第29話 渡辺るな、ファンとの交流したるでー
「疲れたー!」
舞台裏にひいてきた渡辺るなは一リットル入りのコーラのキャップをあけてコップを使わずそれを一気飲み干した。
「あれー?」
渡辺るなは舞台裏に人がいるのに気づいた。たぶん自分と同じくらいの年齢の女の子。
「ここに人がいたんだ…ちょっとびっくり」
その女の子は、一リットルの一気飲みをしている渡辺るなを見て、少し固まっていた。
お、こいつの中の幻想のアイドル像が崩れたか?
目で頭からつま先まで一瞥していく。
靴 ビンボー臭いスニーカー。
ズボン 使い古したノーブランドのジーパン。
シャツ いたってフツーの1000円ぐらいのやつ。
顔、平凡。美人でないのは確か。どちらかというとオタク?
体格 ひょろ系。
ファンかもしれない人にはとびっきりの笑顔で神対応するのがセオリーだ。
だって…。こういうダサめなファンが人気を支えてくれるから。
「渡辺るなでーーーす☆にこっ」
「…」
「お名前は何て言うのかな☆にこっ」
「…ええっと…内藤みちる…です」
「そっか、みちるちゃんか。どうしてこの世界に来ているの☆にこっ」
渡辺るなはすばやく内藤みちるの右手を取り両手で包み込むようにやさしく握りしめた。目はまっすぐと内藤みちるを見据えていた。
「…ええっと…大学のフィールドワークできました」
内藤みちるは明らかにドギマギして声も小さくなっていった。
悲しいかな、芸能界って実はこの手のダサめなファンの支えで成り立っている。だから私には目の前のこの人が次のドル箱にしか見えない。
みんな!芸能界って人気者になって、イケメンと恋して結婚してウハウハって思っているかもしれないけど、甘いわ。それは甘すぎる!ほとんどのアイドルグループは恋愛禁止だし、相手はキモオタしかいないのに、外で恋愛できないなんて、まるで、キモオタの檻の中に入れられて監禁されているようなもんだから。おまけにキモオタがドル箱で、私たちのエサを握っているようなものだから、なんでこいつに媚びなきゃなんねーのって思いながらも握手とかするしかないから、忍耐以外の何物でもないって思うよね。ちやほやされたいから芸能界に入ったというのに、実際キモオタにちやほやされても…キモイとしか思えないわ。
でも、それでも神セブンに返り咲くためには猫の手も借りるしかないのも現状で。
だから、笑顔で握手でもするんだけど…ね。
「私、村長のホトケさんっていう猫の家でお世話になっているの。みちるちゃんはどこに住んでいるの?」
「あ、あの…。ミーコちゃんという女子力の高い猫の家にお世話になっています」
なんか、いろいろ利用できそうな予感…
渡辺るなの口元は明らかに悪い人の笑みになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます