第55話 謁見の間

 アイラ族は戦闘民族だ。体はコシ族よりも小さい。だが、コシ族が領土を拡大する中、アイラ族の国「アの国」との国境はこの50年昔と変わらず動かせないでいた。第三王女ケイロ・カナ・カグロイヤは、常々父王からアの国の強さを聞いており、どの様な国作りをしているのか興味があった。だが国の中を見ても一向に理由がわからなかった。


「いや〜ぁ。良く来たねえ」

出て来た王は、姫の顔を見て開口一番優しく声をかけてくれた。

「いえ。ガル・ザグレ・アイラ様。急な申し出に恐縮致しております」

「そんなに固くならんでも良いじゃろうが。ワシもこの二、三日余りに難民が急増し、どうするか思案に困っておる。何か訳が有るのなら説明願おう」

「王よ。我が国は滅びました。ここに携えました証書は我が父カン・カナ・カグロイヤからのものであります。どうぞお改め下さいませ」

アの国の王は書面を読み、考え込んでしまいました。首席大臣であるアリテイヤに小さな声でこの書面はどの様な意味があるのかと問いかけました。アリテイヤは答えて曰く。

「これは国譲りの証書でありますな。それ以外のものではございますまい」


「姫、正直に答えてくれ。そなたの国は強大無比。周りの国々を悉く食らい大きくなった。北はガイダス、ゴの国を呑み込まんと軍を進め、強敵なき東と西は切り取り放題で大きくしていたではないか。その様な国が国譲りの証書を持たせてくるとはどういう風に受け取ったら良いのか。分からんのだよ。教えてくれ」

姫は横に控える少年を手招きをして王の前に立たせました。

「さればでございます。王の疑念もっともなことと承知いたしております。ここにおりますのは西の大国セザーンの王子、我が従兄弟殿、名をクルト・デル・ト・セザーンと申します。我が国共々滅びました。あの憎っくき化け物により滅ぼされたのです」

「さて、どうしたものか。なぜこの様なものを我が国に持たれたのか」

「怪物は、アイラ族の女戦士ソレア殿が命で動くとか。王のお力でどうかお止めいただけないでしょうか。我が国は滅びました。この証書があれば全てあなた様のもの。国境に押し寄せる民もあなた様の民となりましょう。どうか慈悲深くご配慮を願います」


王は感慨深い面持ちで姫を見た。

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