第46話 湖の秘密

ゲルニカの大婆は話し始めた。

「この湖が出来てより、四百万有余の夜を数えて今日を迎えます。はじめは小さな湖でありましたが、二匹のドラゴンが戦い、今日の様な姿になったと言い伝えられております。赤いドラゴンと青いドラゴンは力の限り暴れ回り、大地は裂け、天空に多くの物が吸い込まれ、それはこの世界が終わる時の様であったと伝わっております。赤いドラゴンは火を吐き全てを焼き尽くし、姿を北の空に隠しましたが、青いドラゴンはこの世界の生けるもの達を憐れみ、大地に残された大きな亀裂に水を注ぎ込み、今の様な形になったといい伝わっております」


大婆は少し話を終えて、目を閉じて何かを思いやる様な仕草をした。

「そうして百夜過ぎた頃、湖のほとりに一本の木が生えて来ましたのじゃ。それが聖なる木で御座います。この木には何故かやって来るドラゴンの数だけ実が成ります。それを求めてドラゴンが訪れ、我らに許しを請い、食して帰って行くのが続いたおりました。そんなある時、一匹のドラゴンが実を二つ獲ろうといたしました。早い者勝ちを理由に二つを食べたのです。これは許される事ではありません。我らはこのドラゴンに抗議いたしました。木の実は一つ、自分の物だけを召し上がる決まりです。これは青いドラゴン様がお決めになった条件ですと、伝えました。するとそのドラゴンは怒りに任せて我らに火を吹きかけたのです。その為多くの者が焼け死にました。全てが焼け死ぬと覚悟した時、そのドラゴンが苦しみ始め空中から湖に落ち込み、いまの怪物バクラとなったと言われております。奴めは元ドラゴン。湖の中で手足は無くなり、羽根も消え、体だけが大きく変化したのです。悲しい事です。後から来たドラゴンには事情を話し、また後で来てもらえる様に話ししましたが、話終わらぬうちにバクラに食われました。湖面からガバッとせり上がり、一口で飲み込んだのです。「どうだ、これで文句を言う奴はいなくなった」とバクラは我らに嘯き、湖の底に沈んで行ったと言う事です」


「ふ〜う」と息を吐きながら、大婆は思いを手繰り寄せる様に話し続けた。

「何匹ものドラゴンが食われ、事の重大さを認識したドラゴンの上位の方がいらしゃって、バクラを退治しようとなさいましたが、何を思われたかそのままお帰りになられました。そして、今に至ります。聖なる木には実を求めるドラゴンが訪れては、目的を達成して帰って行きました。が、バクラに食われ腹の中に消えたものも数知れず。その中の一匹があのバクラに食いつかれ、半身を食われながらも生き残り木の前に居座っております。ですから木には多くの実がついております。それは食われたドラゴンの心残りの品なのです」


「大婆、聞くが、その木の前のドラゴンは何を条件に実を採らせるのか」

「それはドラゴンに聞いてみてください。ドラゴンにより条件は違います。勝手に木に近ずくドラゴンを食いますのでお気をつけてお行きなさいませ。決して良識あるものではありません」


話終わると大婆は挨拶を済ませ、供のものと帰って行った。


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