awakening01-04
スゥスゥと静かな寝息がベアトリーチェから聞こえる。
俺とネサレテはヘラのところへ行き、用が済んだらまた戻ってこようと話した。
ヒュッポリテに案内されてヘラの家の居間に入ると、そこにはゼウスとガイアも既に居た。
「私の可愛い子達に被害がなかったのは良かった。ですが、私とベアトリーチェは怪我をしましたし、ベアトリーチェはせっかく授かった子を失ってしまいました。
どうやらヘラは元気なようで安心した。
ゼウスとガイアはソファに腰を下ろし、ヘラの話を気難しい表情で聞いている。
「こんばんわ。ヘラ様、ベアトリーチェをかばってくださったそうで、本当にありがとうございます」
「駿介、ネサレテ、そのことはいいのです。私はこの牧場を守ると約束しました。にもかかわらず、ベアトリーチェに怪我をさせ、さらに子供を失う結果となり申し訳ない気持ちでいます。私の力が及ばす……すまなかった」
神妙な表情で頭を下げるヘラに、こちらこそ申し訳ない気持ちになる。
デイモスがここを自ら襲ってくるなど俺も想定していなかった。
慎重になるべきだったんだ。
転移にクロノスが必要だったけれど、俺がテロリスト達の確保している間は牧場へ戻しておくべきだった。
クロノスさえ居れば、デイモスの侵入を早く察知できただろうし、そしたら慌てて対応しなくても済んだはず。
突発的な状況で余裕の無い中、ヘラはよくやってくれたと感謝している。
「いえ、私が甘かったのです。この牧場からクロノスを離すとき、十分な体制を用意しておかなければならなかった。まさかデイモス自身が襲ってくるとは思いもしていませんでした。ですが、考えておくべきだったのです。ヘラ様には感謝の気持ちでいっぱいです。お気になさらないで下さい」
「そう言ってくれると我も少しは気が楽になる。だがな? 守ると約束したのだ。神が約束したことを守れずにどうする。デイモス退治が終わるまで、ありとあらゆる手を使ってこの牧場を守ると改めて約束しよう。このヘラの名にかけて必ず守る」
俺とネサレテは深々と頭を下げて感謝の意を表した。
「ゼウス様。私の神力が次の段階へ至ったとクロノスは言いました。生じた変化の具体的なことはゼウス様に訊けとも。私に何が起きているのか教えてくださいませんでしょうか?」
話を聞いたゼウスは立ち上がり、俺の前まで近寄って手をかざした。
「ほう。想定していた種類とは違うが面白い力に進化したな」
「それはどういうモノでしょうか?」
「理不尽さと向き合う力だ。理不尽な状況に置かれた弱者の身に生じる悲しみや苦しみを和らげ、辛い状況を打破しようとする者を助ける力だな。ふむ、攻撃的な力はないが、相手が神でも人間でも慰め勇気づける力だろう。お前の言葉に力が宿るのだな」
「
「うむ、そのようなものだ。心を強化する力だから、劣勢な場面ではとても有効な力だ。しかし半神とは面白いな。ヘラクレスは挑戦を司る神となった。駿介、お前が神となったとき、何を司ることになるのだろうな。今回お前の神力が進化したことで、言葉に力を持つに至った。また、更に進化する余地が残っている。最終的な姿はまだ見えないが、多分、神々がこれまで持っていない力に至りそうだ。実に面白い」
身に纏ったウールの布をバサッと払い、腕組みをしてふむふむとゼウスは納得している。
「私も進化するのでしょうか?」
「おお、ネサレテか。お前もベアトリーチェもいずれ進化する。それは間違いない。駿介の妻であるお前や、愛人のベアトリーチェは、駿介に強く影響されるであろう。だから駿介をサポートする力になる。それは駿介にない攻撃的な力かもしれんが、まだ判らん。いずれにしても駿介を中心として、ネサレテ、ベアトリーチェでグループとなるだろう。進化する過程の神力は、絆に影響されるからな」
