金髪ツインテールとアルバイト

長下慶

第1話 金髪ツインテール女子高生

 金髪で小さな耳みたいなショートツインテール、小柄で低身長の女の子は愛らしい声でこう言った。


「吉田つぐみです。よろしくお願いします」


 本当に愛らしい声だ。




「ああ……お金ほしいな……」

 

 清水光しみずこうはぼやいた。なんたって高校二年生、月四千円のおこずかいでは限界を感じていた。友達と遊ぶとやっぱりお金がかかる。はやりのゲームや映画を見に行ったり、食事に行ったり、趣味のカードゲームにかけたり、理由は様々だがお金がほしかった。


「よし! バイトしよう」


 清水は働くことを決意した。バイトするならやっぱコンビニかスーパーだなと思った。飲食関係は大変そうだし、なんとなくレジ打つだけだったら簡単そうだと思ったからだ。清水は近くのコンビニから求人情報誌を持ってきた。すると家から自転車十分のところのYOマートというスーパーマーケットの夜間求人が掲載されている。募集要項には未経験者、高校生歓迎の文字と時給九百円の文字が記載されている。


「時給九百円高いな、しかも未経験、高校生歓迎……フフフ」

 

 清水から笑みがこぼれた。


「ここしかないすぐ電話だ!」

 

 清水は携帯電話を手に取りYOマートに電話した。


「お電話ありがとうございますYOマートです」

 

 声を聴くかぎり優しそうな女性の声だ。


「求人情報誌を見て電話したものですが夜間のアルバイトって募集していますか?」

「はい、まだ募集しております。店長に代わりますね、少々お待ちください」

 

 電話を保留にしたのかおおきな古時計が電話越しに流る。しばらく待つと店長が電話に出た。


「お電話か変わりました店長の田中です。求人の件ですね。今おいくつですか」


 電話越しだが優しそうな感じ声の男の店長だ。


「十六です。」

「わかりました。面接をしたいんだけど明日とかどう? 十六時あいてる?」

 

 店長の田中は相手が年下だとわかると急に敬語からフレンドリーな感じなため口で用件を伝えてきた。


「はい、大丈夫です。」

「じゃあ明日十六時YOマートで履歴書持って来てね、待ってるからね~よろしく」

「はい! よろしくおねがいします」

「失礼しますね~」

 

 電話があっという間に終わった。


「なんか案外スムーズだったな、履歴書用意しなきゃ」

 

 清水は近所の文房具店で履歴書を、写真館で履歴書用の写真を用意した。明日はなんとなく楽しみになった。

 

 翌日、学校が終わると少し休憩してから制服のまま面接のためYOマートに出発した。もう四月だというのに少し肌寒く感じた。YOマートの店内に入った清水は


「さむ……」


 と呟いた。なんたってスーパーマーケット、食品を痛めないようにあちらこちらから冷気が漂う。近くにいた赤いエプロンをした従業員に、


「本日十六時から面接に来ました。清水です」

 

 と伝える。


「清水さんですね伺っております。こちらへどうぞ」


 案内された場所は事務室だったが、物が乱雑になっていてここで面接するのかと驚愕するくらい狭かった。しばらく待つと店長の田中が顔を出す。


「店長の田中です。今日はよろしくね」

 

 電話と同じでフレンドリーな店長だ。ただ巨体で男なのに巨乳だ。


「じゃあ履歴書をください」

 

 いよいよ面接が始まるとドキドキしていた。面接のためある程度受け答えは用意していた。志望動機、趣味程度だが…… 


「日曜の十三時から十八時って出勤できる?」

「あっはいできますけど……夜間バイトって聞いたんですけど」

「今、日曜日昼間、人いなくて困ってるんだよね、出れるなら夜間と他に日曜日だけ昼間でてほしいんだけどいい?」

 

 断ったら落とされそうな気がしたので


「大丈夫です」


 と答えた。


「君のシフトだけど火、木、金、日だけど大丈夫そう?」

 

 清水は帰宅部だったので問題なくOKした。


「じゃあ今度の日曜日が初出勤だ。十三時からね、十分前には来てね、あとその時通帳の表紙のコピーも持って来てね給料振込だから、あと服装は上はワイシャツ、下は黒のズボン、靴は動きやすいと思えばなんでもいいよ、じゃあ日曜日からよろしくね」

 

 清水は面接まったくやってないのに採用しても大丈夫かと思いも


「よろしくおねがいします!」

 

 と大きな声が出ていた。五分もしないで採用が決まった。大丈夫かなこの会社……と思う、清水だった。


 次の日曜日、言われた通り十三時の十分前にYOマートに到着した。YOマートに入りレジ付近まで行き従業員に挨拶をする。


「今日からお世話になる清水です。よろしくお願いします」

「吉田です。よろしくね。今日はあたしが一日あなたの教育するからね」

 

 と小太りの四十代くらいの吉田と名乗るの女性が挨拶を返してくれた。


「さっそくだけどこれタイムカードとエプロン、これ着てね、タイムカードはこの機械に出勤ボタンを押してカードを通すね」

 

