第50話 復讐の戦い
俺はカールを呼んだ。
「誰かに今の奴らの後をつけさせろ。このまま終わるとは思えん。何かあるはずだ。捕まる危険は犯さず、遠くからで良い、奴らがどうするか見て来てくれ」
「わかりました。でも次きたらどうしたら良いのやら」
「カール。君達だってきっと強い。いや奴らに勝てるよ」
「エッ。本当に思ってるんですか」
「だってこの前の地震の時、多くの命が奪われたと言わなかったかい」
「はい」
「だったら君達は強いんだ。この湖の事が知りたい。どんな岸辺があるのか。色々とね」
カールは湖の地形や植生など多くの事を教えてくれた。
「それならカール、こうするんだ。こうしてこうして。奴らがこう来たらこう逃げて、この淵に誘い込み、沈めるんだ。ここでは闘わないで、逃げる事」
待ち伏せる30箇所を決め、猟師達の再度の来訪を待った。待ち伏せで勝てるかどうか不安で震えるゲルニカも多数いたが、カールは俺の指示を自信を持って部下に命令していた。
「カール。君達でも、いや、君たちだからこそ、勝てる事もあるんだ。諦めたら負けだ」
「はい」
「一度勝てば、自信がつく。勝てばまた戦いたくなる。そんなもんだ」
やはり村に帰った男達は復讐に燃えて再度山に登って来るらしかった。カールの部下の鳴き声が山々に響き渡った。
「100人の兵隊とさっきの連中と別の猟師の一団が三方からやって来ると、言っております。アキオ様の所には兵達が100人。後は猟師達が・・・・・」
「カール、怖いのは分かる。けれど考えてごらん、水の中で人がどれだけ我慢できるか。君達はずっといても大丈夫だろう」
「いいえ。5時間ほどです。ずっと入ってると死んでしまいます」
「まあ、人は一分ぐらいさ。慌てるともっと短くなる。バクラが襲ってくれば逃げれば良いだけさ。できるだけ多くのゲルニカ達を使い猟師達を水の中に引き摺り込む。カッパみたいにね」
「カッパ?それは強いのですか」
「強い?そうだね。強いというよりも怖いって言った方が当たってるかな」
「カッパ、そうカッパ。俺たちはカッパになるんだ」
カールは変に力強くカッパという言葉を連呼した。どうもこの言葉の響きが気に入ったらしかった。カール達は計画通り森にちって言った。
「さて、段取りをつけようか。3人で頼みに行こう」
ガジガルに3人で頼みに行く。合図を送れば火を吐いてくれないか、相手は兵100人で、一回で良いと頼んで見た。
「アキオと。わが命尽きようとしてること先ほども申した通りだ。お前達の来訪はこの俺にとって歓びとなった。ここに来てわが宿命の意味が、何となくだけどわかった様な気がして来た。意地の悪い事を言って悪かったと思っているのだ。俺の気持ちは喜びに踊っている。ありがとうと今お前達に言おう。お前の合図には喜んで火を吐こう。が、その前にアキオ、お前に渡しておきたいものがある。手を出せ。これは竜の戦士だけが手にする事ができるものだ。只の人が持てば破滅するであろう。心してその手に握るのだ。さあ、受け取れ」
「これは?」
「これは聖なる玉。シグレットと言う。俺はこの玉を聖なるドラゴンから与えられ、この玉をふさわしき者に渡せと命を受けた。これを渡す者の来訪を待ち続け、もう命の火の灯火が消えかけた時、お前達が現れた。クルドとか言ったが、あやつはこれから成長するであろうが、今はその時でないと思う。お前が見て、立派になったと感じたら与えてやってくれ。それまでは渡すでないぞ。待ち続ける事に疲れ果てていた。やっと心残りもなく、バクラへの恨みも消えた。アキオ、頼んだぞ」
ガジガルはその後何も言わず、動かず、ただの岩の様になっていた。俺は本当に死んだのかと心配していた。シグレットと言う玉を握り、眺めながら考え込んでいた。人の手にも握りしめられるほどの小さな玉は、不思議な光を放ち続けていた。革の袋に入れ首から下げた俺は、二人に戦いをどの様に導くのか話し合った。二人は流石に歴戦の戦士だけあってほぼ同じ考えであった。違いと言えば、ミランダが弓を基本に考えるのと、ソレアが斧を武器に戦う違いであった。だが、奴らは100人の兵だ。身体が大きく、上背があるものが盾を揃えて集団で向かって来るなら、3人ばかりでは手こずると俺は考えていた。この考えに二人は同意した。
