第86話 戦さの行方

 戦いが長期戦になると西部の国は負けるのが必定。短期決戦が身上のダッシュガヤであったため、次の一手を模索して居た。そんな時、相手側からの停戦、和議の申し出にダッシュガヤの周りの将軍たちは喜んだ。だが、当のダッシュガヤは浮かない顔で使者の口上を聞いて居た。


「何を条件に和平を望みますか。食糧ですかね。それとも領土か」

「いや、これまでの我らに対する恥辱、晴らすための戦い。この点は譲れませんぞ」

「だが、今優勢といえどもこのままだと劣勢になりかねん」

「その通りでござる。我らの食い扶持は残り後僅か。心細いものでござれば、やはり相手の申し出を飲まずして、このままでは済むまいと思うが」

「どなたも勝てるお話をなさいませんが、ここまで来たのにはそれなりの覚悟あってのことだと思うのですが。必ず勝つとなぜおっしゃいません」

各部族の代表者は現状をよく知っている。もう跡が無いことも。だが、ダッシュガヤは別の思いが沸き立っている。


「ここはひとつ、二人に会ってみよう」

ダッシュガヤは思い立つと、使者を立て、場所と話し合う相手を決める交渉の場を求めた。帰って来た答えは明日、朝八時にミランダ、ソレア、中つ国の大臣バルバが立会い、ダッシュガヤお一人で来られたし。戦場に天幕を用意する、であった。このためダッシュガヤは了解の旨を相手に伝え、ただ黙って座って居た。


 黒龍グエルが現れないのはどうしたもんのか。もうここには来ないのかと西部の兵たちは話し合って居た。だが、ここまで来て、黙って帰る事は出来ない。もう少しだけでも良い交渉をダッシュガヤがしてくれる事を皆願って居た。


 天幕が引かれ、交渉の場が設けられた。三対一の状況にダッシュガヤは怖じもせず堂々と席に座った。

「ワハハハハ。この状況は如何かな。我らは何を得られるのか聞きたいものだ」

ダッシュガヤは平然と切り出した。

「これはさすがにダッシュガヤ殿。面白い事を言われる。あなたの手下は八割を切り、兵糧は底を尽きかけている。このまま居座り続けると言われるのだろうか」

大臣のバルバは呆れ返って話す。

ミランダとソレアはダッシュガヤが、本来の目的と違う目的でここにやって来た事を知っていた。

「引くつもりは無いのだな。奴らも大変な大将の下に付いたものだ。血も情けもないのか?残念な事だ。この戦いはもう先が見えているのでは無いのか」

ソレアが諭す様に話すと急に笑い出した。

「そこのしわがれた女は思う相手に相手もして貰えず、衰えて死んで行くだけさ。我はその様子を見に来たのじゃ。哀れよなあ」

その言葉にソレアが怒りを禁じ得ず、殺してやろうと立ち上がりかけたその時、ミランダがウフフと笑い、話し始めた。


「そうよね。私ってばかよね。あんなに愛されていたのに。自分で苦しんで。悲しくなちゃうわねぇ。人はいつか死ぬ。あなたも私もいつか死の時を迎える。これはこの世の理。でも私は苦しい時、悲しい時、側にいてそっと見守ってくれる愛する人がいたと言う事実がある。あなたはいたかしら。いたのなら私の言う事を理解出来るとは思うけど」


ダッシュガヤは下を向き、手をワナワナと握りしめ震えていた。

「ここに来た目的、果したわね。でも、苦しむ結果になった?だが、お前が一廉の支配者ならばこの戦を終わらせ、多くの者の命を尊べ。引くんだろう」

ソレアのこの厳しい言葉にダッシュガヤはキレて言い放った。


「お前たちの死に様を見せて貰うさ。キッチリこの戦いの決着をつけてやろうじゃ無いか。我に後があるとでも思うてか」

怒りに流され、ダッシュガヤは立ち上がり自陣に帰りかけた。この時、天幕の後ろに控えていた将軍の一人が、天幕から出て来たダッシュガヤに平伏し、和平を嘆願した。


「カクガ、お前がなんと言う事を言うのか。黙れ!」

ダッシュガヤを諌めるため、縋り付いて頼んだ。蹴られても殴られてもダッシュガヤの服の裾を握りしめ、背一杯の気持ちを込めて頼んだ。周りの兵たちは何が起こっているのかわからず騒ついた。

「わかった。カクガ。それなら・・・・」

ダッシュガヤは、ニラオニを抜くと首を刎ねた。首は空高く飛び、地面に転がると瞼を二、三回動かした。転がる首を一瞬見たが、すぐに剣から血を拭き取ると悠然と自軍に帰って行った。


 自軍に帰り着くと将軍たちを呼びつけ、決戦の火蓋を着ると宣言し、将軍カクガの副将軍エキタを将軍に昇進させ、先鋒を命じた。

「わかりました。命に代えましてもご命令を実行いたします」

エキタは拝命を受け、指図通りの場所に自軍を配置させた。この事は些細なことのように思っていたが、この事でこの大戦の行方が変わってしまうこととなってしまった。

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