NTRシチュエーションには勝てない
その隣には、麗奈ちゃんに負けず劣らず可愛い、、、というより、超絶的に綺麗な女の子が立っている。
スレンダーで背が高く、ストレートのロングヘアとぱっちりとした瞳が印象的。
透き通る様に白い肌が、漆黒の髪とコントラストを描いてて、余計に華やかに見える。
ちょっとツンと澄ました様な、クールで勝ち気そうなイメージもあるけど、ミニスカートから伸びる脚は細くて長く、うっとりするくらいの美脚だった。
「ヨっ、ヨシキ!」
思わず焦って立ち上がる。
その拍子にテーブルに太ももをぶつけてしまい、コップの水が少しこぼれる。
「ご、ごめんっ」
いったいなにを謝ってるのかもわからず、ぼくの口からはそんな言葉が飛び出した。
セフレ(?)とはいえ、麗奈ちゃんはヨシキがつきあってる女の子だから、罪悪感を感じたのかもしれない。
「慌てんなよミノル。悪りぃな、デートの邪魔しちゃって」
ぼくと麗奈ちゃんがいっしょにいる事なんてまったく気にしてない様子で、ヨシキはにこやかに答える。
ぼくは麗奈ちゃんの方を見た。
彼女はヨシキにはまるで興味ないみたいに、窓の外を黙って眺めてる。なにも言わない。
「べっ、別に、、、デートってわけじゃないんだけど、、、」
いったいど~なってんだ? このふたり。
「ふぅん、、、 ま、いいや。あ、彼女はレイヤ-の美月梗夜(みつききょうや)さん。梗夜さん。こいつはぼくの相方兼親友の大竹稔。ミノルでいいよ」
そう言ってヨシキは、隣の美女をぼくに紹介する。
「はじめまして。こんにちは」
両手をきちんと前に揃え、美月梗夜さんは軽く頭を下げた。
張りのある綺麗な声だけど、とっても落ち着いた話し方で、礼儀正しい。挨拶のしぐさだけで、育ちのいいお嬢様だとわかる。ヨシキは続いて麗奈ちゃんにも、美月さんを紹介した。
「彼女はレイヤーの美咲麗奈さん。普段はエロゲーのコスが多いけど、最近はボカロメインでやってるよ」
「…こんにちは」
少し構える様に、梗夜さんはお辞儀した。
麗奈ちゃんはふたりに振り向くと、花の様に可愛らしい笑顔を向けて、明るく親しげな調子で言った。
「美月梗夜さんね。こんにちは。よろしくねw」
「よろしく。美咲さん」
「麗奈でいいよ」
「ありがとうございます」
「梗夜さんっていくつ? いつからコスプレしてるの?」
「17歳です。コスプレははじめたばかりで、まだわからない事が多くて」
「そう。なにか困った事があったらあたしに相談してね。力になるから」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「メアド交換しようよ♪」
「え? ええ」
「明日のイベントも来る?」
「行くと思います」
「そっか。会えるといいねw」
麗奈ちゃんはスマホを取り出し、美月さんとメアド交換の最中も、ニコニコと微笑みながら話してる。ヨシキと梗夜さんと鉢合わせてしまって、麗奈ちゃんはもっとピリピリしてるかと思ったけど、結構楽しんでるみたいで、なんだか拍子抜け。
「自己紹介が終わったとこで、おまえらと相席してもいいか? 賑やかな方が楽しいしな」
ヨシキはそう言って、ぼくの隣に座ろうとした。
だけど、麗奈ちゃんは立ち上がり、ぼくの手をとって言った。
「ゴメン。あたしたちもう出る所だったの。デートの途中だしね」
そう言いながら、麗奈ちゃんはぼくに目配せする。彼女に合わせなきゃいけないと思い、ぼくも急いで席を立ち、ヨシキに言った。
「じ、じゃあヨシキ。ぼくたちもう行くから」
「そうか? じゃあ、また明日」
「ミノルくぅん。麗奈まだ行きたいとこいっぱいあるんだ。もっともっと楽しもうねw」
ヨシキの事なんか眼中にないといった風に、麗奈ちゃんはぼくの腕にからみつき、これみよがしに甘えてくる。そんなふたりを見ながらヨシキは、冷やかす様に言う。
「ごちそうさま。あんまり遊び過ぎて、明日のイベント忘れんなよ」
麗奈ちゃんはふたりに愛想笑いを送ると、ぼくにぴったりと寄り添ってカフェを出る。あまりにもくっつき過ぎて、思わず彼女の足を踏んじゃったくらいだった。
店から出たとたん、麗奈ちゃんは憑き物が落ちたみたいにぼくから離れて、ひとりでスタスタと歩きだした。
まだまだ夏の日射しが照りつける秋葉原の街を、彼女は黙ったまま、足早に歩いていく。
なにか、ご機嫌損ねちゃったかな?
なんとなく気まずくて、麗奈ちゃんの後をついていきながらも、とにかくしゃべらなくちゃと思い、ぼくは今のふたりの事を話題にした。
「いや、、 びっくりしたね。まさかあんな所でヨシキと会うなんて」
「…」
「そう言えば美月さんって初めて見るけど、こないだの夏コミには来てたのかな?」
「…」
「麗奈ちゃんはイベントで見かけなかった?」
「…」
「ヨシキとはどうやって知り合ったんだろ?」
「…」
「美月さんって、美人だよね~」
「…」
「麗奈ちゃん?!」
「…」
「麗奈ちゃん?」
「…ホテル。行こ!」
「え… ええええっ?」
なんて唐突なお誘い!
どうリアクションしていいかわからず、絶句するだけ。
彼女は立ち止まると、ぼくの腕をギュッと抱きしめ、胸をくっつけて上目遣いで見つめて、湿り気のある声で言う。
「あんなふたりの事なんかどーでもいいし。今はミノルくんに夢中だから」
そう言って麗奈ちゃんは、さらに胸を押しつけてくる。
大きくてふくよかな胸の感触とぬくもりと、『ミノルくんに夢中』という心地いい言葉とが、ぼくの理性を麻痺させていく。
「ほっ、ほんとに?」
「うん」
…これってもしかして、『ヨシキの彼女(セフレだけど)を
ヨシキへの罪悪感が一瞬よぎったが、八方美人で『恋人作らない主義』のヨシキに、ぼくと麗奈ちゃんがエッチするのを止める権利なんてないはず。
ぼくは念を押した。
「れっ、麗奈ちゃん。ほんとにいいの?
「もうっ。女の子に何回もそーゆー事言わせないのっ」
彼女はすねる様に眉をひそめて頬を膨らまし、ぼくを見つめた。潤んだ瞳が色っぽい。
もう、どこまでも彼女について行きたい。
そんな想いとうらはらに、一瞬、栞里ちゃんの顔が脳裏に浮かぶ。
これって、栞里ちゃんに対する、裏切りにならないだろうか?
いや、、、
彼女とはもう、縁が切れたんだ。
今さら未練持ってもしかたない。
もうあきらめよう。
現実を見なきゃ。
今は麗奈ちゃんが、ぼくを慕ってくれてるじゃないか。
そもそも、ずっと憧れていた麗奈ちゃんからの誘いを、ぼくが断れるわけがない。
ぼくは黙ってうなずいた。
つづく
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