かわいい俺は世界最強〜俺tueeeeではなく俺moeeeeを目指します〜

ヒトリゴト

序章

第1話 どうも、カナデです!


 死んだ。大いに、盛大に、そりゃもうきっちりかっちりと死んだ。死ぬ間際のことはかなり鮮明に覚えている。あれだな、死に瀕して意識が加速した的な、体は置いていってしまった的な。それだけ意識がはっきりとしていながら、痛みは一瞬だった。これが死ぬということなのか、そんな感じに俺の知識にまた一つ積み重ねられた。


 思うのだ。というか思うということ自体おかしくはないか? 俺は、確かに死んだのだから。

 ならなんなのだろうか。


「どうもどうもカナデさん。この度の不幸、本当に残念です」

「……誰?」


 目の間に金髪碧眼のお姉さんが。


「あ、申し遅れました私。女神をさせてもらっているエルと申します」

「これはご丁寧にどうも。俺は色式いろしき花奏かなでだ」


 そう。初めまして。俺は色式花奏。綺麗な名前だ。本当に、創作物の女の子みたいな。


「知っていますよー。名は身を表すですもんね」

「まあな。俺、可愛いかんな」


 俺は、俗に言う男の娘と言うやつだ。絹の様に柔らかな黒髪は一つに結い、二重まぶたのぱっちりお目目には長い睫毛。男子の平均身長を下げるだろう身長139センチの小柄な体。四肢は細く、肌は陶器の様に白いが健康的に柔らかい。声変わりだってしてないから、俺を見た目で男と判断するのは不可能だと自覚する。股間に付く物が唯一の証明書だ。


「そんなお身体も今では○○だらけになって○○○何なんですけどね! 」

「嬉々として規制音が入りそうな表現をするな。こえーよ。てか何、俺本当に死んでんの? 普通に喋ってるけど。俺の記憶違いとかじゃなくて?」

「はい。私もしっかりと確認しましたから」

「ああそう。あんたのこと自称女神だと思ってるんだけど」

「そう言うと思って」


 ぱちんっ。と、自称女神さんは指を鳴らした。結構音が響くなぁと思っていると、俺とエルの横に突如としてとある光景が表れた。ふむ、なるほどなるほど。これは確かに。


「なかなかの死に具合だな俺」

「随分と軽い反応ですね……。まあいいです。これで私が女神だと?」

「ああ。いや、はい。失礼しました」

「ふふ。今まで通りの口調で十分ですよ? 」

「了解。で、俺はなんで女神さんなんかと? わざわざ平凡な一人の人間の死に立ち会うほど、あんたも暇じゃないだろう。そもそも世界中でむっちゃ死んでるのに、いちいち構ってらんねぇだろ」

「はい。普段は天使と悪魔に任せているので」

「ならなんで? 俺、別に何かした覚えはないんだが」


 本当に、なんも覚えがない。凡庸の一言に……。男の娘の時点で多少はアレだが、とにかく俺は特に何かした覚えはない。凡庸凡庸、超凡庸。……それ、凡庸じゃねえな。『超』ってついちゃってるし。


「実は、お願いしたいことがありまして」

「死人に?」

「死人にです」

「それで? 俺に何をさせたいんだ?」

「異世界に行ってもらいたいのです」

「……異世界か。ふむ。それはまあなんともめんどくさそうな」

「え、えぇ〜。異世界、異世界ですよカナデさん! ファンタジーがリアルな異世界ですよ! ?」

「空想か現実かはっきりしろよ」

「細かいことは置いておいて」


 置いて置いちゃうのね。結構な勢いで詰め寄られたからかなり重要案件だと思ったのだけれどね。


「大雑把に理由を説明しますとね。まああれです。神の遊戯、的な奴です」

「なるほど。すげぇかっこよく言ったっぽいけど、要は神のお遊びに俺が必要だと」

「ま、まあそうですね」

「まあいい。一応続きを聞いてやろう」

「あ、ありがとうございます神様」


 女神がそれ言っちゃう?


