男なの? そんなに可愛いのに?」

「はい。見ます?」

「何を! ?」

「そんな、ナニだなんて……」

「意味が違うしカナデちゃんが言ったんだよね! ?」

「いえいえ。わたしは胸があるかないかみますか? って訊いたんですけど」

「それは女の子が女の子って証明する時の台詞だね! ? 」


 あはは。愉快愉快。


 その後、本当に男なのか? 18歳なのか? その審議に、簡易的な嘘を見抜く魔道具なるが用いられたが、結果はもちろん18歳の男。ただちょっとロリ可愛いだけの。

 そんなかんやで、とりあえず俺の働き口が決まったのだった。



 ***



 その日の夜、まああれから本格的に勤務内容などの話し合いをしてからなのだが、俺は改めてお世話になるリディアさんの家にいた。

 昼間とは違い、正確には異性という事が判明した為に、リディアさんは俺との距離を図りかねていた。ロリではなく18歳の成人。美少女ではなく男。前提としていた条件がまるっきり反転したものだから、当たり前なのだろうが。しかしそれでも、


「あ、今、から夜飯作るから待っていてください」

「どうも」


 少し緊張し過ぎでは? 俺は見た目的には完璧にロリ美少女だよ? なんならその豊満なお胸に抱いてもいいのよ? 俺にはそんな立派なモノ付いてないから。

 などと言う低劣な思考は置いておいて。

 俺はこの世界について知らなくてはいけない。なのだが、どうも聞ける状態にないな。


「あっ」


 どうだろうかこの変貌ぶりは。あのお姉さん感が一気に駄目姉感に。

 いまだってほら、お茶を淹れてコップを触って、熱いのにだ。火傷しかけてる。


「大丈夫ですか?」

「だ、だいじょうびゅりゃよ」

「大丈夫そうじゃない……」


 まあ、こうして緊張してしまう相手というのは一定数以上いた、理由は違うが。しかし、まあ俺ほどの人間、もとい偽ロリになるとそういった緊張を解す事もできる。否、出来なくてはいけない。


 ロリとは本来か弱い存在である。それは誰もが恐怖を抱く事なく、庇護の対象だと認識することでもある。ならば、癒しを与えて然るべきではないか。

 俺は偽ロリだから、男としての事実は拭いきれない。だからこそよりロリに、可愛くならなくてはいけなかった。

 そんな俺の技をお見せしよう。


「リディアさん」

「な、なに?」


 台所にいるリディアさんの後ろに立つ。少し俯き、声はか細く。弱く魅せる事が大事だ。


「本当に、大丈夫?」


 こてんっと。首を傾げ潤した目は上目遣いで。


「え……と」

「無理しないで。心配になるから」

「うっ」

「ね?」

「う、うん。わかった」

「ありがとう! なら落ち着いて」


 ふっ、勝ったな。完全勝利ですねーこれは、はい。

 今回は、異世界でも俺の萌えスキルが通じるのか若干不安だったが、問題なかった。やはり、世界を越えても人が求める萌えに相違はない。萌え最強。


 リディアさんも落ち着きを取り戻したところで再び席に着く。さあ、聞かせてもらうぞ!


「お話ししよっ?」


 ズッキューン。と、目の前にいるリディアさんを見る限り、俺はハートブレイクをしてしまったみたいだった。



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