オタクカメコには撮らせたくない
そうこうしてるうちに、四方八方からカメコがドンドン群がってきて、栞里ちゃんの回りはごっついカメラを抱えた汗臭いオタクカメコたちでいっぱいになり、行儀よく並んでたカメコも
その中には、さっき栞里ちゃんを撮ろうとしたオタクカメコも混じってる。
そいつは栞里ちゃんの後ろに座り込んで、ローアングルからミニスカートのなかを狙ってる。
彼だけじゃない。
栞里ちゃんの注意が行き届かないのをいいことに、何人ものカメコが彼女の前後にしゃがみ込み、超ローアングルでカメラを構えてるじゃないか!
栞里ちゃんはどうしていいかわからず、オロオロするばかり。
くそ~~~っ、、、、、、
まるで、自分の恋人が
こんな眺めは耐えられない!
「バカヤロー! 最後まで責任持てよ!」
口惜しくて情けなくて歯ぎしりして、その光景から背を向けたぼくの腕を、ヨシキが掴んで一喝した。
「おまえがあの子をイベントに誘ってコスプレさせたんだろ。だったらちゃんと最後までフォローしろ。それこそ責任とれよ! 中途半端で投げ出すんだったら、最初っから関わったりすんな。このヘタレチキン野郎が!」
ヨシキは怒鳴りながらぼくの背中を小突いて、囲み撮影をやってる方へ追いやる。
くそっ!
言いたい放題言いやがって!
ぼくだってこんなのはイヤなんだよ!
なんだか熱くなってくる。
ヨシキに押された勢いに乗って、ぼくはそのまま撮影会の真ん中に突進していき、叫んだ。
「もうやめて下さい! 本人嫌がってますから! やめて下さいっ!」
栞里ちゃんとカメコどもの間に立ちはだかり、ぼくは両手を振りながら精いっぱいアピールした。
敬語で叫んでもいまいち迫力に欠けるけど、それでもカメコたちからはブーイングが上がった。
「ふざけんなよ!」
「邪魔すんなよ。時間ねぇんだよ!」
「どけよ! おまえなに様のつもり?」
「家帰ってオナってろよ! このデブオタがっ!」
「女の前でカッコつけて、キモいんだよ!」
「おまえにそんな権利あんのか? 嫌がってるのなら、本人が言えばいいじゃん」
そんな罵詈雑言を浴びせられると、こっちも燃え上がってくる。
「この子はぼくのツレだし、この服はぼくの買ったものだ! 文句あるか!」
「嘘つけ! このキモオタが!」
「嘘じゃないもん。この人、あたしのカレシだもん!」
栞里ちゃんはカメコ達にそう叫ぶと、ぼくの腕にしがみついた。
えっ? 『カレシ』って?!
「撮影はもうおしまい! みんなどっか行ってよ!」
栞里ちゃんはぼくに抱きついたまま、カメコどもを睨む。
さすがにカメコ達は萎えてしまい、みんなその場から離れていった。
「し、栞里ちゃん、ありがとう」
思わずお礼を言う。
『意外』といった顔でぼくを見つめて、栞里ちゃんはクスリと笑った。
「お礼言わなきゃいけないのは、あたしの方なのに。ありがとお兄ちゃん。また助けられちゃった」
「い、いや。ぼくがこんなコスプレなんてさせたから…」
「ううん。楽しかったよ。カメコさんたちがいっぱい集まってきた時は、ちょっと怖かったけど」
「ごっ、ごめん」
「でも、お兄ちゃんが助けに入ってきてくれた時は、ほんと嬉しかった」
「あれは…」
そう言って、ぼくはヨシキの方を見た。
『それもこれもヨシキのおかげだ』と言おうと思ったけど、ヤツはもう、そこにはいなかった。
まあ、いいや。
今日はヨシキにはほんとに世話になった。今度お礼を言わないとな。
「イベントはまもなく終了で~す。まだ着替えのすんでない方は、早く更衣室に入って下さ~い」
スタッフがコスプレイヤー達を急かす声がする。
「じゃあ、もう着替えておいでよ」
「うん。お兄ちゃん、ここで待っててね」
「う、うん」
そう言って振り返りながら、彼女は更衣室に姿を消す。
栞里ちゃんが出てくるのを待ってる間、ぼくはさっきの彼女の言葉を何回も何回も、思い返していた。
『嘘じゃないもん。この人、あたしのカレシだもん!』
じんわりと喜びがこみ上げてくる。
カメコたちから切り抜けるための、口から出まかせの言葉だったとしても、なんか嬉しい。
こんなデブサオタのぼくの事を、『カレシ』とか言ってくれるなんて。
「イベント、楽しかったな。またコスプレしてみたいかも」
ピンクのカットソーにミニのプリーツスカート姿に戻った栞里ちゃんは、『高瀬みくスーパーアイドル服』を抱えて更衣室から出てくると、ぼくの前で息を弾ませて言った。
「え? あんな目に遭ったのに?」
「お兄ちゃんが守ってくれるから、大丈夫なんじゃない? それに、こないだ買ってもらった服も、イベントで着たかったし」
「そうだね」
「また連れてってね」
「いいよ、、、 あ」
「え? なに?」
「いや… なんでも」
そう言えば、、、
栞里ちゃんに買ってあげたロリ服は今、ネットオークションに出品してるんだった。
すでに入札が入ってるから、今さら出品をとり止めるわけにはいかない。
「い、今着てる服も可愛いよ」
苦し紛れにぼくは言った。にこやかにしてた栞里ちゃんは、その言葉にはっとした様に瞳を見開いた。
“PPPP PPPP PP…”
その時、栞里ちゃんのスマホが鳴った。
反射的にスマホカバーを開いた彼女は、表情を曇らせ、電話には出ずにマナーモードに切り替えて、バッグに仕舞った。
、、、気になる。
そうやってシカトするなんて… 誰からの電話なんだろう?
栞里ちゃんはぼくから視線を逸らし、うつむいて言った。
「…この服。キライ」
「えっ? どうして?」
「…」
彼女はなにか考える様に黙り込んだ。
が、ふと顔を上げると、真剣な眼差しでぼくを見つめ、意を決する様に言った。
「お兄ちゃん、、、 話したい事があるの」
「話? いいよ」
「ここじゃ、話せない」
「じ、じゃあ、イベントが終わった後で、どこかのファミレスとかで…」
「お兄ちゃん
「えっ?」
「お兄ちゃんちで、話したい」
「ぼっ、ぼくんちで?!」
「ダメ?」
「いっ、いいけど…」
いったい栞里ちゃんはなに考えてんだ?
そんなに改まって、いったいなんの話があるんだ?
さっぱりわからない。
だけど、栞里ちゃんがぼくの部屋に来るのは、大歓迎だ。
今日は栞里ちゃんもたくさん話してくれたし、『この人、あたしのカレシだもん!』とか、『お兄ちゃんが守ってくれるから、大丈夫なんじゃない?』とか、好意的な発言が多いし、今までの失敗から、ぼくも学んだ事は多いと思う。
なんだか今度こそ、うまくいきそうな気がする。
でも、、、
麗奈ちゃんの時の様に、変なオチはないだろうか、、、?
『ちょっとミノルくんとお話しとかもしたかったし』と、彼女もそう言ってぼくを呼び出したし。
それに、『うまくいく』って言っても…
14歳相手に。
8歳も年の離れた女の子に。
やっぱり恋とかできるわけがない。
つづく
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