counterattack01-04


 倒れている人を片手に一人ずつ抱えては、炎のあがる場所から離れた歩道まで運ぶ。

 半神の身体能力を解放した俺にとっては、軽い手荷物を持ち運ぶようなものだ。

 だが、相手は怪我をしている人間で、荷物ではない。

 慎重に運ぶ必要はある。

 抱えた人に負担がかからないよう注意して連れて行かなければならない。


 気をつけながら運んでは歩道に横に寝かせて、再び歩けそうもない救助を待つ人を探した。

 八名を歩道まで連れて行ったとき、クロノスの声が聞こえる。

 ネサレテに抱きかかえられてミニチュアダックスクロノスが来た。


「待たせたな」

「いや、いい。それより頼みがある。俺とネサレテを連れてこの爆発が起きる前まで戻って、爆発物を除去してくれ。一時間前でいい」

「わかった」


 ネサレテが俺の腕を掴んだと同時に、過去へ遡った。


・・・・・

・・・


 クロノスは、神とそれに類する者の過去は変えられないと言っていた。

 だから、爆発物を仕掛けたのが、ギガースの身体に取り憑いたデイモス本人であれば、犯人を見つけることはできないだろう。

 だがこの程度のテロを、デイモス本人が、俺達に発見されるリスクを犯して行うとは思えない。


 俺とネサレテは半神だ。

 例えば、抱えた荷物が爆発したところで、多少怪我するかもしれないが死にはしない。

 俺達にダメージを与えるという見方でなら、へラに殴られる方が有効かもしれない。

 俺達を排除するなら、強い神力しんりょくかそれと同じ性質をもつ力が必要なんだ。

 デイモスはギガースの身体に刻まれた記憶からそのことを知っているはず。


 爆弾事件を起こしたのはデイモス本人ではない。

 この点だけは確信があった。


「爆発したのは、この車とあれだ。爆発物だけ取り除いて……そうだな……周囲に誰も居ない太平洋のどこかで爆発させることはできるか?」


 クロノスに伝えて事件を未然に済ませることが可能かを訊いた。


「爆発物がどういうものか判らん。だから車ごと転送して爆破させてはいけないか?」


 爆弾設置された車は、多分、盗難車かレンタカーだろう。わざわざ購入するはずはないからな。

 持ち主には申し訳ないが、このままだとどのみち爆発させられてしまう。惨劇を起こしたのが自分の車という後味の悪い状態だけは避けられるので、それで良しとして貰おう。


 爆弾の処理方法は決まった。

 あとは車に爆弾を設置したのは誰かだ。

 駐車した人間の動きを追えば、犯人に辿り着くだろう。

 映像の逆再生のように時間をゆっくりと遡り、車を駐車した人を特定することにした。


・・・・・

・・・


 事件が起きる数十分前に、車は駐車されていた。

 二台の車に運転手が男性一人ずつ。

 東南アジア系? それとも中東系? 薄い褐色の肌からはそう見えた。

 濃い色のグラサンのせいで顔は確認できないし、年齢も推定できない。


 車から降りる際に、二人とも誰かとスマホで連絡をとっている。

 周囲を確認するように見渡したあと、駐車した車から少し離れた商業ビルに、肩からバッグを下げて二人は別々に入っていった。


 二人目が入っていくのを確認し、俺達はその後を追う。

 俺達の姿は、意識して見せる相手以外にはクロノスの力で見えない。

 それは過去に遡って誰かを救う時と同じだ。

 監視カメラにも映らないのは、うちの牧場で実験した際に確認済みだ。


 おかげで相手に見つかることを恐れずに後を追える。


 ビルの二階には、あたりを見渡せるようなガラス張りの喫茶店がある。

 そこから状況を観察するつもりなのではと、ビルに近づきながら考えた。

  

 今回は、犯人二人の姿を画像と動画に残すことが目的だ。

 残したデータをもとに、武田やライト、そしてミハイルに犯人を追わせる。

 犯人はテロリストだ。

 うまく捕まえられれば、彼らの手柄にもなる

 もし彼らの手に余るようなら、その時は俺が動く。

 

 それにしても、アテナはどのようにして爆発物があると知り、警告できたのだろう?

 あれがアテナの異能なのだろうか?


 というか、俺達を見張っていたのかよ。

 見張っていなければ、警告もできなかっただろう。

 まあ、おかげで助かったからいいんだけどさ。

 一言教えてくれていてもいいと思うんだよな。


 これからの方針を決め、アテナのことを考えながら、ビル正面のエスカレーターに乗る犯人を俺達は追った。

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