「では。こほんっ。私達神は悠久の時を過ごしています。様々な役割を持って世界を管理しているわけですが、それでもやはり娯楽が必要になります。寧ろ、娯楽がメインと言って差し支えません」

「差し支えてください」

「差し支えないのです。はい。それで此度、とある神がある提案をしました。

『いやぁそろそろいつもの使い回すのも限界だし、違うことしねぇ? 面白い考えがあってよ。人間に神それぞれの神性に由来する能力を与えて、競わせる。舞台は、後で決めるとしてな』」


 いやぁ、神が少し軽いのは共通という認識でいいのか。神だし、軽いか。


「という訳で。私は能力を授けるにあたり、カナデさんを選んだんです」

「ほーん。で、それに参加して俺にメリットはあんの? 」

「そ、それは勿論。神ですからね。願い事を一つ叶える事になってます」

「まあ、興味はない」

「っ! ?」

「が、死んだままよりかはましか」

「で、では」

「ああ。そのお遊戯に参加してやんよ」

「あ、ありがとうございます! 本当に! 適正者がただでさえ少ないので」


 しくしく、しくしく。妙に芝居掛かったリアクションなんだよなこの女神。なんか、なんというか。そう、この感じはどこかで。


「では早速ですが、能力を授けます。これは恩恵ギフトと呼ばれるもので、異世界においては固有能力として認識させるものです。勿論神が授けるものですので、それ相応に強力なものが多いです」

「ほーん。で、エルはなんの女神でなんの恩恵をくれる訳?」

「『萌え』です」


 おっと。どうやら死んだ影響なのか耳が遠くなってるな。神が授ける強力な能力が恩恵。聞き間違いだろうけど、この女神はなんと?


「『萌え』です」

「なるほどな。火を操る能力か」

「いえいえ。可愛くキュンっ! の、『萌え』です」

「草木萌ゆる。つまり植物を操る能力」

「萌え萌えキュン! の、『萌え』です」

「……」


 オーケーオーケー。俺超クール、冷静だ。聞き間違いではなかったらしい。だとしたら? この場合取るべきリアクションは?


「どこが強力な能力なんだよ! 」

「え、ええ! ? カナデさんなら理解出来ると思っていました。日々萌えを探求していたカナデさんなら! 」

「ぐっ」

「適正者を選出する為に調べましたからね。女神ですから、全てお見通しですよ! カナデさん。あなたが萌えの探求者であることを! 」

「おい。その不名誉なあだ名やめろ」


 とは言うが、あながち否定出来ない。


 俺はこんな身なりをしているから、男らしく振る舞うよりも女の子らしく振る舞う方が様になった。だからこそ俺は自分に合った、言うならロリに属する振る舞いをしてきた。そりゃある程度の男っぽさ(口調とか)は残したけど、それも程よいギャップ萌えになった。

 俺がロリっ子ぽさを学んだのは、まあ、俗に言う『百合アニメ』だったり、『萌えアニメ』だったりする訳だ。男達を虜にするアニメの女の子達の仕草は、最早2次元設定に近い俺の『男の娘』という属性はマッチした。

 時にはボクっ娘、時には臆病に。ツンデレクーデレ。それからヤンデ……、イカンイカン、これ失敗だった。

 とにかく色々な属性を取り入れて、仮面にして、取っ替え引っ替えにしていたのだ。基本は素でいたが随所で人にあった属性を魅せて、ハートを鷲掴みにしていた。

 だから『萌えの探求者』というのはあながち間違ってない。


恩恵ギフト『萌え』は、カナデさんのその才能をさらに活かす事が出来るんです!」

「なに? 」

「『萌え』が持つ初期効果は2つ。

 1つ、『理想変化』。対象の理想の萌える容姿へと変化する。

 2つ、『虜』。萌えさせた対象の一時的なコントロール。

 以上が『萌え』の初期効果です。初期効果ですので進化したり増えたりします」

「なるほど。それは、いいな」

「でしょう! 」


 非常にいい。これは俺の限界を超える事が出来る恩恵ギフトじゃないか。今までは幾ら頑張ろうともロリの枠から抜け出す事が出来なかったが、これがあればぼんきゅっぼんにもなれるって事。即ち、今まで研究すれども披露出来なかった属性を試せるという事。素晴らしい、素晴らし過ぎる。