 言われた通りに赤いエプロンを着て、カードを通した。


「じゃあ今からレジ研修するからね」

 

 レジ研修、簡単そうだと思っていたが……意外に大変だった。ただバーコードをレジに通すだけではなく、野菜と惣菜はタッチパネルで入力するようだ。惣菜の種類が多くて大変。一連の流れはこうだ。まず元気に


「ポイントカードはお持ちですか?」

 

 と聞く、ポイントカードをレジに通す、あとは割引シールが張ってある商品がないか注意してあったら割引ボタンを押し、重いものから下に積んでくようにレジに通していく、レジで合計金額がでたら


「ありがとうございます」

 

 の一言が重要。


「ありがとうございます二千九百九十三円になります」

 

 な具合だ。


 練習モードのレジで慣れてきたので今度は本番、お客さん相手だ。

 

 意外にも清水はお客さん相手でも苦戦することはなかった。なんでも積極的で学校の授業でもよくみんなの前で発表したり質問したりすることが得意だったからである。この日は十七時までずっとレジだった。


「お疲れ様、そろそろ夜のバイトの二人来ると思うからそん時にレジ交代するからレジの点検やってもらうからね。それはバイトの子来てからやるからね。あ……来た。こんにちはつぐみちゃん」

 

 吉田が挨拶したバイトの子を見て驚愕した。

 金髪!! 思わず口に出そうになった。


「吉田さん、こんにちは」

 

 つぐみちゃんと呼ばれる金髪女子は吉田に笑顔で挨拶すると同時に清水の方を見つめて誰だろう? という不思議そうな顔をしている。急いで挨拶をした。


「今日からお世話になります。清水です。よろひく、しくおねがいします」


 慌てて噛んでしまった。すると彼女はにっこりしながら


「吉田つぐみです。よろしくお願いします」


 挨拶する彼女に見とれていた。金髪で小さな耳みたいなショートツインテール、小柄で低身長の女の子、金髪なのにおとなしそうでおしとやかな感じがした。

 

 これがつぐみさんとの初めての出会い。

 

 その後、レジにてつぐみさんにレジ点検のやり方を教えてもらう。レジ点検というのはレジの中のお金が誤差がないか調べる作業だ。


 吉田つぐみさんなのだから吉田さんと呼べばいいのだが吉田さんは小太りのおばさんのほうを示すみたいなので、皆つぐみちゃんと呼んでいた。同じ苗字のためだ。清水はつぐみさんと呼ぶことにした。


 つぐみさんにレジ点検を教わる時すごいドキドキした。とにかく教えるのだから距離が近い今にもぶつかりそうだ。レジという狭い空間がそれをおしたてている。つぐみさんからいい匂いがする。女の子の匂いだ。なんだかうれしくなった。


 誤差なくレジ点検がおわると今まで清水がいたレジはつぐみさんが使う。そして


「お疲れ様です」

 

 と、つぐみさんが言ってくれた。なんだかまたうれしかった。

 

 レジ点検が終わってもまだ終了の十八時にはならないため残りの三十分は商品の前出しをすることになった。前出しとは売れた商品をその名の通り前に出す簡単な作業だ。そんな中夜間バイトのもう一人が出勤した。


「こんちわーす」

 

 と元気な声で挨拶してくれた。茶髪パーマで長身のスタイルのいいかっこいい男でなんだかびっくりした。


「つぐちゃん、こんにちは」

 

 茶髪パーマの男はつぐみちゃんのことをつぐちゃんと呼んでいた。

 つぐちゃん、だと……ドンだけ仲がいいんだと思いながら清水もつぐちゃんって呼んでみたいと思った。


「そっちの子新人?」

「今日からお世話になります清水です。よろしくお願いします。」

「俺、勝俣っていうんだ、よろしく! 専門学生だよ、君は高校生?」

「あっはい、高校生です」

「よろしくね」

 

 なんだかチャラそうだが優しそうな先輩だと感じた。

 そんな話をしてるうちに十八時になっていた。初日のアルバイトが終了した。

 

 店内が冷えていたこともありなんだかラーメンが食べたくなったのでラーメンを帰りに買うことにした。ついでにつぐみさんのレジに行って打ってもらい会話をしようという魂胆だ。おそるおそるつぐみさんのレジに足を運ぶ。


「こんにちは~このラーメン買います」

「あ、お疲れ様です。」

「高校生ですか」

「そーですよ」

「何年生なんですか?」

「二年です」

「僕と同じですね」

 

 清水はつぐみさんが高校生であること二年であることを確認した。


「これからよろしくお願いします」

 

 清水が仲良くなりたいという願いを込めて言う。


「こちらこそ、じゃあお疲れ様です」


 つぐみさんから買ったラーメンを受け取り


「お先に失礼します」

 

 と言って自転車で家に帰った。帰宅途中


「高校生で金髪っていいのかな?」


 一人呟いた。


 

 清水はまだ恋に落ちることに気付いてない。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る