第3話 津倉佐々美、にゃんこと会話してもいいかな?
「えーで、そのリアクション。ちょっとくらい驚いてくれた方がこっちも張り合いがあるってこっちゃ」
声が発せられるたびにデブ猫の小さな口元がむにゃむにゃ動く。やっぱりこの猫がしゃべっているのかしら?
「お嬢ちゃん、見いへん顔やな。異世界来るのはじめてやろ。まぁいろいろ教えたるわ」
「教えたる…って。ちょっとまって。猫なのにしゃべれるの?どうなってるの?AIBOの新種?AI使ってるの?スイッチどこ?」
「猫なのにっての失礼やなぁ。AIBO、犬やし。スイッチないし。もうガチオコやで」
「だって猫じゃない!!」
「ここはあんたらの言う異世界!猫がしゃべれてもなんの不思議もあらへんやろ」
「…」
「ついてきぃ」
「え?…その、どうしよう…というかどこいくの?」
津倉佐々美は迷いながらもすたすた歩くデブ猫の後についていった。
「俺の名前は田中ショコラや」
ぷ。
津倉佐々美は思わず笑ってしまった。ショコラって…ショコラって…。おっさん猫がなんてしゃれた名前…。
デブ猫〈ショコラ〉は怪訝な顔をして
「初対面なのに失礼なやっちゃな。俺の名前がおかしいっていうんやろ。しゃーないやんけ。飼い主がショコラってつけよってんから。今でいうドキュンネームや。苦労するわ」
そういって、足早に歩いていく。
「俺も名乗ったんやから、お嬢ちゃんも名乗れ」
「わ、わたしは…。佐々美…です。津倉佐々美」
「ふーん、ササミか。まぁ俺はモモ肉の方が好きやけど。まあ、覚えといたろ」
おい、お前が名乗れっていったくせに…。ずいぶん上から目線な…
行く先々で黒い影が見えては消え、何か気配を感じた。なんだ?
デブ猫〈ショコラ〉は気にする様子もなく、足早に歩いていく。
デブ猫〈ショコラ〉について路地裏を進んでいくと、ある一軒の家にたどり着いた。家の外には洗濯物が干してあり、テレビの音が聞こえ、小さい子供の泣き声が聞こえた。
ただ、その声は猫の鳴き声でしかなかったが…。
「ずいぶん驚いているみたいやけど、この異世界のこと、知らんかったんか?もうちょっとそっちの世界でもニュースになっていると思ってたんやけどな。意外とここって人気ないんかな?それやったらちょっと寂しいなあ」
「シ、ショコラ・・・さん、ここって猫しかいないんですか?」
そうだろうと確信しながらも思わず聞いてみてしまう。ああ…なんだか怖いんですけど。
「そうやねん。お嬢ちゃん」
デブ猫〈ショコラ〉はもったいつけていった。
「昔は人間が住んでたねん。でもここの人間たちはお嬢ちゃんの世界とつながったとたん、このちっぽけな世界からお嬢ちゃんの世界へといってしもうたんや。人間に飼われていた猫だけがたくさん残ってしまって、仕方なく自立して生きていくしかなくなったというわけや。ほんま、人間は無責任やからまいるわ」
えええ!!!猫だけで生活って!そんな世界あり?
…でも、猫だけの生活って…、自立って…。ぷぷぷ
「お前、ちょっとバカにしたやろう?」
「いえ、そんなことは・・・。もごもごもご」
「猫もちゃんと自立できるんやで。普段は人間にスリスリしていたらうまくいくから楽な方をとってやらんだけや。猫やって本気出せばなんでもできるんや」
デブ猫〈ショコラ〉は、ひげをピンと立ててそういった。
はあ、そうですか。ここはそういう世界ですか。
津倉佐々美はなんだかやばいところにきちゃった気持ちでいっぱいになった。
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