第8話 先輩対後輩

 二人の先輩対四人の俺たち。

「当然、隼人が先行して俺が後詰ごづめ。その後ろで穂見月が主に隼人を回復と、基本通りに並んでいこう」

 長三郎が作戦を立てる。この状況に少し燃えてきたのだろうか?

「では長三郎、短剣のあたいは何をやれば?」

「霞は四属性を揃えるための、おまけだな」

 長三郎が霞をからかって言うと、

「そうか! 任せとけ」

 ……納得したようだ。

 仕方ないので、俺が変わりに言う。

「相手は二人だから、どっちかを霞が抑えていてくれれば勝ち間違いなしかな」

 これに長三郎のふて腐れが、また出てしまう。

「いくら堀田先輩や松下先輩が俺たちより強いって言っても、三年の部隊に入れないんだからそこまでだろ」

 言い過ぎたと思うが長三郎がそこまで言うのは、部隊編成が大きく二種類に分かれていたからだ。それは、生徒なのに正規職並みに実務が多い三年生四人と二年生二人の部隊と、一年を育てることに重きを置く二年生二人と一年生四人の部隊という編成であった。

 だから、堀田先輩と松下先輩が上位の組に選ばれなかったことを引き合いに出して、舐めた発言をしているわけだ。


 三人は、入学前から実務をやる事を噂で聞いていたらしいが、俺は違い謎の敵と命がけで戦うと初めて知ったのは部隊棟で顔合わせをした際、堀田先輩から説明を受けたときだった。

 そんな、入試に合格した時点でも知らず、だから入学式での校長先生の話を聞いても理解できなかった俺からしてみれば、経験したことのある者とない者の差であり、強いも弱いもなく先輩たちはただ格上の相手でしかなかった。


 屋内訓練場、開戦の時間だ。

 多少起伏はあったが遮蔽物がないこの施設で、俺の後ろを長三郎が縦に並んで進む。堀田先輩も松下先輩も正面からくる。

 堀田先輩が俺に上段から打ち込んでくるので、こちらも上段から打ち込む。交わった刀と剣で押し合いをしていると、簡単に松下先輩に抜かれてしまう。

 今、通過した道筋なら、松下先輩は薙刀で俺を攻撃できたように思えるが、手を抜いているのか?

 そのまま松下先輩は長三郎の方へ行くので、長三郎は松下先輩を正面にして向き合う形になった。

 一対一では俺も長三郎も、押されるばかりだ。

 見かねたとばかりに霞が参戦して堀田先輩の後ろに回ったので、俺は挟み撃ちにできると思った。

だが、

「隼人君、長三郎君が!」

と、穂見月の声がするので長三郎の方を見ると、長三郎の鎧はたび重なる攻撃に耐久性を落とし、もう終わってしまいそうだ。

 このままでは長三郎が脱落して、また一対一に戻ってしまう。

「霞! 頼む」

 俺は堀田先輩を霞に任せ、長三郎の応援へ向う。

 俺と長三郎は松下先輩を二人がかりで攻撃するが、鎧に蓄えられた属性力はすでに残り少なく、どんどん落ちていく状況を変えられない。穂見月は一生懸命回復をしているが、俺と長三郎を交互に回復していては損害を上回る回復は到底できなかった。

 俺と長三郎の鎧の属性力がなくなったところで試合終了だ。

 負けた、勝負にならなかった。

 そして、最後に堀田先輩から言われる。

「自身の体力や技術がないと、防具の属性力を維持する戦い方ができないからね。その部分は普通の武器で戦う場合と同じで、練習し鍛えてもらうしかない。そのことは伝えておくよ。では、それを話したところで今日は解散にしよう」

 こうして今日の訓練は終わった。


 後日の実技訓練でも長三郎はふて腐れていたが、問題を起こすようなことはなかった。

 そんな状況でも訓練では、慣れるにしたがって互いの位置を確認しながら進むようになり、目標を囲みながら移動するなど連携が必要なものもそれなりにできるようになっていく。なのでそれはよかったのだが、穂見月が弱音をこぼすようになっていった。

 訓練が終わり準備室に戻る途中、

「回復、間に合っていないよね。私じゃ無理じゃないかな?」

だなんて、穂見月が言うもんだから、

「回復量は属性値の合わさったものだから、訓練することでの伸びも大きいはずだよ」

と、俺は必死に励ます。

 準備室に着くと、そんな穂見月と困っている俺の様子に、松下先輩がめずらしく真面目に話をしてくる。

「穂見月、回復量が必ずしも問題になるとは限らないのよ。訓練では回復中に攻撃されないし、あの場所は地形と呼べるものがないから単純に回復量だけの問題になちゃうけど、現場ではそうでもない。遮蔽物を利用して対象に近づいたり、隠れて自分を守ったりすることも必要だから周りを見る感覚もいる。それに一回あたりの回復量が少なくても、保有属性力が多ければ回数で補えるわ。つまり、自分が得意な戦い方を探し出すことが重要ってことなのよ」

 回復量があれば力押しできる可能性は高い。でもそれだけではダメで、他の持ち場を任されたとしてもそれは同じである。

 話を聞き、穂見月が落ち着いてくれるのはうれしかった。でもこんな風に、戦いのことを考えているが普通になっていく自分に不安を覚えた。

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