「よし。早速俺にその恩恵ギフトを寄越せ」

「は、はい! 」


 嬉しそうだ。本当に居なかったのだろうか適正者。


「汝、『萌え』を司る女神エルが見初めた使徒なり。その御魂に、我が恩恵を与える。ーー終わりました」

「ん? もうか? 随分とあっさりしてるな。ラーメン作るよりも早いじゃねえか」

「その比較はなんなでしょうか……。とは言え、はい。カナデさんには恩恵ギフトがしっかりと与えられました」

「なら早速試してみるか」

「え! ? 」


 なんとなくわかる。こう自分の事だからか? おお、わかりやすい呪文だ。対象は勿論エルだ。


「『我写すは理想の萌えなり』」

「や、やめて……」

「……」


 ……。あれ? 背丈は変わらないし、特に何かが変わった気がしない。うーん、姿見が欲しいな。


「エル。姿見みたいのはないのか?」

「あ、あったようななかったような〜」

「変化したかわからないだろうが。早く出せ」

「は、はい……」


 恥ずかしい。と、そう言ったのは気のせいだろうか。

 エルはまたしても指を鳴らすと、俺の目の前に姿見が現れた。現れて知った。


「うん。相変わらず可愛いな俺」

「は、はい! 」

「じゃなくて。おいこら、姿が全く変わってないんだけど? 」

「それは……だからです」

「なに?」

「カナデさんが……だからです」

「聞こえねぇよ」


 どんどん赤くなっていくエル。そして、何かが切れたのか、やや興奮気味に目を見開いた。


「カナデさんが私の理想の萌えだからです!!

 ああもう本当に可愛いですカナデさんどうしてこんなに小さくて白くて可愛いんですか羨ましいですいえ私がこうではいけませんからいいんですけどそれにしたって私の理想どんぴしゃりです」

「呼吸しろ呼吸」


 てか怖い。美しいお顔ですけど興奮して鼻息が荒いから怖いっ!


「す、すいません」

「別にいいんだが。それより、本当にこれは恩恵ギフトの結果なのか?」

「はい。ですのでカナデさん、しっかりと女の子・・・になっていますよ」

「は?」


 慌てて股間に手をやる。なん、だと。男の象徴がない。

 胸を揉む。……揉めちゃってる! 小さいけど柔らかい!

 というか、ということはですよ。


「お前ロリコンかよ! 」

「なっ!? 純粋無垢な少女が好きなだけです! 」

「それをロリコンって言うんだよ!」

「だとしても、私のスタンスはノータッチノーロリです! 私の汚れた心でロリには接触しません!」

「女神なのに!? 」

「汚女神ですからっ!」

「え、引くわ」

「真顔で言うのやめてくれません!? 一番心に来ました!」


 まさか、俺が仕える女神がロリコンだなんて。て言うか適正者って言うのも、ただ単に自分の好みを探していただけなのではないか? 究極のロリコンだ。


「こほんっ。とにかく、今ので『萌え』の力が分かって貰えたと思います。性別が変わったのですから、間違いありませんね」

「ああ。エルの性癖が分かった」

「それは置いておいてください! 」

「それは冗談半分として。『萌え』が本物だとは分かった」

「良かった」


 エルは一つ、息を吐いた。


「では使徒カナデ・イロシキ。貴方を異世界へと送ります」

「は?」

「数多訪れるでしょう困難に打ち勝つを信じていますよ」

「ちょいちょい。いきなりですね」

「では思う存分萌やして来てください!」

「だからお前は急過ぎるんだよ!」


 必死の抵抗虚しく、光の粒へとなっていく俺。どうやら本当に異世界へと送られてしまうらしい。


 色式花奏。異世界の人間達を萌やしてきますっ!!



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