「確かにゴウガは一人だったので後ろを取って、奴のケツを蹴っ飛ばしてやった。倒れた奴は怒り収まらず、襲いかかって来たので頭を斧で割ってやったのだ。コジ族は単純で短気なものが多い。腕は差ほどではないのだが、体が大きくて近隣諸国に恐れられている事をいい事に、強いと自惚れているに過ぎないのです。ですがアレが横に並んで押し寄せたのなら、確かに手こずるでしょうな」
「ソレア殿。あなたが仰る通り。集団戦は個々の能力よりも如何に連携を取るかに力を入れます。我ら虹一族は盾に守られ、弓で射殺すのです。ですからどこかに綻びが出来れば最悪です」
「二人が強いから俺クルドの横で見てるわ」
この言葉を聞いて二人は笑い出した。
「イイですとも。そこで見ていて下さい。私とソレア殿、どちらが多く敵を倒すか数えて下さい。依怙贔屓しないでね。ソレア殿の分を公正に数えてあげて下さいね」
「何を言う。ミランダ殿。旦那様は俺よりもそなたの方の肩を持たれて当たり前。だいたい俺が80人、そなたが20人。ミランダ殿には悪いがこの勝負俺の勝ちだとここで宣言する」
「ハイハイ。分かりました。後でお泣になりませんように」
「ふんっ」
二人は顔を背け、喧嘩別れでもした様な雰囲気で左右に別れた。立ち位置はガジガルの前、30メートル。ソレアは盾を左手に持ち、斧を地面に突き立て悠然と立っている。ミランダはと言うと、矢を30ほど右てに突き立て弓を弾いて調子を見ていた。
やがて森のはじがザワザワと騒がしくなり、人影が現れた。大きな盾を持ち、金属製の甲冑を着込んだ兵達であった。手には長槍を持ち、陣形はギリシャ、スパルタ軍の様な密集陣に見えた。二人の姿を認めると50人の二列の陣形を作り、近ずくと30人三列、後ろ10人になった。隊列が止まり、盾と盾が開いたところから隊長と思われる兵が出てきた。
「私は戦士ジサクの弟、カサクだ。お前がソレアか」
「そうだ。俺がソレアだ。カサクとやら、お前はまだ若い。兄の元に行くには早すぎると思うぞ。さっさと帰れ。身の為だ」
「確かに兄は一人で戦った。だが、俺は100人で戦うのだ。お前達に勝ち目はないと思え。わが隊はこれまで一度も敗北をした事がない。北の攻防戦でもコジ強しの立役者だと讃えられ、王からこの剣を賜った。今なら命を助けてやろう。降伏しろ。嫌なら悲しい目に合わせてやるぞ」
「ふん。尻が青いくせに大きい事だけが頼りの小僧が。お前の様なものを我らアイラでは皮袋と言うのだ。言葉にせず撃ってこい」
カサクは隊列の後ろに下がり、30の盾が密集して前進して来る。ソレアはたったまま動かない。ミランダは矢を十本放った。向かって右手の10人の目を狙った。全ての目を射抜いた。慌てたカサクは10人を追加させて隊列に並ばせた。顔を隠して、前進させた。ミランダは足の甲を狙い矢を放つ。20人が前に倒れた。
「おう。恐ろしい」
兵士達は慌てて、20人を後ろに下がらせて、30人二列で再度前進して来た。身をかがめ盾を前面に押し出して来た。後ろのカサクが指示を出し、それに従うだけの隊列であった。ソレアもミランダもカサクの視界から消え、クルドの陰に隠れた。ガジガルの前に70人の兵が押し寄せた。
「ガジガル。頼むよう」
アキオは大きな声で合図をかけた。カサクは何事かと不審に思ったが、前に敵がいると思い込み、大岩に追い詰める気持ちで一杯であった。勝利を確信した正にその時、ガジガルが火を吐いた。それは火山の噴火に出会った様な有り様で、全ての兵士は焼け死んだ。
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