ゼウスの説明を聞き終え「ありがとうございます」とネサレテは俺の横で礼をする。
「しかし、
「はい。ここで罪が生じたのですから可能です」
「では、二度とデイモスがこの牧場に入ってこられぬようにせよ」
「ヘラ様とベアトリーチェにも纏わせることはできますが、牧場だけで宜しいのですか?」
「それも頼む」
「判りました。今夜中にお命じになられたことを為しておきましょう」
優雅で
「これでデイモスが侵入してきたら、奴はエリニュスの力に囚われその身から生気を奪われるであろう。つまり、動けなくなるのだ。また、ヘラとベアトリーチェに近づいても同じだ。消え去るまで生気を奪われる。駿介よ、これで少しは安心できるだろう?」
「はい、ご配慮に感謝いたします」
「うむ。次にガイアよ。ネサレテとベアトリーチェに加護を与えてはくれぬか?」
「駿介にではなくて宜しいの?」
俺の肩に手を置き、ゼウスは言う。
「こやつは我の加護の下にある。それに……クロノスとテューポーンとの絆も深い。絶対神クラス三名がこやつを守っているのだ。今でも過剰と言えよう。この上ガイアの加護は不要だ」
「でも、ネサレテとベアトリーチェも、クロノスとヘラの加護を受けているでしょう?」
「ああ、だが、ガイアの誓言の力が加護によりネサレテ等に与えられ、神力の進化に伴って発現するようならば、駿介の力と相まって心強い者達になるやもしれん。クロノスの力は時間と空間に影響するもので、ヘラからの加護は女性としてのあり方を補強するもの。預言こそできるようにならなくても、危機察知に繋がる力が発現すれば……まあ、どのような力が発現するかは判らんがな。」
「判りました。ネサレテ達を加護しましょう。ゼウスは、成長中の彼女達に期待しているのですね」
黙って頷いて、ネサレテにゼウスは笑顔を見せた。
「ところで……ゼウス様。今日は何故、そのようなヘアスタイルなのでしょうか?」
状況が状況だから口にして良いか悩んだが、やはり訊かずには居られなかった。
だって……ゼウスはアフロヘアなんだ。
いつもは多少ウェーブがかかった短めのスタイル。
そりゃ気にもなるだろう?
「あ、治してなかったか。……実はだな、ヘラに呼ばれるまで、中南米でウェウェコヨトルにダンスを教わっていたのだ。」
「それは判りましたが、どうしてアフロに?」
ウェウェコヨトルとはどこの誰なのか判らない。
だけど、どうせどこかの神だろう。
中南米と言っているから、マヤとかアステカ、インカの神なんだろうと想像する。
しかしそれもどうでもいい。
とにかく、何故アフロなのか?
それが気になるんだ。
「ん? 中南米でのダンスではこれが初心者のヘアスタイルだと言われたのだが……」
「失礼かと思いますが、そんな話は聞いたことありませんよ? もしかして……からかわれたか騙されたのでは……?」
「!? そういえば……ウェウェコヨトルは神々を騙して楽しむ性格だったな。これはやられたわ、ハッハッハッハッハ」
ハッハッハじゃないってんだよ。
どんなダンス教わってたのか知らないけれど、俺はデイモス関係の仕事して、その間にヘラとベアトリーチェが被害に遭っていたってのに、気楽にダンスしてんじゃないってんだ。
きっとサンバやルンバ、チャチャチャとかノリノリで踊ってたんだろ?
最近、天照と会っていたりもしていて、各地の神々と遊んでるようだが、もうちょっとピリッとした姿を見せてくれないものかねぇ。
まあ、今夜はネサレテ達がガイアの加護を受けられるようにしてくれたから、これ以上ツッコムつもりはないけれど、ほんと頼むよと言いたい。
道楽者の去勢神め!!
※ウェウェコヨトル : アステカ神話で、音楽・ダンスの神
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