寒い日にクッキーを一つ
よく冷えた朝のことだった。
檜皮色のカーテンの隙間から明るい日差しが覗いているというのに、部屋はちっともあったかくなかった。キルティング生地の袋に入ったトタンの湯たんぽを抱きながら、兄がのそのそとベッドを出る。カーテンを開けると、眩しいくらいの銀世界が広がっていた。まだベッドにいる妹を、揺さぶって起こす。
「ほら、もう起きる時間だよ。」
「ううーん」
妹はまだ半分眠っているようだった。体を起こして少し経ったら起きたようで、「うわぁ、外真っ白だ」とようやく外の景色に気が付いていた。妹も同じくまだ温い湯たんぽを抱きながら、二人で居間に行く。兄はアルミ製の鍋にミルクを入れて火にかけ、妹はストーブに火を入れていた。
「この前、砂糖少なかった」
「今日は気をつけるよ」
棚にある砂糖箱を出すと、鍋に砂糖を大さじ4杯入れる。食パンの片方に少しマスタードを入れたマヨネーズを塗り、レタス、ハム、チーズ、ゆで卵を輪切りにしたものを挟んでいく。妹はリンゴをくし切りにし、できたサンドイッチと一緒に並べた。この方が洗う皿は少なくて済む。皿がテーブルに並べ終わった頃に、ミルクは丁度良い温度になっていた。それを均等になるよう、マグカップに注いでいく。
「いただきます」
「いただきます」
サンドイッチは冷たくて食べにくく、少し焼けばよかったと後悔した。ホットミルクは温度も甘さもいい塩梅で、兄妹はひと口飲むたびに幸せなため息を付いていた。
「ゆうべは雪が降ったんだ」
「うん、雨の音がしなくなったと思ったら雪になってたんだね」
「寒いし、夜はポトフでも作ろうかな」
「あったかいもの!そういえば、お外出たい。雪積もったの今年初めてでしょ」
「あったかい格好してかなきゃ風邪引くよ」
「言われなくても分かってるよ」
そう言うと妹はリンゴをしゃくしゃくと平らげ、我先にと防寒具を出しはじめた。
食器を片付けると、兄も妹もお揃いのコートを着て、雪靴を履く。
「戸締りはいい?」
「全部確認したよ。早く早く」
白い外の世界へと飛び出す。庭も真っ白な新雪に埋もれていた。兄と妹は足跡で絵を書いたり、雪だるまを作ったり、雪玉を投げあったりした。ひとしきり庭で遊ぶと、今度は散歩をし始めた。
静かな町を、二人は歩く。兄はふと見た雪のかかっている黒い屋根に、粉砂糖のかかったクッキーを思い出した。瓦ならサクサクしてるだろうし、黒いからチョコレート味だろうか。
「あの瓦がクッキーだったらいいのに」
それを聞いた妹がはしゃぎながら言った。
「それなら、あっちの山はシュトーレンで、こっちの黒いお山はブラウニーだね!」
「今の季節にぴったりだ」
「お菓子の話したら食べたくなってきちゃった」
「あ、そういえば、昨日焼いたクッキーまだ残ってた」
「本当?じゃあ帰ろう!」
手を繋いで、来た道を戻っていく。帰ればクッキーの甘い香りが、二人を待っている。
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