第48話 共闘
ガジガルは知らんふりをしていた。クルドは俺の言う事に賛同した。ガジガルを燃やし、その煽りで木が燃えてしまおうが関係ない。焼け残った実か黒焦げの実のどちらでも良いから食いさえすれば課題が達成される事の方を選んだ。俺たちはガジガルの前に立ち宣言した。
「これから融通の利かないドラゴンの火葬を執り行う。ガジガルよ。言い残すことはないか。あれば聞いてやろう」
この俺たちの言葉にガジガルは不敵な笑いでこたえた。
「ワハハハハッ。この俺を燃やすって。誰が出来るものか。出来るくらいならもう出来ているわ。何匹かのドラゴンが俺に火を吹きかけたがチョロチョロだったわ。今そこに見える小さなドラゴンよりももっと大きかったができなんだわ。さあ、やってみろ。出来るものなら、さあ」
「アキオ。やっても良いのか」
「良いさ。今までとこれからは違う。やるだけやろう」
「それじゃあ。やるか」
俺は言い知れぬ不安を感じた。何故だろうかと考えてみた。それで思いついた。俺の不安が何か分かった。あの硬い木の実を焼いた時の事が頭の片隅で騒いでいたんだ。思い出し、慌ててクルドを止めた。
「やっぱりちょっと待て。お前の力の出し様では後ろの木が吹っ飛ぶこともあり得る。ちょっと実験してみようぜ」
ガジガルは笑った。
「俺は大丈夫だ。さあおいで。後ろの木がどうこうなるもんじゃあない」
俺はクルドに湖の対岸に見える大岩に火を吐いてみろと指示した。クルドは少し羽ばたき上昇すると力一杯火を吐いた。クルドの吐いた火は球となり湖面を輝きながら飛んでいった。その岩に当たるかと見ていると、跳び越え後ろの山裾に当たった。ガジガルは火の玉を目で追っていたが、大岩に当たらなかったのを見て鼻で笑った。と、次の瞬間、大音響と共に山裾が砕け散った。ガジガルはその様子を見て、目を見張った。
「クルド。外しちゃダメじゃないか。あれではガジガルに当たらず、大事な木に当たった事になる。木の実はなくなっちゃうよ。気を付けてくれ。もう一度やるんだ。今度は当てようぜ。そうすれば、どれぐらいでガジガルがお陀仏になるかわかろうと言うものだ」
二人で話ししてるのを聞いていたガジガルは言った。
「悪かった。お前の名前はクルドとか言ったな。あの火の玉を吐ける奴はなかなかいない。俺の認識不足だった。お前ならあの憎いバクラをなんとか出来そうだ。どうだろうか。俺と一緒に奴をやっつけてくれないか。頼む。俺にはもう時間があまり残されていないんだ」
「何故そんなに簡単に心変わりをするんだい。火の玉ぐらいでおかしいよ」
俺のこの言葉を聞いてガジガルは首を降り、静かに話した。
「あの火の玉を楽々と吐けるドラゴンは滅多にいない。そして、あの威力、俺が今まで見た中で一番すごかった。許そう。さあ、木の実を食べたいだけ食べてみろ。だが、俺の願いを忘れるな。あまり無理をして食うんじゃないぞ。死んでしまう者も過去にはおったのじゃぁ。心して挑め」
焼けた実ではなく本生を食えるんだから嬉しいが、さてどれが熟しているかわからない。困っているとカールがどうしたのかと俺に話しかけて来た。
「実はドラゴンが食っても良いと言ってるんだが、どれが美味しいか、どれが熟しているかがわからないんだ。カール、君分かるかい」
「当然。今見えてる実は全て熟しているよ。ここ何年、誰も採ってない証拠だよ」
「じゃぁ。採って来てくれないか」
「良いですよ。アッ、ダメです。ドラゴンが食いつきます。誰も帰ってこれませんて」
「お〜ぃ。ガジガル。カールたちに取りに行かせても良いんだろう」
ガジガルの了承を得てカールたちは100人がかりで収穫をしてくれた。クルドの前には68個が並べられた。クルドは美味そうに食い始めた。一個、二個、三個と食べ続け68個もペロッと食ってしまった。
「クルド、体の方は大丈夫かい」
「ああ、だけどまだ食い足らないんだ。もっとないのか」
このクルドの言葉に発奮して、彼らなりに木を見回りあと10個ばかり実がついているのが分かった。湖に面してる所だったからゲルニカの連中は嫌がったが、カールが自分から行くと言ってくれて収穫が始まった。一個、二個と取込み、あと一個で全て終わると思っていた時、湖面が盛り上がり大きい影がカールを飲み込んだ様に見えた。ただ木の実はクルドにちゃんと10個差し出され、クルドは美味そうに食べ終えた。
俺やミランダ、ソレアはカールの姿が消えたその時、「アッ」と、声をあげた。家来のゲルニカの連中も悲しげに声をあげた。ケロケロと悲しげに大合唱をする彼らにミランダ、ソレアも勇者を失った思いで黙祷していた。
「誰か死んだのか?皆の者。だが、主だった者はいるではないか」
俺たちが振り向くとカールがそこに立っていた。
「お前は立派な奴だ。勇気を讃えよう」
ソレアはカールを肩に抱き、勇者として褒め称えた。ゲルニカたちは喜びの鳴き声を高らかに響かせた。その声は山々を越えて響いて行った。恐ろしき狩人を引き寄せるとも知らず。
クルドは腹一杯食い、微睡みの中に落ちようとしていた。俺が問いかけても答えず、とうとう意識がなくなり石像の様に動かなくなった。
「おい、クルド。ダメみたいだな。寝てしまってる」
少し考えてガジガルに尋ねてみた。
「実を食べた者はどうなるんだ。こんな状態が起きるものなのか」
「アキオとか言ったな。俺が知ってる限り、78個も食べた奴は知らないんだ。だいたい一つも食べ切れないことが多いのだ。それをこんなに食って大丈夫かと見ていたんだ。が、大丈夫だろう。俺にはこいつが大丈夫に思える」
手でさすったりして、心配そうにクルドを見ているとガジガルは言葉を継いだ。「多くの生き物は体が変化する時、眠っている様に見える事がある。だが変化はあるんだよ。再び動き出す時解るものだ。竜の戦士よ」
「竜の戦士?どう言う意味」
「知らんのか。これは失礼をした。今に解る」
ガジガルはもう何も喋らなくなった。
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