第63話 洞窟の一夜

 洞窟に着き、奴らの持ち物を調べていた。その内の一つを見て子供達が「あっ」と言った。

「これの事か」と尋ねたら、そうだと答える。

「これはなんだい」

「これは火起こし機だよ。この辺ではこれでないと火は起こせないんだ」

「そうか。では頼もう。火を起こせ」

俺はそう言うと他の持ち物を調べていた。


ミランダは一つのメダルを手に持つと繁々と眺めていた。

「これは誰の持ち物でしたか」

「こいつか。確か前から三番目か四番目ぐらいに倒れていた奴が持っていたように思うが。これがどうかした?」

「これは確か虹の一族の住むあの山を、西に越えたところの集落で流通していたコインです。こんな物がこんな所で見つかるとは。涙が出て来ます」

ミランダは昔を思い、感慨にふけっているのだろうか、ずっと見つめていた。


 火もつき洞窟内は明るくなって来た。ソレアは剥いだ皮を洞窟の出口に貼り付け、風が入らないようにと細工していた。火の周りに肉を立て掛け、塩と胡椒で味付けしたカモシカの肉は香ばしくも焼けて来た。

「ぼちぼち焼けて来た。さあ、食おうぞ」

ソレアが俺の右手に座る。左にはミランダが。


 俺の右と左にミランダとソレアが座り、肉を食えと俺に差し出す。それを見ている子供達。火から遠くに座るので寒いだろうと思っていると、ソレアが三人を火の前に連れて来た。

「俺たちを食うつもり。食べないって約束したでしょう」

「ワハハハハ。お前達みたいな骨と皮では美味しく無い。だから食わん。安心せい。だから肉を食え」

ソレアは焼けた肉を男の子に差し出し、口に放り込んだ。その子はお腹が減っていたので旨そうに食い出した。すると二人の女の子が男の子の顔を見て首を振る。でもそれを見ても男の子は食わずにいられなかった。


「美味いだろう。ここの肉は動物の中で一宇版うまいとされている。サーロインだ。さぱりとしていて油濃くなく、柔らかい。そこしか焼かないのだからうまいんだよ」

ソレアが言い聞かすと男の子はただ黙って頷くだけだ。焼けた肉を口に入れ食べ続けていた。

「何してるのよ。そんなに食べちゃって。太ったら食べられちゃうでしょうが、そんな事も分からないの。バカ!コギリのバカ」

「何言ってんだ。こんなに美味しい肉を食ったらやめれないよ。キミヤちゃんもコウヤちゃんも食べて見なよ。美味しいんだから」

こうして三人の子供は肉を食べ始め、腹一杯になったらしく手から肉を離した。


 ソレアもミランダも笑って見ていたが眠たそうな三人を見て、ソレアはコギリをミランダはキミヤとコウヤをそれどれ抱き寄せ眠らせた。三人は不安ながらも温もりからか眠ってしまった。


「こ奴らには俺は恐ろしく見えるらしい。ミランダ殿も同じようだが」

「ソレア殿も優しいのに」

「いや、俺も怖いと感じているよ」

二人は俺を睨みつけ、腕を強くお互いの方に強く抱き寄せた。柔らかい胸に腕が当たり、ちょっと困る俺。

「いや。優しいとも感じてはいるよ」

この言葉で二人はニコリと笑い、腕の力をを緩めた。


「だがあの男達は多分多くの国から出て来た者の寄せ集め集団だ。考えられる答えは一つ。勇者の敗残者。残酷な現実を見た思いだよ」

「私もそう思う。勇者は白い花を手にするまで帰れない。ここで行くもならず、帰るもならずの宙ぶらりんな状況に置かれているんだろうと思う」

「俺は、もしそうなら早く国に帰ることを勧めてやりたい」

「俺もそうは思うが、どうしたものか」

「旦那様、そんなことはどうでもいい事。寒いので抱き寄せて頂けません」

「そうね。私もそう思うわ。抱いて貰わないと寝付けません」

そう言うと二人は俺に抱き着き寝息を立て出した。俺は火を消さないように薪をくべながら、勇者の敗残者に思いを馳せていた。

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